【感想・ネタバレ】子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所からのレビュー

あらすじ

「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。」英国の地べたを肌感覚で知り、貧困問題や欧州の政治情勢へのユニークな鑑識眼をもつ書き手として注目を集めた著者が、保育の現場から格差と分断の情景をミクロスコピックに描き出す。2008年に著者が保育士として飛び込んだのは、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。「底辺託児所」とあだ名されたそこは、貧しいけれど混沌としたエネルギーに溢れ、社会のアナキーな底力を体現していた。この託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者の目は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に心を揺さぶられる。著者が二度目に同じ託児所に勤めた2015-2016年のスケッチは、経済主義一色の政策が子どもの暮らしを侵蝕している光景であり、グローバルに進む「上と下」「自己と他者」の分断の様相の顕微描写である。移民問題をはじめ、英国とEU圏が抱える重層的な課題が背景に浮かぶ。地べたのポリティクスとは生きることであり、暮らすことだ──在英20年余の保育士ライターが放つ、渾身の一冊。

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Posted by ブクログ

有名な「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」の前日弾で同じくらい傑作です。
ブレイディみかこさんはロンドンの南のブライトンの底辺託児所で働き、10代の英国人シングルマザーや自国流を貫く外国人専業主婦と放置気味の子どもたちをまっすぐに見つめます。
生活保護も保育士育成制度も外国人在留資格制度も政権政党でがらりと変わり、底辺の人々にそのしわ寄せがダイレクトに行ってしまうことが実感できました。
英国では2024年7月労働党が圧勝して政権を取りましたが政府にお金がたくさんあるわけでなく、底辺の人々はどうしているのか心配になります。

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2025年11月18日

Posted by ブクログ

イギリスの底辺保育所で働く著者
貧しいけれど
そこはエネルギーに満ち溢れていた
子どもの暴力 虐待 ドラッグ アルコール 
多様な人種 文化 価値観
それでも命が輝いていた

しかし経済主義一色の政権が
彼らの生活を蝕んでいく
グローバルに進む「上と下」
移民問題 排斥など
イギリスやEU諸国が抱える問題が
少し理解できたけど
根深い 哀しい問題

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2025年10月02日

Posted by ブクログ

時は2008年。ブレイディみかこ、43歳。なにを思ったか、イギリス・ブライトンの「底辺託児所」で保育士の見習い開始。ここでの経験が、社会の底辺から社会や政治や教育に目が向くようになるきっかけを作る。ブレイディみかこの原点だ。
本書は、第一部が2015-2016年の雑誌連載、第二部が2008-2010年のブログと、時間が逆転した構成。ここはやはり、第二部から読み始めるべきだ。
第二部、18篇のブログ。中心に語られるのは個々の「クソガキ」とその親(多くはシングルマザー)、貧困、暴力、虐待、ネグレクト、障害、差別、発達遅滞……、そして個性的な保育ボランティアたち。みかこが「師」と仰ぐ託児所の責任者、「アニー」も頻繁に登場する。「師」は頼もしく、颯爽としていて、迷いがない。
「底辺託児所」の唖然とするような混沌、見るもの聞くものが初体験。奮闘するブレイディみかこ。まぶしいほどに初々しい。
(p.s.2008-2010年のブログは『アナキズム・イン・ザ・UK』(Pヴァイン)にも収録されている。重複はない。こちらもおすすめ。)

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2025年05月07日

Posted by ブクログ

「地べたから見るポリティクス」が彼女の心情なのだが、それに至ったのは保育園での子どもたち、その家族、スタッフとの数々の出会いだったことが明かされる本。みすず書房の本を読むのは久しぶりで、読めるか最初は少し不安だったが、読んでみるとブレイディさんのなめらかな文体はこの本でも健在で、澱みなく読み進むことができた。統計的な資料にもしっかり支えられていてさすがと唸らされる。出会いと豊富な読書量が彼女を強くしている。そして連帯は古き良き時代のカッコ悪いものでなく、今こそ必要で、静かにそれを望みたいと思った。

