あらすじ
日本がいかに誠実な対応を取ろうとも、どれだけ経済的相互依存を深めようとも、中国共産党はこの先も軍拡を続けるし、いつか武力衝突に発展する可能性がある。それはなぜか――? 人民解放軍の分析を続けてきた気鋭の中国研究者が、一党独裁体制における政軍関係のパラドックスを解き明かし、日本の対中政策の転換を迫る決定的論考。
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Posted by ブクログ
【227冊目】とても面白かった。タイトルに「軍拡」とあるので人民解放軍について詳しく書いてあるのかと思いきや、そうではなく、むしろ解放軍を取り巻く政治力学や民間社会にその理由を求めている本。
本書タイトルの質問に答える部分を引用すると、「共産党が暴力に依存する形で中国国内から湧き出し続ける『民主化』要求を抑え、そうした『民主化』要求に共鳴して内政干渉をしかけてくる可能性のある西側諸国を牽制し、さらには軍事力を誇示することによって『中華民族の偉大な復興』を演出しようとしているから」ということのよう。
すなわち、日本や欧米に軍事的に対抗するために軍拡を続けているというのは物事の反面であって、もう反面は第二次天安門事件に代表されるように、国内統治のツールとして軍隊を強化せざるを得ないのだ、と筆者は考えている。そのため、毛沢東以降の中国の歴史及び国内情勢にまで触れているのが本書である。
なお、筆者は、中国の軍事的な力を極めて小さく評価しているようだ。これは、概して言えば、昨今の戦闘機や軍艦の大幅な増強も旧ソ連やロシアの型落ちしたものを利用して行われているものであり、米国の軍事力に対抗し得るものではないとの認識に基づく。近年出版される中国脅威論の書籍は中国の軍事力(拡大のペース)をかなり強いものと評価するものが多く、本書の認識は新鮮。
もう少し軍事力に関する考察があれば、星5つだった。
なお、筆者の阿南さんは、終戦時に陸軍大臣だった阿南惟幾の孫で、中国大使を務めた阿南惟茂さんの息子さん。その家系だけでもすごいが、本書は、筆者の語り口に接していると、その頭の良さが伝わってくる良書。