あらすじ
あまりにも巨大な竜グリオール
彼の上には川が流れ村があり、その体内では四季が巡る
“舞台”は動かぬ巨竜
唯一無二のシリーズ短篇集が遂に日本初刊行
初邦訳1篇、初収録2篇を含む全4篇を収録
全長1マイルにもおよぶ、巨大な竜グリオール。
数千年前に魔法使いとの戦いに敗れた彼はもはや動けず、
体は草木と土におおわれ川が流れ、その上には村ができている。
しかし、周囲に住むひとびとは彼の強大な思念に操られ、
決して逃れることはできない――。
奇想天外な方法で竜を殺そうとする男の生涯を描いた表題作、
グリオールの体内に囚われた女が見る異形の世界「鱗狩人の美しき娘」、
巨竜が産み落とした宝石を巡る法廷ミステリ「始祖の石」、
初邦訳の竜の女と粗野な男の異類婚姻譚「嘘つきの館」。
ローカス賞を受賞したほか、数々の賞にノミネートされた、異なる魅力を持つ4篇を収録。
動かぬ巨竜を“舞台"にした傑作ファンタジーシリーズ、日本初の短篇集。
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Posted by ブクログ
特徴的なファンタジー作品を読むたびに、人間の想像力の面白さを感じるのですが、この『竜のグリオールに絵を描いた男』もそれを感じました。表題作もそうなのですが、「始祖の石」という短編の発想は特にすごい。竜と魔法の世界で、法廷ものの話が展開されるなんて思ってもみなかった(笑)
そして、この作品集に共通する空気感も、またすごいのです。
魔法の力によって数千年もの間、その場を動けなくなった竜のグリオール。やがて竜の身体は草木に覆われ、その身体には村ができるまでになります。しかしグリオールは死んだわけでなく、そのあまりにも巨大な力は、たとえ動けなくても、人々の思考に影響を与えることができるそうで……
そんな世界を舞台にした連作短編が4編収録されたのが、この小説。
表題作の「竜のグリオールに絵を描いた男」は、もはや殺すことは絶望的とされたグリオールに対して、ある男が提案したグリオールを殺す方法とその行く末を描きます。その方法というのはグリオールに絵を描き、その絵に使われる絵の具の毒で少しずつグリオールを弱らせるというもので……
元々タイトルからして気になっていた作品でしたが、この計画自体もまさに奇想天外で面白い! さらにグリオールの身体に住む人々の文化や、奇妙な生物たちと想像力をかき立てます。そして、なんとも言いがたい後味の残る結末……
「鱗狩人の美しい娘」はグリオールの外ではなく体内の話へ。これは表題作以上に想像力がかき立てられます。なんとグリオールの体内にもコミュニティや独自の文明があり、そして外以上に奇妙な生物たちがいるのです。そしてグリオールの心臓であったり血脈であったりと、体内の異形でありながら、どこか幻想的で美しく、そしてときに厳しい世界にも、ただただ圧倒されます。
「始祖の石」はグリオールの影響によって殺人を犯したと話す男を担当する弁護士の話。
男とその娘の目的や関係性に徐々に迫っていく、という法廷ミステリ要素もありながら、終盤は証拠を求めての冒険ファンタジー風の展開に。主人公の正義心に恐怖と幻想に巨大な影も見え隠れする、これも特異な短編。
そして「嘘つきの館」
妻を殺し生きる価値を見いだせなくなっていた男は、ある日グリオールの周りを飛ぶ小さな竜を見つけます。好奇心にかられ男がその場所へ向かうと、そこには美しい女性がいて、そして二人の奇妙な共同生活が始まり……。
竜と魔法のファンタジーとなると、ゲームの影響のためか、自分はどうしても冒険ものの明るいイメージを思い浮かべます。しかし、この『竜のグリオールに絵を描いた男』に収録されている短編はいずれも、そんな明るさとは無縁。
初めはその雰囲気に「思ってたのと違うなあ」と戸惑いもあったのですが、徐々にその空気感が自分の中で、はまってきた作品集でもありました。
登場人物たちはもちろんそれぞれが、意思を持って行動します。しかし彼らには常にある疑念が絶えません「自分の行動は、グリオールによって決められているのではないか」と。
語り手たちの疑念、そしてふとした瞬間に感じる、個人ではどうしようもない圧倒的な力の圧力。それが物語に一種の緊張感や閉塞感を生み、どことなくダークで虚無的な雰囲気が物語全体を支配します。この雰囲気がなぜかどんどんはまっていくのです。ただ読み手は選ぶかも……