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2025年02月19日

Posted by ブクログ

実際働くとしんどいことだらけなんだろうけど、なぜか眩しい印象の底辺託児所。そしてその時代を懐かしむ切ない緊縮託児所。

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2024年04月19日

Posted by ブクログ

この著者はほんとうに偏見のない人なんだな。かと言って、他の人の偏見に鈍感なわけでもない。声高に他人の偏見を糾弾することもなく、ただ差別される人、偏見を受ける人のそばで、同じ痛みを共有している。だからあんなふうに、背景も環境も性格も全く異なる人たちの苦悩やあり様がストンと納得できる、心の琴線に触れる文章が書けるのだろう。

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2023年11月23日

Posted by ブクログ

この本の主題は「階級」である。
本文中に書かれているが、貧富の差はいつの時代にも、どの国にもある。
しかし、貧困から抜け出す術がないとしたら、それは「階級」である。

日本でも格差は問題になっているし、それが「階級化」しつつあるようにも思う。
貧しい家庭、養育者がなんらかの問題を抱えている家庭に生まれた子は、十分な学習環境を与えられているとは言いがたい。
逆に言えば、「いい学歴」は本人の「才能と努力」だけで勝ち取ったものではなく、生まれた家の影響が大きいのだ。

イギリスの状況はこんなものではない。
シングルマザー、障害のある親、酒やドラッグへの依存症を抱えた親。
労働党政権のころは、貧困層への手厚い支援があった。
しかし保守党が政権を握って以降、生活保護は縮小され、保育所への支援も打ち切られていく。
そこに移民の問題が加わり、「Broken Britain」と言われるほどの分断が生じている。
筆者はこうしたなかで貧困層の子どもとその親と関わり、手を差し伸べ続けている。
彼女が言うところの「底辺」からの政治へのまなざしは、「政治は何のためにあるのか」ということをわれわれに突きつける。

これが本書のメインテーマであるが、保育園に預ける子をもつ親として、他にも考えさせられることが多かった。
その最たるものが日英の保育環境の比較である。
日本の保育士配置基準は、例えば1歳児では児6人に対して保育士1人なのに対して、イギリスでは3人にひとりである。
歩くのもおぼつかない一歳児になにかあったとき、6人も抱えて走れるのか?と筆者はいう。
言われてみればその通りである。
きわめつけは3歳児で、イギリスでは児童8人に対して保育士ひとりなのに対し、本邦では児童20人に対して保育士ひとりである。
これを聞いたイギリスの保育士は「羊飼いかよ」と言い捨てる。
筆者は筆者で、20人の3歳児をひとりで見なければならないという悪夢にうなされてしまう。

ここまでだと、単なる日本の保育士不足を嘆くだけになるが、本書ではここからさらに踏み込んで考えている。
日英の保育園、両方を体験した筆者からすると、日本などアジア圏の子どもは圧倒的にお利口で、おとなしいのだそうだ。
一例として、タンバリンの演奏が挙げられている。
日本の幼児は、先生が見せるお手本の通りにタンバリンを叩くことができる。
イギリスではこうはいかない。
先生のお手本の裏打ちをする感じで、ずらして叩く子。
そもそもタンバリンを叩かず、側面の円盤?を鳴らすあまのじゃく。
こんな具合で、まずまともな演奏にはならない。
しかし考えてみたいのは、「どちらがより『芸術』の本質に近いのか」ということだ。
それはイギリスの方なんだろうな、と思う。
先生のお手本の通りに叩きました、なんて芸術性のかけらもない。
第一、みんなが好き勝手に叩いている方が楽しそうだし、ホンモノの才能というのはそういう環境から生まれてくるのではないか。

決断力。創造性。ディベートする力。
どれも、日本人に欠けているとよく言われるものだ。
だが、「いい子であること」「お利口にすること」を過度に礼賛する環境で、こうしたものを育むことができるのだろうか。
ひとりの保育士があまりにも多くの幼児を見なければならないことが、こうした慣行を正当化することにつながっていないだろうか。
「お利口」だから手薄な保育士配置基準でいいのか、はたまた保育士不足が「いい子」を生んでいるのか。
鶏が先か、卵が先か、というような話だ。

