あらすじ
開けたら春日先生の脳みその中。
凄腕の精神科医の魂が暴走したら、 もう誰にも止められない。
これはもうリノベーションというより「どこでもドア」だと思います。
(穂村弘・歌人)
精神科医は還暦を超えて、さらに危機を迎えていた。自分は親から、呪いをかけられている。どうしても、そこから逃れられない。どうすればいいのか。
小さい頃、盗み聞きした両親の会話(父「あいつ(息子であるわたしのこと)、将来は美容師にしたらどうだろう」。母「そうね」)や、失明を恐れる母の発言(美しい母は失明への恐怖を持っていた。その話を脅迫的に聞かされる息子。無力感しかないが、もし母が視力を失ったら、力関係は逆転し、息子のわたしが主導権を握ることにならないか。不細工な私は彼女の視野には映らなくなるということではないか。そうしたら……)などなど、数々の親の呪いを抱えてきたが、年を取る毎に妄想となって膨らむ一方なのだった。ムージル的に言えば、無自覚のうちに私は不幸におちいっているのかもしれない。いまやモーパッサン式「御祓い」をするしかない。そうして、作者はさまざまな方法を試みる。そして、最後、親の呪いを取り払うために、実家のリノベーションにとりかかる。はたしてお祓いは成功するのか。
前作に続き、私小説的に綴られる精神科医の痛切なる心の叫び。
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Posted by ブクログ
実家をリノベーションすることで、お祓いをする。ご両親、特に母親に対するコンプレックス、ご自分の偏屈なところ、など精神科医が自分を俯瞰する様子を、さらに読んでいる私たちが見ている、という構造。患者とのやりとりが面白い。
Posted by ブクログ
前作「占いにすがる」より、はるかに読みやすかった。春日先生のこころもちとともに文章が穏やかになってきて、するっと受け止めやすくなったというのかな。
Posted by ブクログ
前作「鬱屈精神科医、占いにすがる」が、とても私にとって良かったので、今回も読んだ。
マンションのリノベーション、実際にどんなのか見たかったらネットでどうぞとあったので、見てみた。とても素敵だった。こんな風に古いマンションをリノベーションできるっていいなぁ、やっぱりお金があるといいなぁ、いい建築家や工務店にお願いできていいなぁというのが、この本を読んだ一番の感想。
Posted by ブクログ
春日武彦さんの本はわりと気に入って読む。
読みながらこれは私小説的だなと思った。
文章が読みやすくて、奇をてらったような書き方をしないのが好ましい。
自分の中にある鬱屈した気分、母との関係、リノベーションで家を作る心理的な作用、
患者とのエピソードや、他の作家の小説の引用、などなど
今の時間から、頭の中で、過去に想像に妄想に、あちこち巡る。
小説や評論であれば、もっと筋道や伏線など、
計算された形で進むのだろうけど
それがなくても心地よく読める本だった。
穂村弘さんと同じニオイがするが、
春日さんの方が自分に深く沈んでいくような感じ。
前著も気になるので探して読んでみよう。
Posted by ブクログ
主人公は母親からの呪縛から逃れるために家をリノベーションすることにした。 ちなみに主人公は著者である。 そして、これはエッセイでもなく、医学本でもない、まぎれもない私小説なのだ!(本人曰く)
タイトルが意味不明すぎて興味がわいた。
「エッセイではない」と豪語しているせいか、逆にエッセイのような気もしたが、
読み終わってみれば、確かにこれは小説なのだろう。
若干支離滅裂ではあるが、著者は精神科医というだけあって文才もあり読みやすい。
人は誰でも執着に支配されている。
著者は1951年生まれの精神科医とのことなので現在66歳。
未だに母親へのコンプレックスが強く、執着もかなり病的に強い。
執着心というのは言わば「呪い」であり、その「呪い」から逃れるために
家をリノベーションしようと思い立つ発想がやはり変人ぽくて面白い。
これまでに接してきた、ちょっと(いやかなり)変わった患者さんの話も
本人は死ぬほど苦しんでいるのだろうが第三者的にはくすっと笑える。
「お祓い」によって著者の「呪い」は解かれたのだろうか?
母への執着はなくなったのだろうか?
読み終わってから、時間がたつうちにじわじわくる、そんな小説だった。
ぜひ多くの人に読んでもらいたい。
これは母親への愛の物語だから。