【感想・ネタバレ】光の犬のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年02月26日

<poka>
歩が亡くなることはかなり最初ほのほうで示唆されていたが、亡くなる場面以降、冷静に読み進められなくなってしまった。落ち着いてから気を取り直して読み終えました。

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Posted by ブクログ 2022年09月04日

北海道の小さな町に生きた三世代の家族と、ともに生きた北海道犬の話。寒い土地を舞台にした静謐な物語。マクラウドの短編を思い出した。家族の分かり合えなさ。

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Posted by ブクログ 2020年05月22日

文体がさほど難しいわけではなく読みやすいのだけれど、物語が一つの家族の何世代に渡った時代のエピソードをちりばめながら進んでいくので、サーと読み流すことができず、じっくりゆっくり読み進んでいきました。ここまで作者によって計算された事なのでしょうね。久しぶりに読み応えがある本、しっかりと満足感のある本で...続きを読むす。

血族、親戚、家族間の複雑で細かいリアルな心理描写、作中に現れる様々な死の描写が、リアルで他人事ではなく、身につまされるというか、こんな家族が今現代の日本中のあちこちにありふれていて、日本の今の家族のリアルを突きつけ、嗤われているようで、ただ現実をしっかり客観的に俯瞰的にみさせてくれる、そんな助けにもなったような気がします。

ただ時代はどんどん進んでいき、近い将来にこの本も、昔の家族の在り方を教えてくれる貴重な資料の一つになるんだろうなぁと思いました。

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Posted by ブクログ 2020年03月05日

約110年!の物語。場所も時間軸も前後左右、自在にwarpします。が、惹き付けられてどの細部も素晴らしい。『沈むフランシス』表紙写真の犬、参考までに。

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Posted by ブクログ 2019年07月19日

デビュー作「火山のふもとで」は格調高い文学作品で、ブルジョア臭がプンプンしつつもそこがまた悪くない佳作でした。デビュー作でこれかよと目を見張りましたが、そもそも編集者な上に大昔に一度文学賞受賞歴があったようです。

本作は4作目にあたるようですが、今作もまた重厚な作品で、面白いとか楽しいとか、悲惨と...続きを読むか感動するというような分かりやすい要素がほぼ皆無にも関わらず、名作だと思いました。
4世代に渡る有る一家の物語で、色々な小さな波乱はありますが基本的に大きな波には至らず、皆時間経過と供にこの世から消え去っていきます。
人生ミルフィーユの一部を切り取ったという趣きの本で、誰かが主人公というわけでは無く綿々と続いてきた血脈が有る枝では栄え、ある枝では途絶えていく。その姿を一族の一人一人の視点で静かに見つめています。
年老いていく親族、若くして亡くなる兄弟。時間を行きつ戻りつして描くタペストリー、又は積み重なる地層は次第に厚みを増していきますが、読むうち気がつくのは各々の後ろに続く重厚で重みのある血の轍です。
読んでいると自分の一族の一人一人の顔が思い浮かびます。気持ちが沈み込んで静かになっていきます。悲しい訳ではないけれど心の中に小石がころりと転がっているのをじっと見ているような気持になります。
正直文学的な事に疎いのですが、紙面から立ち上る雰囲気に僕は文学を感じました。

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Posted by ブクログ 2018年11月24日

添島始に関わる人々の人生を描いた壮大な物語だが,北海道の枝留がベースとなっている.助産婦だった祖母のよねの話から始まるが,一枝,眞二郎,恵美子,智世が生まれ,眞二郎と登代子が結婚し歩と始が誕生する.歩はよねが取り上げだ.姉の歩は牧師の息子の工藤一惟と仲良しになったが,札幌の大学に進学した.歩は癌で若...続きを読むくして死ぬが,一惟が執り行った終油の秘蹟の場面が泣ける.それぞれの場面に北海道犬のイヨ,エス,ジロ,ハルが登場して,話を繋ぎ止めている感じで,それが題名に繋がったのかなと感じた.