こうした問題意識を抱く一方で、集団生活に支障をきたすようなキャラクターに育つのも困る。
はたして、自分は娘にどんな子に育ってほしいのだろうか、と考えてしまった。
だが、間違いなく言えることは、幼児教育はその国を写す鏡であり、その子の将来のみならず国民性をも規定するほどの影響力がある、ということだ。

本当にいろいろな読み方ができる、奥行きのある本だった。

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2023年08月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「レイシズムはやめましょう」「人類みな兄弟」とプラカードを掲げていくら叫んでもできることはたかが知れている。社会が本当に変わるということは地べたが変わるということだ。地べたを生きるリアルな人々が日常の中で外国人と出会い、怖れ、触れ合い、衝突し、ハグし合って共生することに慣れていくという、その経験こそが社会を前進させる。

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2022年10月30日

Posted by ブクログ

地べたで生きてきた人間が、インテリ層にも届く表現力と議論の力を持っているのはとても強いな。
クレバーでチャーミングな反骨心。著者はそんな印象です。
著者が連発する「底辺」というのは、外側から見た軽蔑や、あるいは自身のコンプレックスの裏返しなどではなくて、
実感と、一筋縄ではいかない情なのだと思います

みかこさんの文章は私には水が合うみたいで、いつも面白く読んでいます。

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2022年10月09日

Posted by ブクログ

良書。

まず何をさておいても著者は文章力がすこぶる高いと思います。
底辺託児所に来る子どもとその親の暮らしは文字通り底辺なのでしょう。
けれど著者はその描写に同情や憐憫の感情を全く忍ばせません。
かといって、冷めているわけでも距離を置いているのでもありません。
保育士としての距離感は保ちつつも、言葉では言い表せないほど子どもたちを愛し、こんな状況を作り出した原因でもある社会と政治を厳しい視点で監視し、分析し続けていることが感じられます。

底辺託児所に来る子どもたちは、劣悪な環境で育っている事が多いため、暴力をふるったり暴言を吐いたり、一筋縄ではいきません。
そんな子どもたちをある時は「ガキども」と描写しつつも、諦めず、見捨てず、向き合い続ける著者の姿勢には頭が上がらない思いになりますし、湿度のないカラリとしたユーモアを交えて描写される子ども達の姿は、著者の言う通り「愛すべき個性的な悪魔達」。
写真は1枚もないけれど、行間に子ども達の姿が浮かび、時折涙ぐんでしまうこともありました。


アンダークラスの人びとを通して保育士という視点から見たイギリス政治についての考察は、ただ持論を展開し押し付けるものではなく、読み手のこちらにも問いかけているようで、政治、差別、育児などについて深く考えさせられました。
また、今後の生活においても考え続けるきっかけを与えてくれたと思います。

話題となった「ぼくはイエローで…」も良かったけれど、個人的にはこちらの方が満足感が高かったです。

以下、印象に残った文章を抜粋。
「階級を昇って行くことが、上層の人びとの悪癖を模倣することであれば、それは高みではなく、低みに向かって昇って行くことだ。」
「いろいろな色を取りそろえる意味は、やはりあるのだ。(中略)社会が本当に変わるということは地べたが変わるということだ。地べたを生きるリアルな人々が日常の中で外国人と出会い、怖れ、触れ合い、衝突し、ハグし合って共生することに慣れていくという、その経験こそが社会を前進させる」
「きっとデビーはこれでいいのだ。自分がそう思っていることを他人に知ってもらう必要がないほど、これでいいのである」

2021年15冊目。

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2022年09月02日

Posted by ブクログ

事実は小説より奇なり。みたいな本
障がいや病気や犯罪を、深刻に薄暗く描くのはきまってそれらを身近に体験していない人に多い。

身近に体験してると、それは只々当たり前の日常で、ブレイディ氏のように面白おかしくも書けて、薄暗い気分にもならない。

だけどそこにはリアルな人生が書かれていることを知れる。
こんな世界や、こんな人生、生き方をしてる人間もいるということをたくさんの人に知ってもらえる良書だと思う。


ブレイディさんの著書は、私達と同じ目線から感じたことを素直に書かれているので、小難しくなく、それでいて大切な事実はを知ることができるので大好きです。

いち保育士だとご本人は言われてますが、その辺のジャーナリストよりよっぽど訴えかける力の強い方だと思います。

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2022年07月21日

Posted by ブクログ

イギリスへのイメージが王室しかなく、全く何も知らなかったんだと感じさせられました。
託児所で子供を見ている、ミカコさんから見た、イギリス。
階級が歴然とあり、移民の人たちもいることから、いろいろ問題も出てくる。
貧しい子供は貧しいまま、負の連鎖はどの国でもある。
いろいろ考えてしまう一冊でした。

