あらすじ
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
丸く輪になって異動する転移、人や動物の心と繋がる同化、念じて空中を飛ぶ力などSFらしい発想も効果的で単純な物語の中にある夢や希望が、窮屈な人生の中で見る、小さな夢の物語になっていた。
ラゴスは北に向かって旅に出る。その途中の出来事や目的地についてからの生活などがやはり愉快な筒井SFだった。
彼の旅の目的は、北の大陸に先人たちが残した文化が、膨大な書物になって盆地の建物に眠っているということを学校で習い、それを読むことが目的だった。
今ある転移、同化、予知などの能力は先人が滅びた後に獲得した人々の智恵だった、そうした力を使いながら北の大陸に向かう。途中に出会う壁抜け男や、似顔絵書き、時には盗賊に会うこんなエピソードを挟みながら北の大陸にたどり着く。
語り部の老人にあい、その話から書物を探し当てる。
不思議な壁に囲まれた建物の中に書物が保管されていた。先人が滅びたのは、進んだ知識があってもそれを使う機械を作ることが出来なくなったからであり、発達した科学知識があっても材料資源や装置などが不足していたのが分かる。現状にそぐわない理論はやはり机上のみで終わる。それを支える資源はいつまでもどこにでもあるというわけではない、いつか高度で便利な生活は底をつく。
ラゴスは書物を筆写していくが到底追いつかない、旅で知り合った子供が成長するほどの時間が過ぎその子供が訪ねてくる。彼は、言葉を漏らさず記憶再生する特技があった。ラゴスは朗読して彼に覚えさせる。
そこで生えていた名もない赤い実がコーヒー豆だということを知る。それを売って盆地の国は栄え王国になる。国ができ指導者が生まれ国同士の富の格差が生まれる。
筒井作品の濃いSF性は余り感じられず、経済が潤い、国が栄え小さな村落から、体裁が整い政治も始まる。
しかしラゴスはここにとどまることはできない。帰るべき国があった。
北の王国を出て、南大陸の我が家に帰ってくる。そこで、旅の知識を使って文化を勧める。彼はその知識で尊敬され崇拝されるが、嫉妬や裏切りもある。父と兄とは不仲であり、兄はラゴスの知識を喜ばなかった。
ラゴスの心は世界を歩いて自由に暮らすことに向かう。父の書斎で見つけた放浪の画家の絵の中に、旅で心惹かれ今も忘れられない少女の成長した姿を見つけた。
北で学んだ知識、主に農業の知識を書物に書き残してまた旅に出る。
ラゴスは北の新しい国で結婚もする、しかし故郷に帰って知識を伝えたりする。だがそれはいつの間にか窮屈な社会のしきたりや人間関係に縛られていることに気がつく、ついにそこから開放され孤独の中で生きていく自由を選ぶ、一度限りの生き方として、もし出来れば、勇気があればそうして生きること、成長した少女の姿を求めることが理想的でとても美しく感じられる。
Posted by ブクログ
好きなひとがこの本はファンタジーだと言って貸してくれた。
夢のようなメルヘンで楽しい世界を想像して開いてみたけど、人間の嫌な部分だったり現実味のある家族の軋轢だったりが淡々と書かれていて、これはファンタジーなのかと同じところを何度も読み返したりする。
そういえば転移したり、馬が空を飛んだり、ものすごくファンタジー。ものすごくファンタジーなのに、それを超えるくらいの現実があった。
[王国への道]は知識欲が刺激されて自然と読むスピードが上がる。学ぶことは楽しいことだともっと早くに気づいていればな、と今になって思ったりする。
ラゴスが得た知識を明確に良い方向にしか使わないのが良かったし、ニキタとカカラニを可能な限り平等に扱ったのも良かった。終始善人なのが良かった。
長い旅の最後にたどり着いたのがデーデとの思い出だったのには驚いた。
あの時シュミロッカに留まって、デーデをちゃんとつかまえておけば良かったのに。そう考えたりもしたけど、ラゴスにとっての幸福はデーデと結ばれることじゃなくて、どこかに自分をきっと待っててくれている人がいるってことだったんじゃないか。
至極善人だと思ってたラゴスを少し傲慢だなと思った。
Posted by ブクログ