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Posted by ブクログ 2018年09月07日

良質な本に出会えた時の幸福感を味わう事ができる本だった、読んで良かった。

静かな文体で淡々としているものの、一家3世代のそれぞれの人物の視点から描かれ、時空も切り替わるのでどんどんこの本の世界に入れる。登場人物達ゆえか、それから熱を感じない文体からか、とても冷え冷えとした空気が物語から流れて来て、...続きを読むそれに包まれるような感じで読み進めた。きっとこれは人が生きて行く中での切なさ、やるせなさを感じさせる小説なんだな・・と予感しながら。

歩の死は冒頭にそれらしいものが出てくるから予見はできてもそれでも驚く。そして最後の一椎とのかかわり。納得はいかないが、これで良かったのかな、とも。涙が出た。

タイトルに出て来る北海道犬の登場のさせ方も効果的。光を背にする母子の北海道犬のシーンは、この物語の雰囲気にぴったりはまって強く印象に残った。

この一家は途絶えてしまう。その過程を長く、ゆっくり読者の感情を道連れにしながら読ませてくれる本だった。

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Posted by ブクログ 2018年04月16日

小説を読んだ充実感が得られた。
好きな感じの小説だなととてものんびり読み進めていたが、歩の病気以降、一気に読んだ。
歩の死がとても悲しかった。一惟との関係は美しかった。あり得ないような、割とあるかもしれないような。
充実した生を、一緒に生きてるような感じで読んでたのが、こんなところで終わるのかい、え...続きを読むーあんまりだーととり残された感じがした。
眞二郎と三姉妹の老後の生活は身につまされた。
眞二郎の最期も辛かった。一般的な死に方などないとは思うが、現代の老人の死に至る過程は多くの場合こんな感じなんだろうなと思えた。
みんな生まれて死んでいく。
幸せな読書の時間が過ごせた。

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Posted by ブクログ 2018年03月22日

読み始めるといつも脳裏に映像が浮かんだ。
キャストは不明だが、画面の中で静かに登場人物が動き始める。
ときに言葉でなければ表現できない「風景」にも出会うのは、文学の醍醐味。
まるで一人の一生を書いた長い文章がハサミで切られたように分断され、他の人物のそれと無作為ににつなげたように思える構成。しばらく...続きを読む読まないと誰のことかわからないこともあった。
章の中に描かれた人物と、次の章の人物との関係を意図的に断っているとしか思えないくらい、時間も、時代も、場所も途切れたまま語られる。しかし、家族であっても、時間や距離をおいて暮らせばそのように過ぎているのだろうと思うと、この構成を巧みと感じる。
歩は北海道犬を愛し、異性からも好かれ、自分の師と思える人ととも出会え、望んだ職業にもつく。しかし、自分は結婚しないし、両親の面倒も見られないだろうという。

それぞれが死に至るリアルさが、胸にこんなにも迫ってくる。登場人物たちはそれぞれが消失点に向かって「一生」をかたちづくる。最後の消失点を背負っているのは自分だ、と始自身思うのだが、それとて最後が自分とは限らないと思い直す。
もう一度読み返したい。難解な意図がもう少しほどけるかもしれない。

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Posted by ブクログ 2018年03月08日

人と人の繋がりは、たとえそれが血縁関係に基づくものであったとしも、存外容易に失われてしまうもの、とそんな事をふつふつと思う。その切っ掛けは距離であるかも知れないし、交わす言葉の密度や量の低下かも知れない。断片的に切り取られた複数の登場人物の生涯を通して、関係性の危うさに真っ先に思いが向かう。そこに過...続きを読む疎や高齢化といった社会的課題が通底し、重苦しい空気が全体を覆い被さるようである。その空気の重さが小児喘息の発作の逸話と共に主人公の一人の背中を圧し潰そうとする。しかし大きな課題には一般的な正解は存在せず、都度選択されたものを慣性の許す限り続けることでしか対処することができない。それ以上物語は何も語ろうとはしない。ある意味では潔く、もう一方では無責任に。

並走して流れる各々の物語の内には、かつて繋がっていた糸の反対側の端を握っていた人が、本人の意識とは無関係に存在し続けるという事実が書き連ねられてゆく。その印象は、物語が断片であるが故により強く印象的に語られている。他人の人生に存在し続ける自分の人生など誰も想像しないであろうけれど、むしろその間接的なつながりこそ本質的な人と人との繋がりを表すものなのかも知れない。

