あらすじ
松本サリン事件・東京地下鉄サリン事件では日本の警察に協力し、事件解明のきっかけを作った世界的毒物学者。
彼は事件の中心人物で、2018年7月に死刑となった中川智正と15回に及ぶ面会を重ね、その事件の全容を明らかにした。
中川氏との約束に基づき、このたび緊急刊行。
第1章 サリン事件解決に協力する
第2章 オウムのテロへの道のり
第3章 中川死刑囚との面会
第4章 中川死刑囚の獄中での生活
第5章 オウムの生物兵器の責任者、遠藤誠一
第6章 オウムの化学兵器の中心人物、土谷正実
第7章 麻原の主治医、中川智正
第8章 3人の逃走犯
第9章 中川死刑囚が語るオウム信者の人物像
第10章 上九一色村とサリン被害者の現在
第11章 オウム事件から学ぶ、将来への備え
第12章 中川氏最後のアクティビティ
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Posted by ブクログ
フォロワーさんがおすすめしていたので読んでみることに。
著者の方はもう少し若い方だと思っていたので写真を見てびっくり。Wikipediaを見てみたら2024年に亡くなられていて、中川もTu先生もすでにこの世にいないかと思いながら読んだ。
中川智正の内面についてではなく、あくまでもオウム事件の生物兵器・化学兵器についてを紐解いていく内容なので今まで読んだオウム関連本の中では一番淡々としているかも。ゆえになのか読みやすい。化学については薬品名とかたくさん出てきてちんぷんかんぷんだけど中川や土谷がいかに優秀かがよくわかる。
オウム真理教がはじめは遠藤中心に生物兵器(炭疽菌とかボツリヌス菌とか)を開発しはじめ、あまりうまくいかなかったので今度は化学兵器(サリンとかVXとか)を開発しはじめて、それが数々の事件に使われる。化学兵器はほぼ土谷が開発し、土谷なくしてはオウムの化学兵器はありえなく、だからこそ土谷は事件に直接関わっていないけれど死刑になった。
遠藤は元アメリカ海軍のダンジッグ氏からの面会を拒否し、自分が研究した生物兵器については一切語っておらず、その理由を中川やTu先生はうまくいかなかったことを今更語るのが嫌なのではないかと言っている。
中川は遠藤のことを呼び捨てにし生物兵器が失敗したのは遠藤が無能であるからだと思っており関係は冷えていたと推測されていた。遠藤と土谷も不仲であり遠藤は土谷は自分より下なのだからいうことを聞けといったりしていたとのこと。
遠藤は著者に「中川や土谷のいっていることは事実ではないから(自分のことを)悪く言わないでくれ」と伝えてきたとあり、他の本でも思ったけれど、幹部たちのお互いへの感情が絡み合って各々の発言や説明にいまいち信用がないのよね。みんなそれぞれが自分の都合のいいように物事を解釈している気がしてならない。中川は林郁夫は真実もたくさん話したがでたらめなこともたくさん話したと述べているし、逃亡犯の裁判の際、井上と中川ではまったく正反対の証言をしており、それは井上が死刑を回避するために、検察に有利なように証言しているからだと中川は言っている。
また、死刑と無期懲役の差についてもこの本ではよく語られている。死刑になるか無期懲役になるかは裁判官の感情と運に左右されるとあった。豊田は地下鉄サリン事件の実行犯だがそれ以外には事件を起こしていないし、横山がサリンを撒いた列車では死者は出ていない。けれど麻原と同じように死刑となり、そこに差はない。中川は横山は口下手で、林郁夫は口が達者だったから死刑と無期懲役とに差が出たと思っているようで、著者は林郁夫は自供のタイミングが良かったからだと書いている。
他にも第7サティアン建設の責任者だった人やVX殺人の実行役だった人など地下サリン以外の事件に関係した人の話やオウム裁判を担当した裁判官や被害者の会の方、上九一色村の人など色々な人の話が出てくるしその中身も興味深いものだった。
あと興味深かったのは、サリンの後遺症で、1年後より5年後10年後の方が報告が多いということ。ということは、村上春樹のアンダーグラウンドでインタビューではなんともないとか比較的軽いと言っていた人たちもひょっとしたらその後後遺症を発症して苦しんでいるのかもしれないと思った。
著者の人柄なのだろうが、この本は変に感情的でもなく情緒的でもなく、だからこそ読みやすくて、またとても興味深い良い本だった。