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2022年04月21日

Posted by ブクログ

みかこさんの最近の著書を結構読んでいたのだが、彼女の原点となる体験がわかる本。底辺保育所で始めた仕事を経て、富裕層の保育園から再び底辺へ。だが底辺も以前と同じではなく、社会保障の削減の煽りを受けて移民受け入れの施設になり、ついには閉鎖されてしまったという。政府の方針や予算配分がここまで如実に低所得層の生活に変化を与えるのかということをみかこさんの実体験を通して知る形になり、面白かった。

本当はこんな短く書ききれないほど興味深い内容で、同時に社会ルポでありながら各人の描写に興味をそそられる小説のようで、続きも気になって一気に読める本なのだが、読後すぐに感想を書くのを忘れてしまった。

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2022年01月08日

Posted by ブクログ

問題を抱え拠り所を失った親。その子供が行きつくところは底辺と呼ぶ託児所。保育士をしていれば、いろいろな境遇に巡り合う。労働党政権時代の手厚い保障下での託児所は、アナキストにチャヴに外国人のパラレルワールド。保守党に政権交代し福祉をカット。底辺ならぬ”緊縮託児所”となり、補助金が出る外国人だけが利用することになる。アンダークラスの英国人の子供は稀で逆に差別に遭う。そして託児所ごと閉鎖される。この変遷に対して、不遇な子供にできることは、ミクロな個別のケアとマクロな政治への参加。微力でもできることから始めたい。

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2021年11月16日

Posted by ブクログ

イギリスはこんなにも格差と分断に満ちているんだ。日本とは全然違うな。と思った私は、視野が狭く何も見えていないだけなのだろう、と気付かされた。

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2021年08月30日

Posted by ブクログ

なんかもう圧倒された。
ブレイディみかこさんがイギリスの底辺託児所の保育士であったのは知っていたが、「イギリスの底辺託児所」の保育士がこんなに大変だとは知らなかった。アンダークラスの10代の思春期や大人のことは映画などでなんとなく雰囲気はつかめていたつもりだ。でも、4歳までの子供がどんな感じなのかは想像もしたことがなかった。
著者も書かれているが、後半の底辺託児所の方が登場人物がめちゃくちゃであることは変わりないにしても、明るい。どんな人間でも生きていける、堂々と生きていけばいいと肯定されてる感じがする。
時が過ぎ、緊縮財政になってからの託児所の結末は悲しい。
ただ「おわりに」での著者は絶望してはいない。それが何よりの救いだ。
政治によって、ここまで暮らしが変わる。悪く変わるということは良くも変わるということだ。ギリギリの生活をしている人の代わりに、ほんの少しだけゆとりのある者たちが、政治に関心を持ち、間違った方向に行きかけた場合は戻させるようにする。自分のできる範囲でやれることをやる。そんなことを思った。
お金がなくても、人間性に問題があっても、やる気がなくても、そんな人もひっくるめて、みんなが堂々と生きていける社会がいいに決まっている。
イギリスのアンダークラスの人々をこんなに生々しく、鋭く、愛情深く、ユーモアを交えて書かれたものを読むことができて良かった。
これからも体験に基づいた作品をどんどん書き続けてほしい。

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2021年05月19日

Posted by ブクログ

華々しいイメージのあったイギリスも、こうやって格差社会の現状があると知ると、貧困、虐待、薬物乱用などの問題は意外と身近にあるんだろうと思った。

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2021年05月07日

Posted by ブクログ

英国で働く著者の底辺託児所の話。
日本との違いや英国ならではの階級差や差別などを垣間見ることができる。
汚い言葉を使ったりユーモアを交えているのでどんより重い雰囲気はないのが特徴。