見えない巨大な力に操られる、そして操られていることを自覚しながらも先に進むしかない人々の悲哀を、この小説は暗に描いているのかもしれない、と感想を書いている途中に思いました。だから、この雰囲気が嫌いだと感じないのかなあ。
そう考えると各短編の登場人物たちのそれぞれの行く末も、なんだか納得がいく気がします。それは場面や意味合いは違えど、それぞれの世界や圧倒的な力からの解放を、示しているように思えるのです。
現代も、政治や経済、環境問題に災害やウイルスと、個人では太刀打ちできず、そして時に急に個人に牙をむく巨大な力はたくさんあるような気がします。
そんな世界と自分とを、グリオールと登場人物たちに重ね合わせシンパシーを感じる部分があるから、自分はこのグリオールの世界が好きなのかもしれません。
考えれば考えるほどに、様々な解釈が湧いてきそうな不思議な作品ばかりです。
圧倒的なまでの想像力と、その想像を描いてしまう描写力、そしてありがちなファンタジーとは一線を画したダークな雰囲気。そのため、読む側も結構想像力が必要ですし、このダークで虚無的な雰囲気も好き嫌いはありそうです。
それでも好きな人は、滅多にない物語体験が出来るのではないかとも思います。少なくとも自分は今までにない読み心地の作品ばかりで、とても満足度の高い小説でした。
Posted by ブクログ
本の出版が最近なので、新しい作家かと思ったらデビューは1984年だった。日本で紹介された頃が、ちょうど私がSFをあまり読んでいなかった頃なので、初めて読んだ。竜が存在した世界。竜退治の魔法使いの力が及ばず、グリオールを殺すことが出来ず麻痺させるにとどめた世界。横たわったグリオールの上に植物が生え、危険な生物が棲みつき、それでもグリオールは数千年の間、意識を持って生き続けてきた。その邪悪な意思は、付近に住む人たちの心に影響を与える。この世界での4つの物語が収められている。表題作の絵を描くという発想もすごいけれど「鱗狩人の美しい娘」に出てくる竜の内部の描写が素晴らしい。神秘的で幻想的。蠱惑的。そして私たちの自由意志ってなんだろうって、ちょっと不安になる物語。
Posted by ブクログ
ファンタジー。中・短編集。
『ジャガー・ハンター』を読んだ時の印象と同じく、文学的。
文学的な内面描写とファンタジーとの相性が良いかは疑問だが、特徴的な作風であることは確か。
冒険小説的な要素の多い「鱗狩人の美しき娘」と、サスペンス調の「始祖の石」が好き。他2作も十分満足の出来。
この作品に限らず、竹書房文庫の本は装丁がとても良い。
美しいイラスト。肌触りも好み。
Posted by ブクログ
全長2キロにも及ぶ封印されし巨大竜グリオールは、千年もの時を経て丘や町と化していたが、いまだに人々の精神に影響を与え支配し操縦していた…そんな舞台設定がまず魅力的。以下の4短篇集。
「竜のグリオールに絵を描いた男」4…綺麗に着地する酒場の小咄。
「鱗狩人の美しき娘」5…竜の内部に囚われた美人の役目とは?長篇並みの密度と満足感。
「始祖の石」4…法廷モノ。
「嘘つきの館」4…グリオールの子供を産む竜女と脳筋男。
ジャンルを縦横無尽に駆け回る自由闊達な飛翔力から『ハイペリオン』を思い出した。
Posted by ブクログ
どの話も常に淡々とかつどんよりしたテンションで、結局全部グリオールのせいだよね!になってしまうが確かにここまで大きな存在が常に傍らにあるなら自然とそういう思考になってしまうだろうな…と思った。あと結構すぐセックスするか一歩手前の展開になるのはお国柄なのだろうか…。
Posted by ブクログ
連作短篇集。動かぬ巨竜グリオールの上に暮らす人々が、数奇な運命に翻弄される。表紙に惹かれ、のどかな異世界ファンタジーを期待して読み始めたら、どんどん雲行きが怪しくなり……。巨竜の異様に不気味な存在感と、妙に生々しい人間側の傲慢さや身勝手さをたっぷり突きつけられる。性的・法的な禁忌も絡み合い、一つのジャンルに収まりにくいダークファンタジーで、かなり読む人を選びそうです。
Posted by ブクログ
凡作。読める文章ではあるが、面白くない。
タイトルからすごくワクワクしたのに、期待外れだ!
