あらすじ
「ヒロシマのデルタに 若葉うづまけ/死と焔の記憶に よき祈よ こもれ」(「永遠のみどり」)――広島での原爆被災を描いた小説「夏の花」で知られる原民喜(1905-51)はまた、生涯を詩人として生きた。現実と幻をともに見つめ、喪った者たちのために刻まれた詩は、悲しみと希望の静かな結晶である。詳細な年譜を付す。(解説=若松英輔)
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Posted by ブクログ
原民喜さんの詩集ですね。
原民喜さん(1905~1951、広島県生まれ)小説家、詩人。
生前に詩集は出されてはいません。原民喜さんの妻が亡くなって、後を追うように四十五歳で自死されましたので、四ヶ月後に『原民喜詩集』は刊行されました。この本には、他に『かげろふ断章』ほか拾遺詩集を収録されています。
『はつ夏』
ゆきずりにみる人の身ぶりのいちから、
そのひとの昔がみえてくる。
垣間みた あやめの花が
をさない日の幻となる。
胸をふたぐといふのではない、
いつのまにかつみかさなつたものが
おのれのうちにくるめいてゐる。
藤の花の咲く空、
とびかふ燕。
『夏』
みなぎれる空に
小鳥飛ぶ
さえざえと昼は明るく
鳥のみ動きて影はなし
『川の断章』
1
川に似て
音もない
川のほとり
川のほとりの
2
空の色
寂び異なるか
水を映して
水に映り
3
思ひは凍けて
川のひとすぢとなる
4
遠かれば
川は潜むか
流るるか
悠久として
5
現世(うつしょ)の川に
つながるるもの
現世の川に
ながれゆくもの
『昨日の雨』
青くさはらはかぎりもない
空にきく雲雀の声は
やがて淋しい
うらうらと燃えいでる
昨日の雨よりもえいでる
陽炎が濃ゆく燃えいでる
『月夜』
(1)
川の向こうは川か
向こうには何があるのか
空に月は高いし
水も岸も今は遥かだ
(2)
月の夜の水の面は
呼吸するたびに変わる
たとへば霧となり
闇となり光となる
生涯を詩人として過ごされたようですが、あまりにも短い人生にため息が出ます。原爆を謳った詩もカタカナで掲載されています。
感受性の高い孤高の詩人の調べに、感慨はひとしおですね(=^ェ^=)