そのような観念的な思索とは対象的に、この作家の描く登場人物の肌はさらさらとしていて、湿度や粘性といったものとは無縁であるかのよう。そのせいだろうか、一つひとつの断片への執着というものが生まれる前に、次の断片が始まるように感じるのは。「火山のふもとで」も同じような印象だった。人との関係性を直接的に深めるように努力する泥臭い登場人物はほとんど出てこない。どちらかと言えばひたすらに内省する人物ばかりが登場する。それもひょっとしたら現代社会の都市という空間に巣食う人々の本質なのかも知れないが、それを北海道東部の「枝留」という町を巡って描かきだされると、すうっと胸の真ん中あたりを抜き取られたような思いがするのは何故だろう。人は土を離れては生きていけない、とアニメの主人公の言った言葉が正の連鎖反応を引き起こすように感じるのとは異なり、都会に出た主人公が故郷に戻る物語は、正の感情も負の感情も引き起こさない。不思議に宙空に置き去られたような思いを抱いたまま読み終わる。

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Posted by ブクログ 2018年01月19日

松家さんの火山のふもとで、沈むフランシスにつぐ3作目
前2作ともとても好きなので、だいぶ前に購入していたのだけど
静かに、落ち着いて読む気持ちになかなかなれず
5日頃からやっと読み始めて、少しずつ読み続け、幸せな時間を過ごした
ハッピーエンドとか、推理小説とか、全然そういうことはなく
淡々と家族それ...続きを読むぞれの視線でそれぞれの人生を書いてあるのだけど
たくさんのことを考え、感じる小説だった
変わった旅をした気持ちにもなったな

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Posted by ブクログ 2018年01月14日

多様なジャンルの知識がてんこ盛りで、勉強になる、かつ、しんどい。それはそのまま、登場人物達の人生を思わせる。消失点という表現が素敵。陳腐な言い方だけれど、大河ドラマを見終えた気分だ。

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Posted by ブクログ 2018年01月05日

冒頭の一文に惹かれて購入。北海道の一家の歴史、人と犬と家族を淡々と描いている。静かな中にも起こる人生のうねり、行きつ戻りつする時間の流れにいつの間にか引き込まれて、一気に読んでしまった。感動とはまた違う、じわっとした波紋が心に広がる一冊。言葉にするのが難しい…。

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Posted by ブクログ 2020年08月15日

2017年。もとは「新潮」2015年9月~17年5月号連載。
23の章からなるが、連載時の回とは一致しないのだろう。後半の章は短め、たった2ページの章もある。

北海道北見に近い架空の町枝留、明治時代に信州から東京の里子にだされ、また実家に戻ったのち産婆となった主人公添島始の祖母から、両親、叔母ら、...続きを読む早逝した姉、その幼馴染で近くの教会の牧師を継いだ男性、友人など。3代前からの家族や身近な人々の様子や思いを、松家らしく丁寧な筆致で描き出す。主人公は松家と、すなわち私とも同年代。子供時代があり、青春期があり、周囲の人を見送り、やがて自分も老いていく。「火山ふもとで」に似る構成と書きぶりでしみじみする。
タイトル「光の犬」というのは、3代飼い続けた北海道犬のことと、牧師の家の子の名前光、そして家に差し込む光を指してこれからの時間の流れを言うのだろう。が、もう少しなんかいいタイトルはつけらっれないのかと思う。

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Posted by ブクログ 2019年02月16日

なかなか上質な作品でした。北海道の架空の町 枝留(エダル)に暮らした三代に亘る家族の静かな時の流れが淡々と語られています。誰かが何かがどの犬が目立つと言うことがないような設定ですが、それでも三世代目の姉弟のうち とりわけ姉の歩の人生が印象深い作品でした。伏線になっている基督教や天文学は作者の思い入...続きを読むれが大きいのでしょうかね? 今なら四世代に亘る暮らしも多い時代だから この物語にシンクロする読者も多いのではないでしょうか(笑) 長生きが必ずしも良いとは思えないけど。私自身は自然体が望ましい。

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Posted by ブクログ 2019年01月24日

言葉で読ませる作品、久しぶり。
時代も行ったり来たり、章の中での視点も行ったり来たりしながら進んでいく物語。でも、だから余計に一人一人が引き立つ。時代とか、上下とかそういうフィルターを通さずに「個」が見える。家族だって、一族だって、個の集まりだ。
そんなそれぞれの想いや景色が織り上げられたような作品...続きを読むだった。

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Posted by ブクログ 2019年01月13日

ストーリーは複雑ではないが、場面場面の切り替えも多く、やや専門的な説明が多方面にわたっているので、初めは戸惑う。しかし、誠実な文章が盛りだくさんな内容にもかかわらず読みやすく、初めての作家だったけど好感がもてた。

行きつ戻りつが最初面食らったが、読み進むうちに慣れ、例えば父親の釣りの趣味、北海道犬...続きを読む、天文、キリスト教、書物の歴史などなどの、むしろ読み手の知識がためされるように思った。

