【感想・ネタバレ】1918年最強ドイツ軍はなぜ敗れたのか ドイツ・システムの強さと脆さのレビュー

あらすじ

第一次世界大戦100年目の真実。第一次世界大戦末期、1918年の「春季大攻勢」でドイツ軍は連合国軍の塹壕線を突破、戦術的な「大成功」を収めた。しかし、それからわずか半年後には降伏することとなったのはなぜなのか。ドイツ国内での革命や裏切りのために敗れたという歴史観もあるがそれは真実なのか。ドイツ軍の頂点に立ち、その強さの象徴であった参謀本部とそのリーダーたちは対処したのか。容赦なく勝つことはできても、上手に負けることができないドイツというシステムを徹底検証。19世紀から今日にまで続くドイツ・システムの強さの要因とともに、その危険性について探った!

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

第一次世界大戦は、勃発の経緯や戦中における参戦国の動向、終戦経緯と戦間期の状況(第二次大戦の蠢動)など一貫して示唆に富んだ出来事だと思います。
飯倉さんの著作は淡々した文体ではありますが、史実だけでなく、様々な説や推察が紹介されており、奥深いです。

個人的に第一次世界大戦のドイツについて腑に落ちない点がありました。それは1918年に「急速に崩壊した」感があること。3月に大規模な攻勢(ミヒャエル作戦)を実行して連合軍の前線を崩壊させ、その後も数度の攻勢作戦を経て支配地域を拡大させた一方で、終盤に連合国の反撃を受けて雪崩のように内部崩壊を起こし、最後は息も絶え絶えでコンピエーニュの森で敗北の署名を行う。
旺盛な軍事攻勢を繰り出す一方で、なぜドイツはかくも急速に内部崩壊をきたしたのか?本書はその疑問に答えてくれます。

個人的に本書の構成で面白いと感じた点は2つあります。
1つは、ドイツの意思決定における「カイザー(皇帝)」、「宰相」、「参謀総長」の3つのトライアングルのバランスに注目している点です。

第一次世界大戦直前の大きな会戦は普仏戦争でした。この時の上記キャストは「ヴィルヘルム1世」、「ビスマルク」、「大モルトケ」でした。これらのキャストは非常に個性が強いものの、各々が良い意味で制限を掛け合い、最終的にセダンにてフランス軍を壊滅させ、ドイツ帝国建国に結び付けることができました。
一方で第一次世界大戦でのキャストは「ヴィルヘルム2世」、「(主に)ベートマン」、「(主に)ファルケンハイン および ルーデンドルフ(とヒンデンブルク)」となります。

普仏戦争の際は(結果的に)バランスの取れていた三者の関係は、第一次世界大戦では大きく崩れます。言ってしまうと三者の力量が「参謀総長」に寄ってしまうことで、政治的選択肢は極端に狭められてしまい、国家のリソースの過半が軍事作戦遂行に費やされてしまうことになります。その三者の均衡の失われる様を、本書は詳細に描き出しています。

個人的に印象深かったのは、宰相のベートマンが力の及ぶ範囲で最大限の努力を行っていたと感じられる点です。例えば別宮さんの著作での彼の評価は「無能な試験秀才」という手厳しいものです。
大戦の勃発を許してしまい、無制限潜水艦作戦の実施を許したという結果だけ見ればそう言えなくもない。しかしその過程において彼は煩悶し、なしうる限りを尽くし、最終的にはカイザーの窮地を救うために宰相を辞したことが描かれています。

面白いと感じるもう1つの点は、ルーデンドルフの遂行した作戦計画の戦術面が事細かく描かれていること(実際のところルーデンドルフの行動は戦略性に乏しく、戦術面での特徴が大半なのですが)。
作戦計画の内容だけでなく、その投入兵力の規模や損害に及ぶ詳細な数字には目を見張るものがあります(飯倉さんの著作は、他の戦史本に比べて戦闘の戦術的言及がとても豊富です。これも本書の売りの1つといえるでしょう)。

またこれらが期待した結果を収めることができなかった原因を分析し、「もしもこのように実行していれば・・・」の推察を交えている点も面白い。ミヒャエル作戦において、もし(連合国、とくにイギリスにとって戦略的に最重要な)アミアンを最初から戦略目標としていたら・・・。など興味深い推察が記載されています。
終章の「ドイツの敗因」でも、敗因と考えられる主の要因が分析されています(その一つ、「もしイタリアを主敵にしていれば・・・」は私も激しく同意するところ)。

戦時におけるドイツの主要人物たちの駆け引きや、大戦終盤において実施された攻勢作戦の詳細を知ることのできる面白い一冊だと思います。

0
2019年05月19日

「ノンフィクション」ランキング