あらすじ
斯界の第一人者が、35年近くの〈ことわざ拾いの旅〉から「埋もれた名品」200本超を厳選。
「花の下より鼻の下」「心太の幽霊をこんにゃくの馬に乗せる」――
表現や語感の良さ、言い回しの妙はもとより、成り立ち、使われた文芸作品、時代背景などの蘊蓄を駆使しつつ、絶妙な譬えを有する面白おかしい“庶民哲学”の世界を紹介する。
ことわざを視覚化した絵画やカルタも多数掲示。声に出して読め、見て楽しめる珠玉の読本。
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Posted by ブクログ
以前読み終えた本書を再読したのですが、いや、非常に良いですね。
本書は今となっては辞書での露出がなくなった、ないしは少なくなったことわざを選りすぐって1冊にまとめたもの。
「はじめに」にも書かれていますが、選定にあたっては「文句の響きの良さ」、「ユニークな着想・言い回しが面白い」といった点に意を払っていることもあり、口に出してみて心地よいです。
口に出して心地よい、というだけでなく、その内容もなかなか深いものがあります。例えば、
「疾風勁草を知る」
激しい風にさらされることによって、はじめて強い草であることがわかる。
「大象兎径に遊ばず」
大人物を象になぞられ、そうした人物はつまらぬ地位や、ちっぽけなことにとらわれないということ。
「丸くとも一角あれや人心」
温厚で円満な性格の人は他人との良好な人間関係を築けるが、それも角となれば相手に迎合することになったり、単なるお人よしとみられ、軽んじられる。円満な中にも気骨があるのが望ましい。
といった具合に。
しかもそれぞれの出自もかなりしっかりしています。
「疾風勁草を知る」は吉田松陰の『戊午幽室文稿』からの引用。
「大象兎径に遊ばず」は鎌倉時代の高僧・道元の『正法眼蔵』から。
「丸くとも一角あれや人心」は江戸時代の心学の書『雨やどり』(七)からの引用です。
著者も出自についてはかなり意を払っており、空海、道元、日蓮、蓮如、といった宗教家。吉田松陰、福沢諭吉、新渡戸稲造といった学者や思想家。そして井原西鶴や式亭三馬、森鴎外や夏目井漱石といった文学の大家といった早々たるメンバーの作品にしぼって引用しています。
通り一遍の教養から一歩踏み込んだ「味わい深さ」を得たい人に、おススメの1冊ではないでしょうか。