あらすじ
短編出世作と不倫の性を描いた代表長編小説。
「冥府山水図」は己の絵の完成に生涯を賭した老画家の鬼気迫る執念と、到達点のない芸術の魔性を巧みに描き、“芥川の再来”とまで評された著者出世作の短篇。
東京山の手を舞台にした、広大な敷地に住む明治生まれの老父母、大正生まれの長男夫妻、昭和生まれの次男夫妻と、世代の異なる一族が繰り広げる赤裸々な人間模様を描いた「箱庭」は、一見平和で裕福に見える裏側に蠢く、性の衝動や空疎な関係性を生々しく描いた長篇意欲作。
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Posted by ブクログ
「冥府山水図」
現世にある雄大な大自然が
変化を続けながらも永遠の美を保つ一方
死のくびきを逃れられない我ら人間の芸術では
どうあがいても、永遠をつかむことなどできないのだ
だから我々は悩んでないで、もっと「いま」を楽しもうよという
俗物礼賛の寓話である
発表当時、芥川の再来と言われたらしいがどうだろうね
モチーフには「秋山図」や「戯作三昧」に近いところもあるけど…
「箱庭」
父、長男、次男の三人が
ひとつの敷地にそれぞれの世帯を持って暮らしている
基本的には良き大家族を演じつつも
ガールハントにふける次男、それを目撃して密告する長男の嫁
さらに、次男の嫁と姦通している長男と
それぞれの住人がそれぞれに小さな憎悪を隠しもって暮らしている
しかしそのうち父が死に
土地の一部は、父が創設にかかわった学校へと返還することになって
それをきっかけに次男の嫁が出て行ってしまう
次男は平気を装いつつも、傷心を隠すように赴いた海外出向先で
箱庭づくりに熱中しはじめるのだった
終盤、長男と次男の視点変換で互いの食い違いを書いたあたりは
いま読んでもなかなかいい
ちなみに作者の三浦朱門は「ゆとり教育」の推進者として知られており
昭和42年発表されたこの作品では
そこに至る思想の原点というべきジョン・デューイの理論が
紹介されている