近年文学の中に知識を矯めるような、あるいは微に入り細を穿つような、文学は詩歌、叙情、思想、哲学、歴史だけではないというような作品に出会う。

明治から平成に至る北海道を中心に暮らした三代の家族物語。光を当てられるのがその一族それぞれのひとであって、ひとりの人物が主人公ではないというのも、人間それぞれの普遍をみつけ、描こうとしているように思う。​日常に起こったり遭遇したり行動することのあくなき探求をしずしずとなさっている。

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Posted by ブクログ 2018年12月03日

北海道に住む3世代の家族を描く群像劇。
薄荷工場の役員だった祖父と家族の世話より助産婦の仕事に励む祖母。
小心者の父親と小さな不満に満ちた専業主婦の母、そして隣接する家に住む三人の個性的な叔母たち。
利発で美人の姉、そして人に対して消極的な弟。
そしてその家に飼われる4代の北海道犬。
それぞれの個が...続きを読む強く、どこか親密さに欠ける家族です。

時間は前後に飛び回り、語り手も次々に変えながらそれぞれの人生が描かれます。
最初はどこに進むか見えなくて読みづらい。

大きな事件が起こる訳ではありません。
ただ静かに淡々とそれぞれの人生、生と死が語られて行きます。

読み進めているうちに、どういうものか物語が実体化し質量を持ってくるのです。
普通の小説なら精々のところ映像化(2D)レベルなのですが、次元がもう一つ高い感じです。凄いですね。

終盤には痴呆・介護・終末医療など社会的テーマも多く語られます。でも、それが物語の主題の様には思えません。
著者はむしろ、このような小説手法/表現を確かめて居るような気がします。

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Posted by ブクログ 2018年10月22日

北海道に暮らす添島家、一族三代の物語。
一番若い世代の歩と始、姉弟の父親が飼う北海道犬のエピソードも読みどころのひとつ。
歩の同級生で父親が牧師の工藤一惟と
彼の友人・石川毅も優しく照らし
物語をより奥深いものにしている。
歩と一惟の恋愛は、好きとか嫌いなどの
範疇を超え、神々しささえ感じる。
二人...続きを読むのエピソードが一番好き。

今回も、松家さんにやられた。
心にぽっかりと穴が開いてしまったようだ。

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Posted by ブクログ 2018年07月30日

北海道,枝留,産婆の祖母,薄荷工場の役員の祖父,独身の叔母3人,北海道犬を育てるのが生きがいの父,専業主婦の母,真っ直ぐな姉歩と家族の最後を看るために戻った始.一族の三代にわたる歴史をあちこち寄リ道したり,忘れていたことを手繰り寄せたり,また語り手を変えて想いを伝えたりと,大河がたゆたうようなおおら...続きを読むかで死と誕生が自然とそこにある物語だった.

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Posted by ブクログ 2018年05月08日

名作「火山のふもとで」の著者による。

ケレン味は全くなく、静かに物語が紡がれていく。

小説とは本来こういうものなのではないかと思わせる。

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Posted by ブクログ 2018年03月08日

様々な人物の恋や老いや祈りや諦めのエピソードが、時間軸にとらわれずランダムに綴られる。胸がつぶれそうになる場面の後に、その人の青春時代の煌めくひとコマが現れた時、嬉しいや悲しいが散りばめられた人生の眩しさを俯瞰できた。それは、別れも出会いも等しく遠ざかったかつての思い出がいつも美しいのとよく似ていま...続きを読むした。

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Posted by ブクログ 2017年12月15日

北海道東部の架空の町枝留(えだる)。そこに根付いた添島家親子孫三代の、明治期から現在にいたるまでのそれぞれの人生の断片を描き出す物語。

章の途中でも語りの目線が変わったり、時代も行きつ戻りつで慣れるまでなかなか大変だった。大きな事件が起こるでもなく、貫くテーマがあるわけでもない。
でも、結局人生っ...続きを読むてこんな何気ない毎日の積み重ねなんだと人生50年も過ぎた今だからこそ、実感をもってわかるのかもしれない。
急がず、じっくりこの物語の世界に身を置いて、大切に惜しむように読んでいった。ところどころに現れる、人生の真実を言い当てるような言葉に心を震わせながら、光の中で、闇の中で添島家の一員になったような気持ちで読み進んだ。
特に、始の姉の歩が愛おしくてたまらなかった。
歩の生き方、愛、無念を思うとき涙が出そうになる。
そうして全てを読み終わったとき、こみあげてくる得も言われぬ感動に言葉もなく、レビューさえ書けず、そっと表紙を眺めてため息をついた。