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2025年11月25日

Posted by ブクログ

英国で保育士として働く日本人の視点、ていうだけですごく特別で面白かった。こうゆう経験からブレイディみかこさんの考え方が出来上がってるんだなぁと感じた。

ケリーのコスプレの話、バス遠足の話、日本の保育園児との差の話が印象的だった。
大変な家庭の子が早熟だったりするのって、必然なんだなぁと感じた。託児所に行く年齢の子達が、如何に親の考え方や生活に左右されるかを考えると切なくなる。

外国人のお母さん達の生活保護受給英国人に対する態度の話も、そりゃそうだろうなと思った。海外で働いて生活して子ども育ててくメンタリティ持つ女性たちだものねぇ。

色々思うことはあったけど、内容が2000年代、2010年代後半の話なので、第一部からも大分日が経ってる。良くなってる気は全くしないし、悪くなり続けてる気が…悲しい。ほんと、政治って大事だ。勿論ミドルクラスやアッパークラスの人の方が政策が変わることで払う税金額が変わったり影響金額は多いかもしれないけど、どれだけ生活に影響があるかで見ると労働者階級およびアンダークラスのほうが影響受けるんだよなぁ。だからこそ、政治を考えるべきだし携わるべきなんだけど、生きることに精一杯だとそれすら考えることがないのは、なんだかなぁだわ。もっと義務教育時代に如何に政治が私たちの生活に関わっているものかを勉強するべきだと思う。

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2023年10月17日

Posted by ブクログ

感想
子供を助ける魔法の方法。それは存在しない。きっと財源は不足し、不平等を訴える声が出てくる。だからと言って議論しないわけにはいかない。

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2023年06月06日

Posted by ブクログ

英国の保育事情から、政治情勢を描いた良書。
日本の保育士が一人で見る数の多さも改めて理解した。日本の制度改革の必要性も分かる。

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2022年09月30日

Posted by ブクログ

本書の「日常の中で外国人と出会い、怖れ、触れ合い、衝突し、ハグし合って共生することに慣れていくという、その経験こそが社会を前進させる。それは最初の単位、取るに足らないコミュニティの一つから淡々と始める変革だ。この道に近道はない」との記述あり。
著者の働く底辺託児所、緊縮託児所は、そのコミュニティのひとつ。
「人類みな兄弟」の足に地が着いた取り組みが日本で出来るのは、いつになるのか?混乱を招くことを恐れず、外国人を欧米の様に受け入れる日は、いつになるのだろうか?日本は、やはり特殊な国なのだろうか?そんなことが許されないのに。

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2022年07月22日

Posted by ブクログ

すごい作品に出会った.
相変わらず,登場人物はBrightonの底辺層の,色々問題を抱えた人々が多いのだけど,人間を見つめる目は相変わらずどこまでも率直で優しい.
このお話は海の向こうの遠い国の話ではなく,同じ時代に生きる僕たちの話だ.
資本主義と民主主義って,本当に合い入れるのものなのかな,と.
少なくとも,先鋭化した現代の資本主義=新自由主義は,民主主義とは相入れないものになってしまったとしか思えない.

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2022年01月03日

Posted by ブクログ

ほお。イギリスの底辺の保育所はこうなっているのだと、まるで見ているかのような臨場感を感じられる。
そして、底辺の人々を甘やかさず自立させなければならない政治のむずかしさ、イギリス人だけでなく外国人も含めた底辺コミュニティの変わりよう。

中流のイギリス人が、外国人の底辺には優しいが、アンダークラスのイギリス人には手厳しいという矛盾。他人ごとではない。

底辺の人々を救うべく自分の時間を差し出す人々の善意と正義感。

かっこいいだけではない、むしろぞっとするイギリスを垣間見ることができて、興味深かった。日本はどうなっているのだろう?私に何かできるだろうか?

