あらすじ
会社のエリートで組合のリーダーだが、一方で妻子ある身で不毛な愛を続ける信藤。運動が緊迫するなか、女が妊娠し……五十年前の高度経済成長と政治の時代のなか、志の可能性を問う高橋文学の金字塔!
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Posted by ブクログ
『自分の腐った臓腑をつかみだして投げつけるように、一切の矛盾を極限化し、人に目をそむけさせながら、人の志とはいかなるものか、精神とは何かをあかるみに出して破滅させてみせよう。
すべての思想は極限までにおしすすめれば必ず、その思想を実践する人間に破滅をもたらす。革命を説きながら破滅しないですんでいる、すべての人間はハッタリだ。現代は組織の時代だとはいえ、一個の人間の阿修羅の憤激が、どれだけのことを為しうるか、組織ボケしている人間たちに示さねばならぬ。
平和に馴れ、無一物でありながら、あたかも巨万の富を抱き得ているかのように錯覚し、何かを守らねばならないかのように錯覚している人間たちの精神を根こそぎ震撼せしめよう。そうだ、俺にはそれが出来る。いつかはそれをするためにこそ、地味な努力をはらってきたのであり、共感者の層をひろげてきたのだ。』
名作。どのページを読んでも面白い。やはり、高橋和巳の作品は最高だ。
それにしても、ハッタリだけの全共闘世代が引退した後に社会に対して責任を果たし、新しい社会を創っていくのは僕たちだ。そんな僕たちの〈観念〉と〈行動〉とは一体なんなんだろうか。それがどうしても分からない。
Posted by ブクログ
夢中になって読んだ。
こんなにも迫力のある文章があるものかと。
ただそれだけでよかった。
理想と現実のせめぎ合い、平穏を突き破ろうとする人間の業、華々しい人間劇の中でうろたえ、怒り、諦める名もない人ら。善人も悪人もないもんやなと思った。
正義は諸刃の剣となり、振り翳せはそれだけ自らが傷つく。当たり前のことやがそんな悲劇に突入してゆく主人公は、かつて大王の名の下に、命を果たせなかった名残りを心に抱える。
曖昧な妹とぞの嫂である妻、そして情人との関係を書けていないと、解説は指摘するが、かけてなくていいんだと私は思う。
その曖昧さが、主人公の人間らしさを表している。
Posted by ブクログ
主人公近藤誠の内にある論理と感情、この二つに葛藤している姿が本作品の特色であり魅力である。人間にはある種の欲望を抱き、ゆえに苦しむことが多々ある。近藤は労働組合を率いて企業等の闘争に明け暮れる一方で、自分の妻ではない赤の他人の女に恋心を抱き、しかも、その女との間で子供を授かってしまう。このような状態が物語の後半まで続いていくが、近藤は最終的に自分の妻と娘がいる家庭を選んで、小説は終了する。
Posted by ブクログ
なんとも複雑な話し。主人公の私は特攻隊の生き残りで、生き残ったことに負い目のような感情を抱きつつ、家族を養うために生きる・働く義務を感じている。また、地方中堅メーカーの組合の代表として経営陣に対していながら、役員の椅子を提案され動揺している。妻や子があり、未婚の妹と一緒に暮らしながら、女性社員と浮気する。組合活動の限界を感じながら、正論の旗を下ろせない。人間が持つ両面性や矛盾の中で生きる男。最終的には、伏せていた秘密が暴かれ、課題が爆発し、どうにもならなくなってしまうが、そのことがかえって肩の荷を下ろしたような安堵につながる。これも矛盾。なんとも思いストーリーだが、共感できるところも多い。