あ~私はこの作家が好きだ。「火山のふもとで」に続いて良作を読ませてもらった。

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Posted by ブクログ 2017年11月26日

北海道の東部、サロマ湖や網走で知られる道東の小さな町、枝留(えだる)が舞台。そこに暮らす添島家三代の年代記である。その中には共に暮らす北海道犬も含まれる。ただ、犬の方は血筋は一つではない。一族が北海道に渡ったのは関東大震災に見舞われた夫婦に、よねの師匠の産科医が枝留行きを勧めたからだった。枝留は薄荷...続きを読むの輸出が盛んだった。夫の眞蔵は枝留薄荷という会社の役員、よねは家の一部を使って産院を開く。

よねは一枝、眞二郎、美恵子、智世の四人の子を生んだ。眞二郎は枝留薄荷に勤めていた登代子と結婚し、家を継いだ。二女の恵美子は離婚して家に戻ったが、二人の姉妹は結婚しなかった。三人姉妹は棟割長屋のように改築した実家で暮らす。所帯は別だが、小姑が三人もいることになる。おまけに夫は始終姉妹の家を訪ねてしゃべってくるくせに家では仏頂面をしている。妻の登代子は次第に夫と口を利かなくなる。

添島家には歩と始の姉弟が生まれる。活発で聡明な姉と内向的な弟は外見はよく似ていても全くちがっていた。姉には枝留教会の牧師の子で同級生の一惟という友達ができる。絵と音楽という共通する才能もあって、同じ大学に通う話もあったが、歩が札幌にある大学を選んだことで、京都の神学部のある大学に通う一惟とは距離ができた。枝留に帰ったとき以外は手紙のやり取りが続く程度の関係だった。

目まぐるしく入れ替わる視点は、添島家の人間だけでなく一惟や始の妻と思える人物にも及び、語られる場面はいくつもの時点を行き来するので、いつ誰が語っているのかをいちいち確認するのに骨が折れる。こうまで煩雑な語りにする必要があるのだろうか。それだけではない。そこから先に広がることも、誰かの挿話とからまることもないエピソードが尻切れトンボのように撒き散らされ、まるで収拾がつかない。

たしかに現実はそうしたまとまりのない事実の総和で成り立っているのだが、一篇の小説としてはその中で完結していると思いたい。そのような作家的な配慮はあらかじめ想定されていないようだ。むしろ、参考文献が付されているので分かるが、物理学を研究する歩が講義で出会うニュートンやハッブルについてのエピソードや、よねの師匠である産科医の経験から生み出された練達の産婆術など、作家には書きたいことが多すぎるほどあったようだ。

しかし、小説としては、それまでのものより厚みを増していることもまちがいない。どちらかといえばスタイリッシュで、出てくる音楽や料理などへのこだわりが主人公の身辺に垣間見るのが松家仁之の持ち味だったが、それらを幾分か抑え、どこにでもある家族間の感情的なすれちがいや軋轢に重点を置いている。ファンにとっては目新しくもあるが、それが受け入れられるかどうかは賭けのようなものだ。

添島家の三人姉妹と登代子との顕わにされることのない闘争などは、日本の家族を書く上で、映画でも小説でもなじみの深い主題であり、さほど目新しいものではない。わざわざそれを持ち込んだのは、歩や始の人間形成にそれがどういう影響を与えたかの説明であろう。それにしては、多すぎるほどスペースが割かれている。その中でよねの逸話には添島という家族の根源が露呈されているようにも見え、ここだけは必要だったと思える。すべてはそこから始まっているのだ。

医学を志すほどの力を持ちながら、家庭の事情で産婆となった祖母は、自分のすべてをそれに賭けていた。家庭の主婦であるよりも他人の子を無事にとりあげることが自己実現の手段だった。夫はそれが不満で他所に女をつくり、家をないがしろにした。よねは自分の子にも時間を割くことがなかった、今でいえばキャリア・ウーマンの先駆けだったのだ。それが子どもたちに何らかの影響を与えたのかもしれない。