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2021年09月20日

Posted by ブクログ

本書は英国の緊縮財政によって、フードバンクの普及という名目で閉鎖に追い込まれた無料託児所での日々が綴られています。

経済的な理由や親のDVなどを理由に、有料の保育園(託児所)での預かりが困難な子どもたちのための施設では、実に様々な問題が日々巻き起こります。

しかしながら、当初はなかったはずの民族の違いによる差別が徐々に親の間で蔓延り、またケースワーカーに子どもを取り上げられたくないが為、託児所に預けることを断念してしまうシングルマザーの姿も描かれています。

変容する現代社会や育てられた環境が、巡り巡って子どもたちにどのような影響を与えているのか、またそのような状況の中で子どもたちは何を考え感じているのか、間接的に知りたい方にはおすすめの一冊です。

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2021年09月12日

Posted by ブクログ

P.71
・ソーシャル・クレジング_交易住宅地までもが投資家に売却されて消えていくロンドンは、労働者階級の人々の姿が見えない街になっている
・ソーシャルアパルトヘイト
・ソーシャルレイシズム

P.88
『フィッシュタンク』英国の下層のティーン文化を知りたければ若干ステレオタイプ的とはいえかなり正確に描かれている

P.93
アプレンティス制度(見習い制度のこと)
犯罪履歴調査

P.96
「クールってのは、ブリリアントでスペシャルであたしはそれが大好きだってことだよ。ドープって言葉もあるけどね。」
「でも、そのくまは可哀想。」
「だって、くまは本当はみんなを食べたいんじゃなくて、一緒に遊びたかったのかもしれない。」
以前、私がこの本を読んだ時、誰かがそう言ったので、「それはすごくいいことに気がついたね」と褒めたことがあった。きっとあんなはそのことを覚えていて、同じ言葉を言っているのだろう。優等生タイプのアンナはこういうことをよくやる。が、そんなことは知らないヴィッキーは目を輝かせていた。
「それはドープな質問だ。あたしも子供の頃、実はそう思ったんだ。だってこの熊の後ろ姿、なんかサッドだもんね。くまは見た目は怖いけど、本当は優しいのかも。」
 私は子供たちを迎えに来た母親の方を見た。敵対心剥き出しの顔をした母親たちの中で、ポーランド人の母親は微笑していた。インド人の母親も彼女の方を振り向く娘に、ちゃんと先生の話を聞きなさいというふうに合図している。変化とは、こうやって起こる。1人、そして2人が最初に代わり、それが三人になり、五人、十人に増えてコミュニティが変容する。その兆しがわずかだが確かに見えて来た。

P.113
猪熊弘子さん_『子育てという政治』2004〜2013年の10年間で143人の子供が亡くなっている。そのうち131人は0〜2歳だそうで、幼い子供の命が日本の保育士配置基準によって失われている。
↑英国では、0〜1歳で1対3、2歳児で1対4、3歳児と4歳児で1対8。
日本では、0歳児で1対3、1〜2歳児で1対6、3歳児で1対20、4〜5歳児で1対30。

英国では、屋外のパラソルの下で工作ー日本では、皇帝には屋外工作のテーブルもなければ、スクーターも三輪車もない。ままごと遊びの小さな家もなければボウリングセットもジャングルジムもない。玩具や遊具がほとんど何もないがらんとした空間に子供たちが立って駄弁ったり、追いかけっこしたり、またちょっと離れたところに別のグループが集まって立っていたりして、保育園の庭というより、学校の休憩時間の校庭みたいだ。

決断力、クリエイティビティ、ディベートする力。私が日本にいた20年前から現在まで、日本人に欠けていると一般に言われている事柄はちっとも変わっていないように思えるのだが、こうした能力が欠如していることが本当に民族的特徴になっているとすれば、それは人間の脳が最も成長する年齢における環境や他者とのコミュニケーションのあり方に端を発していないだろうか。少なくとも英国の幼児教育しシウテムは、言われたことを上手にやる天使の大量製造を目的にはしていない。