淡々とした語り口で、ラゴスの旅を描いていく冒険譚。スカシウマなどの架空の動物、転移という概念から、まったくの異世界物語と思いきや、現代人と思われる「進化した文明」を先祖に持つ世界ということが明らかになり、後半は進んだ文明の知識を得た人類が、自らの文明を進化させていく様を見る、タイムトラベル的な視点でも楽しめた。
どこか冷めたような印象を持つラゴスだが、知識を貪欲に吸収し社会に還元していく姿や、周囲の軋轢をうまく調整しようとする姿などは、妙に共感できるところもあった。どの地でも安住することなく常に次の地を目指し、老いた後は唯一の心残りであったデーデに導かれるように極北へ旅立つ姿は、1人の男としての憧れのような念も抱いた。目的地も終わりもない旅を続ける中で、人生という旅を紡いでいくというのは、世捨て人と思われるかもしれないが、ある意味で人の究極の姿なのではと感じた。
Posted by ブクログ
初めて筒井作品を読んでみたが、不思議な小説だった。
SFと呼ばれてはいるが、本作はどちらかと言うとファンタジー。マテ茶が出てくるのでおそらく南米あたりで、時代的には高度文明が滅びた後の、風の谷のナウシカのような、電気が発明される以前の頃という設定だ。
不思議だったのは、物語ではラゴスが一番最初に好かれたデーデという少女に、ラストにわざわざ会いにいくというエンディング。色々成し遂げて、歳もとり、もはや教祖にもなり得るような偉大な存在になっていたラゴスが、最終的に求めたのは少女デーデ。これが何を意味するのか、正直分からなかった。よく分からなかったが、氷の女王となった彼女は、ラゴスをおそらく待ち続けている。
Posted by ブクログ
ラゴスという人物について、この人はすごく頭がいい印象を受けた。自分のことを俯瞰してみることができて、周囲の人の人間関係も割と注意深く観察して、人となりを自分の中で落とし込んでいた。奴隷になりながらも、その中で自身のできることを発揮して、監視からある程度の信頼を得るのもこの人の知識があったからこそ。「知識」に対しては貪欲で、それを追い求めて旅を続けてきた。帰郷してからも、自分が学んだことを故郷や人のために教え、広めていた。基本的には、書物を読んでいただけなのに、医学や歴史、経済、政治と幅広い分野で知識を身につけている様子だったから、これもある種ラゴスの超能力なのかと思った。知ることには貪欲だったけど、好奇心が暴走することはなくて、社会への影響を考えながら改革を進める冷静な一面も見られた。発電機の発明は、「よく、あそこで止めることができたな」と思った。
最後はデーデに会えただろうか。
Posted by ブクログ
面白いけど、俺は興味ないけど、色んな女に好かれちゃって困ってちゃうみたいなのが終始気持ち悪い。
ゼーゼだけならギリ耐えられるけど、他にも色んな女が出てきて作者の性癖なんだろなーと言う感じがしんどい。
かと思えば急に主人公がまともなことを言い出すからびっくりする。SF的なことだけ書いててくれてたら私にとっては完璧だったなー。
Posted by ブクログ
ラゴスの旅と人生を書いた話。
物語は旅の途中から始まる。
序盤で出会ったデーデという少女がこの先のラゴスの旅と人生に深く食い込んでくる。
ラゴスは鉱山で七年奴隷に甘んじていたかと思えばポロではいつの間にか王になっている。妻が二人もできて子どもにも恵まれた。それなのに彼はまだ旅の途中にある。普通王になって妻子も出来れば旅は終わりそこに定住する人が大半だと思う。
でもラゴスはポロを発つ。25年ぶりに故郷に帰ってもまた旅に出る。そこにはずっとデーデの影がついて回る。彼の旅は彼の人生そのものなんだろう。
印象に残ったのはポロで読書三昧の生活をしていた時の「最先端の科学技術が一般庶民の生活感情と遊離するほどまでに進んだ社会は、必ず何らかの形で不幸に見舞われているのだ。」という文。現代でいうと例えばなんだろう、AIとかかな。ウラニウムが発見された段階で科学史の読み聞かせをやめた時はラゴスの聡明さを感じた。
全体的にのんびりとした世界観で癒された。個人的に女性より男性が好きそうな作品だと感じた。もしかしたら女性視点では不満を覚える点があるかもしれない。主人公がかなり有能かつモテまくるので現代のなろう系に通じるところがある。じわじわ良さが滲み出てくるような作品。また定期的に読み返したい。