小説の主要なパートを受け持つのは歩である。将来を嘱望される職に就きながら、癌に見舞われ、三十歳で死んでしまう。誰にも愛される魅力的な女性で、小説の中で唯一主人公としての魅力を発する人物が、弟に看取られ早々と死んでしまう。どうにかならなかったのかと思うが、すべてはここに終焉するように書かれていたのだ。血縁とは何か。家族とは何か。人間が持つ家族という関係性を、いつも傍にいて知らぬ裡に批評しているのが犬に他ならない。北海道犬に血筋はあるが、それぞれの犬は独立した個であり、飼い主との関係を自ら作り出す。

歩にとっては始をはじめとする家族の誰よりも心を許せるのが犬のジロだった。何故、一人の男と結婚をしなければいけないのか。その必然性を信じることのできない歩は生涯結婚をしないことを決め、その思いを誰に語ることもなく、独り山に登って泣く。その時傍にいたのがジロだ。歩は自分の気持ちはジロにしか分からないと思ったから。愛してはいても、自分の本当の気持ちを家族や友人は理解できない。むしろ言葉を持たない犬の方が分かりあえる。この気持ちは、動物と暮らす者にはよく分かる。

連綿と続く家系というものを持ちながら、身近に暮らす人と人が分かりあえることは果たしてあるのかどうか、という根源的な問いが主題になっている。キリスト教の教義や、物理学、天文学と大きなものが持ち出されるが、それらはどれも役に立っているようには思えない。冬山で雛を育てるライチョウや、歩の生まれる時を知り、歩のピアノの音に耳を澄ます北海道犬の持つ能力に、人はとてもかなわないように思うのだ。このどうしようもない孤独を受け止め、日々を生き抜くためにこそ、人は犬や猫を必要とするのかもしれない。

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Posted by ブクログ 2021年11月18日

三代に渡る添島家の家族、そしてその周辺の人々の話。話の視点が複雑に入れ替わり、時間軸もあっちへ行ったりこっちへ行ったりでこちらも探りさぐりの読書を強いられる(そういう効果を意識してのことだろうが…)。
関係者を含め、みんな性格は違えどもどこか心の底で醒めているような節があり、お互いに踏み込んで関係を...続きを読む維持しようとか、変えていこうとはしない。そんな添島家はいつしか子供が途絶え、全員が老いてゆっくり欠けていくことになる。初老ながら一番若い始は一族の「消失点」を意識しながら田舎へ帰り、一人一人が自我を失い死んでいくのを看取る役割を引き受けるのだ。

いつもながら文章は非常にきれいで、文章がたんたんと進んでいく中にはっとするような表現がたくさんある。だけど登場人物たちの希薄な関係にともなう空虚さ、病気や老いの重苦しさが小説全体を覆っていて読んでいる私のほうも窒息しそうになってしまう。そしてその行き場がどこにもないまま終わる。
この人の小説の家族や恋人って常に関係が冷めきっているように思う。惹かれ合う段階の恋人でも、なんだか明日になれば別れていても不思議でないような雰囲気がある。最後の方にはその不安感が主人公のつかみ取る観念のようなものによって昇華し、吹き上がって抜けていく美しさを感じるんだけど、今回は重たさはあってもそういった昇華の実感がなかったような…。同じように一族を書いた話に角田光代のツリーハウスがあったけど、私はそちらの方が凄みを感じて好きかも。

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Posted by ブクログ 2018年08月22日

すごくみっしりと密度の高い詰まった作品という感じがした。少し読み辛いと感じながら読んだけれど、読み終わってみると、色々なシーンや印象が心の底に溜まっていて、これからふとした時に浮かんできそうだなと思う。

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Posted by ブクログ 2018年05月03日

北海道、枝留に生きた一家の3代に渡る記憶。
同じ血を引き、同じ家に暮らしたのに
まったく異なる8人。

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Posted by ブクログ 2017年12月05日

北海道・道東の薄荷産業で栄えた町・枝留に暮らす添島家。大正・昭和・平成の三代にわたる一家と、そこに関わる人々の「生」を描く。
主たる軸は昭和の高度成長期に育つ姉の歩と弟の始。二人からすると祖父母・父母・伯母・叔母となる人々と、二人に関わる枝留の教会の息子。そして、添島家で飼われている北海道犬。時代や...続きを読む場面は、自由に三世代を、姉を、弟を行き来する。そして、そこに寄り添う北海道犬。昭和のある家族の歴史を様々な角度から描きながら、平成の現代の家族の姿を描き出している。

それぞれの人が、自分の意思をきちんと持って死をを迎えていた時代から、自らの意思とは違う形で終末に向かっていく現代の「生」を考えさせる。

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