P.139
スケートボードにしても「幼児用の特注のボードはとても高価なのに、どこからそんなお金が……」「あの人たち、ちゃんと仕事しているようには見えない」と彼女たち(移民の女性たち)がトイレで噂しているのを聞いたことがある。
彼女らのそうした視線は彼(英国人落ちこぼれ母のボーイフレンド)にとっても鬱陶しいようで、最初に来るようになった時はラブ&ピースを信じる人らしくお母さんたち全員にとてもフレンドリーで、進んで笑わせようとジョークを飛ばしたりしていたが、学黒人のお母さんたちがちっとも乗ってこないので、最近では互いにお迎えの時間にすれ違っても目さえ合わせない。
昔、この託児所が賑やかだった頃でも、すべての人が仲良く、なんのわだかりもなく一緒に子供を預けたり、働いたりしていたわけではない。雑多な人種や宗教や思想や性的嗜好を持つ人々がそんなに夢のように出会った途端に一つになって美しいハーモニーを奏で出すなんてことは、ジョン・レノンの歌の中ぐらいでしかありえない。だが、あの頃はもうちょっとみんな大人だった。感情がこんんあに剥き出しではなかったのだ。

財政支出額とともに、人の心も縮小しているのかもね」
人心のデフレ。

P.174
アニー→ミカコ(夫が末期癌宣告を受けた)へ
「大丈夫。空疎な子ドマだけど、人はその気になればどんなことでも大丈夫にできるんです。人間の偉大さはそれに尽きる」
「あなたは託児所で一番ビッグなスマイルを持った人でした。あなたは子どもたちを笑わせることができる。自信をもって。Keep on smiling.」
空腹で力のない子どもを笑わせるのは昔のように楽ではない。それでも、私がポケステーションで投げられてヒクヒクしながら倒れるモンスターを真似る時、テントの雨漏りが発覚し、読んでいた絵本の上に落ちてきた水滴に思わず「ファック」と卑語を発してしまう時、彼らはおかしそうに笑ってくれる。
 彼らの親たちがフードバンクに並んで尊厳をへし折られ、棚から食品をわしづかみにしてビニール袋に入れている間、子どもたちは楽しそうに笑ってくれている。笑っている限り、わたしたちは負けていないのだ。KEEP ON SMILING.

P.220
「子どもをサポートするということは、その親をサポートするということです。」
現場で母獣たちの背中をさすっている人間だけがはける、リアルな児童保護論なのだ。

P.234
「力」というものの中には、きっと実際の作業をする能力というのはあまり含まれておらず、自己プロモやネットワーキングを行う手腕といった「作業換金力」が80%〜90%なのだろう。

P.251
作品に「尿。またはマミィのビール」とつけたモーガン。母親はアル中だ。解説には「『きれいな金色の画用紙ができたね』と話しかけると、モーガンは答えました。『これはマミィが流しに捨てたビールの色。栓を開けて全部捨てちゃったから、おしっこみたいにいっぱい流れていった』」
腐り切った世界には、腐ったなりのビューティがある。

P.269
本物のデビー・ハリーという人は、難病にかかったこう他人の看病をするために雲隠れしているうちに、彼女のイメージをそのままパクってデビューした若い新人(マドンナという名の)に天下を取られた。ショービス界ではこの系譜がその後のグウェン・ステファニーやレディー・ガガと行った人々に続いていくことになる。
 若い女性は「ロールモデル」を必要とする生き物らしいので、この系譜のシンガーたちは例外なく女性に支持されることになるのだが、初代デビーになると、「そこまでいくとちょっとその生き方はお見本にはしたくないかも」というところまで行ってしまっているため、ブロンディを解散し、ソロに転向してからキャリアが盛り上がるということはなかった。
 運命。というと大袈裟がだが、巡り合わせ。というか、ランダムに巡ってくるものが必ず顔面にぶち上がってしまう人が、世の中には存在する。
 デビー・ハリーの後尾とは当時まだ治療法もよくわかっていなかった難病にかかってしまったが、マドンナの男は間違ってもそんなややこしい病気にはかかりそうもないし、発展途上国から彼女が養子をもらうことはあっても、障害児を養子にすることはないだろう。そういう`本当にヘヴィな感じ`は女性に支持されないからだ。あんまりクールでも素敵でもないし、第一幸福そうじゃないからである。