と星1をつけないだけマシだと思っていただきたい。
純文学という装いで提示されたら、別の評価をする。
『エンタメ』として提示されたら、精々が凡作。と言うよりほかはない。
具体的に評価できないポイントは『キャラクター』と『筋立て』の2点。
・キャラクターの描写が、ワークショップで習った技法なりに頑張ってるんであろうけど、血肉の通った人として読み取れない。外見以外の表現が、常に第三者視点であり、キャラがでてこない。
・キャラクターの内面の変化や人格が、訳文で読む限りにおいて、『作者が神の/現代人的な視点から描写した言葉』であって、『そのキャラならこういう言葉遣いでこう述べるだろう気持ち』で表現されていない。
・筋立てがもう……純文学すぎて、わあもう。
第1話:このタイトルで、どうやればここまで、「下らない人間の野心やいざこざを、だらっと描いてて、なんか政治の都合で工事中断したら竜も(原因不明のまま)死んじゃう。」という内容で終わらせ切れるのか。謎である。
第2話:神秘の竜の探索が全然、驚きも感動もなく描かれてて、平凡な人生の延長線上にある、やっぱり平凡で全く打ち解けない『何か』のように、退屈に描写できるのもある種才能を感じる。
しかもギミックとして登場する『蔓草』が、デウス・エクス・マキナすぎて面白くない。
第3話:法廷ドラマも、うん……、法廷ドラマですが……別にグリオール要らなくない?
あらゆる人のあらゆる行動が『竜グリオール』の影響下にあろうがなかろうが、「いずれ考えるのを止めて動かねばならない」のだとしたら、この話に背景画として描かれた竜は惰性で登場しているに過ぎない。
なお、ミステリ的な意味で評価すると、あらゆる部分に無理がありまくりで、話が破たんしないかどうかが、はらはらする。
第4話:変身したい男の苦しい言い訳が、「グリオールに影響されていた」なら、彼を吊るしたい人々の「グリオールを吊るすわけにはいかないから、お前は代理ね!」も通るという。不条理な社会の軋轢を最前線で人間に仮託した話と言えば言えるだろうが、これファンタジーで銘打ってやるべき話だっけ感がぬぐえない。
なので、エンタメ作品としては凡作。
文体はねちっこいというか細かくて重厚だが、キャラがイマイチ生きてる感じしない。評者的には好きになれないタイプなので、
「背景美術が荘厳な劇場で演じる大根」
という評価。
純文学的なテーマを追求するにも、キャラクターが生きてないわ世界に入り込みづらいわ、なので星3つとした。
Posted by ブクログ
表紙とタイトルで珍しく海外ファンタジーに手を出してみたけど、翻訳モノってセンスのズレが言語のせいなのか訳者のせいなのか解らなくてなんとも…
稀代の魔法使いと相討ちになり、生命を維持する以外の活動を停止している巨大な竜。殆ど大地と一体化しているその身体の周辺には街が出来…と云う設定勝ちなところはある。
或いはこの物語そのものがグリオールによって書かされている可能性だって見えてくる。解説にあるように、暗喩としては社会体制であるとかを踏まえて書かれているんだろうけれど、そういった状況が果たして良くないものばかりを生み出すと決まっているかと云われるとなんとも云えないわけで。
しかし現代ファンタジー、ってジャンルとしてあるのかしら?
いやでも現代ファンタジーって云うともっとそれらしいのは沢山あるような…異世界云々ってあれも現代ファンタジーなわけ? 要するに現行の世の中の仕組みをファンタジーに持ち込んで面白可笑しくする…ってなるとそれはもうアンチファンタジーなんじゃないかって気がするけど。
この間から、えすえふとはなんぞや、ファンタジーとはなんぞや、みたいな枠組みの話ばかり。
嗚呼、我がグリオールは何処。なんてね。
Posted by ブクログ
ルーシャス・シェパードの書いた、巨大な竜であるグリオールを中心に動く世界に生きる人間たちの物語を、全7作品中4作品集めた短編集。
後半になるほど面白くなっていく、スルメ作品だなっていうのが素直な感想。故に後半2作は本当に面白かったし、文章の書かれ方も大分変っていたように思う。冒険譚のようなものではないけど、ファンタジーの世界で生きる、巨大な竜に突き動かされる世界で生きる、人間味があったり、とてつもない存在だったり、闇が深かったり、キャラクターたちが繰り出すそれぞれの物語はとても魅力的だった。
自分自身もグリオールに、この本を読むことを強制されているのかもしれない。