あらすじ
秦の始皇帝、ユダヤ王ヘロデ、ローマ皇帝ネロ、隋の煬帝、唐の則天武后、ヒットラー、スターリンなど古今東西の「悪」と呼ばれた政治家の業績を博学な知識で分析、解明した名著が読者の要望に応え復刊!!
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Posted by ブクログ
「政治無知」とは?「政治倫理」とは?本書は著者が考える「政治倫理」を十二分に提示している。
古代ローマ帝国の「ネロ」、古代ユダヤの「ヘロデ」、秦の始皇帝、隋の煬帝、唐の則天武后、直近の政治家ではヒトラー、彼らは後世の史家から評価される事はあまり無い。しかし、政治家として残した実績は名君の範疇であった事を、現存する各種史料を根拠にして指摘する。という筆致で本書の大半が費やされる。ここだけを読んでいるとあたかも「政治倫理」や「日本人の政治無知」についての本であることをも一時忘れ、悪評高い政治家を中心に据えた歴史物語を読んでいる感さえある。
しかし、最終章にきて著者の言いたいことを総括した内容が、ここまで延々と悪評高い政治家の事績が記述されてきたことの真意が、明らかとなる。
「政治指導者及び其の他の政治家の義務は、国民の安全と生活を保障し、国を繁栄させ、外敵から守ることにある。近代では、其の上、デモクラシーと国民の権利を守るにある。此の義務を忠実に果たす事、其れが政治倫理であり、其れに尽きる。」(p260から引用)
本書で繰り返し述べられているが、『政治は結果がすべて』あとは方法論がルールに法っていれば、庶民の正義感や倫理観は関係ねえ! となるのである。これに反して日本人(具体的に言論で行動を起こすのはマスコミであるが)は儒教倫理よろしく、『庶民の倫理観』で政治家を斬ることが当然のように行われている。この点が所謂「政治無知」と表現している真意であろうと思う。著者の考え方を汲むと、政治家に限らず各種職業でその負っている役目を果たす為に必要な行為こそが「倫理」となるのである。庶民の倫理や正義感は「目的達成の為の正しい行為(各種職業倫理)」と正面衝突する場合も少なくないのである。
これを生涯通じて、あるいは一時的にでも体現した政治家が冒頭に列記した悪評高い政治家である。ヒトラーの場合最後は破滅に向かったが、在任期間の前半はまさに名君ぶりを発揮している。
「政治無知が日本を滅ぼす」これは、即ち”目的達成の為に必要なあらゆる手段と行為を実践する”優秀な政治家が、”庶民の倫理と正義”で壟断され追いやられる事による政治の劣化、ひいては国家の衰亡を引き起こすことを指摘しているのであろう。
この著者の主張を無批判に受け入れる必要もないが、この視点で改めて『政治倫理』を再点検することは必要ではないでしょうか。蛇足ではあるが本書の歴史描写自体は時々首を傾げる記述が散見されます。30年前の著書という点も考慮が必要でしょうが、あくまで本書は「政治」についてが主であるので、そこは銘記しておきたい。また小室氏の著作は何冊か拝見させて頂いているが、本書もやはり主張・論点が明晰であることは特筆しておきたい。