P.273
然るべき環境が整わなければインクルージョンは致命的結果になるというワーノックの警鐘は地べたに転がるリアリティに立脚している。肌の色が違う、太っている、などの理由で子どもが集団暴行の標的にされている英国の学校現場で、障害児だけがいじめを免れているというのは、そらやっぱ素人目にも無理がある。違うものが標的にされるというのは、時代・地理を超えて普遍の人間の現実だからだ。

P.282
政治は議論するものでも、思考するものでもない。それは生きることであり、暮らすことだ。そう私が体感するようになったのは、託児所で出会った様々な人々が文字通り政治に生かされたり、苦しめられたり、助けられたり、ひもじい思いをさせられたりしていたからだ。

P.284-285
底辺託児所と緊縮託児所は地べたとポリティクスをつなぐ場所だった。だけどそれは特定の場所だけにあるわけではなく、そこらじゅうに転がっているということは今の私は知っている。地べたにはポリティクスが転がっている。

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2021年08月12日

Posted by ブクログ

日本の保育士配置基準にびっくり。
イギリスとこんな違うんだ。大人しい天使も生み出されるよな。
日本にも通じるものがあるかな。

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2021年06月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

イギリスの底辺保育所で働く日本人女性が保育所を通して、イギリスの2010年代前半と後半の社会福祉の違いを書いている。
本の構成としては、2010年代中期から後半にかけて、底辺保育所が封鎖するまでを先に書いており、2010年代前半の話が最後に書かれていた。
底辺保育所は当初、アンダークラス(イギリスの階級制度で労働階級より下)が主にいたが、保育所封鎖前は移民が多くなっていた。

イギリスと同じ島国の日本も将来イギリスと同じになるのかなと思った。イギリスは当初、社会福祉を充実させていたが、現在は緊縮財政。日本は今社会福祉を充実させてるが、将来的に日本もイギリスのように緊縮財政をするようになるのかなと思った。

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2021年05月13日

Posted by ブクログ

底辺託児所で働いていて政治に関心を持ったそうで、それはそうだろうな、と思った。緊縮財政のあおりをもろにうける社会的弱者、特にこどもと向き合っていればいろんな感情が起こるだろう。現場で、いろいろな感情やモチベーションが生まれる。
日本とは違って、貧富の壁だけでなく、意識高い系の移民が、えげつなくアンダークラスの白人を軽蔑したりする構図も興味深い。

大人にびくっとした子供に、「びくっとすると余計にたたかれるから、堂々としていろ。難しくてもいつかできるようになる」と諭した、底辺託児所卒業生の保育士の言葉が印象的。

日本の保育士の配置基準は天使のようなこどもを育てる。自由な発想や個性を伸ばす教育ができない、というのはそのとおりだな。なんでこうなってしまったんだ?

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2023年08月18日

Posted by ブクログ

何年も前に途中まで読みかけて放置してた本(いくらなんでも放置しすぎだ)。2008~2010年と、4年間を隔てた2015~2016年で、同じイギリスの底辺託児所に起きた変化を、短くシャープな文章で伝える。
貧困なだけでなく暴力的でレイシストでさえある大人と子どもたちが、いかにめちゃくちゃであり人間的であるのかが、実に味わい深く描かれているのだが、生存を維持する食糧のレベルで暮らしが切り詰められてしまうと、その子どもたちの凶暴ささえもがパワーを失ってしまう。政府の補助が打ち切られるばかりでなく、これまで保育所の運営を支えてきた気持ちあるボランティアたちが関わる余裕を失ってしまい、保育所がただの食糧配布場所に変えられる。なんとも恐るべき現実だ。
とはいえ、日本が新自由主義政策のお手本にしてきたイギリスであっても、多くの異なる文化的背景をもつ移民たちが保育士や公務員として活動し、知的文化的資源をもつボランティアたちも関わって低所得者の生活サービスのアクセス保証を実現してきたわけで、そのような基盤の厚みさえない日本で、これから先何が起きていくのかと思えば空恐ろしさしかないのだが、しかしレイシズムや分断や絶望に抵抗していくために残るのも、やっぱり理屈を超えた人と人のつながりなのだろう。

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2022年10月02日

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