【感想・ネタバレ】音盤博物誌 片山杜秀の本(2)のレビュー

あらすじ

吉田秀和氏も激賞した前作『片山杜秀の本(1) 音盤考現学』に続く第2弾。
シューベルトを近眼派音楽の夜明けと断じ、金満的ヴィブラートの淵源はクライスラーにありと喝破、信時潔から坂本龍一に至る隠された楽統を暴き出し、ショスタコと恋愛映画の意外な親和性を解明する──
音盤の博物学者・片山杜秀が渡り歩いた傑作・問題作。『レコード芸術』誌の人気連載「傑作!? 問題作!?」の後半50本を完全収録!

岡田暁生さん推薦!

「僕なんか逆立ちしてもかなわない人」──私は片山さんを誰かに紹介するとき、いつもこう言うことにしている。
片山さんは異形の文体の持ち主だ。こんなにも凄まじい凝集力をもつ文章には滅多に出会えない。 ひとつひとつの単語がまるでウェーベルンの音符のように、読者の脳髄の中で次々爆発する。しかもこんな核分裂みたいなセンテンスが、ロッシーニのテンポで機銃掃射されるのだ。そして彼が書いたものを読み終わると──いつだって音楽が、思想が、社会が、時代が、それ以前とはぜんぜん違って見えてくる。
かつて福田恒存は吉田秀和のことを「真の音楽批評家の名に値する日本で唯一の人」と呼んだが、僕にとって片山さんは「真に21世紀の音楽批評家の名に値する唯一の人」である。
──岡田暁生(京都大学准教授、中公新書版『西洋音楽史』著者)

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Posted by ブクログ

『音盤考現学』に続く第2弾であるが、こちらの方がはるかによい。
初出は『レコード芸術」の連載記事だが、連載を重ねるにつれて勝手がわかってきたのか、たいへんに説得力のある文章となっている。
「ふーん、こんな曲あるんだ」というような、あまり世間では知られていない曲が多く紹介されているが、そのすべてを「んじゃ、聴いてみよっかな」と思うわけではないだろう。
ところが、2006年の連載記事は、そのどれもが「聴いてみたい!」と思わせられるものばかりだ。
この年が、この連載記事の頂点だったと思う。
いずれにしても、すばらしい音楽評論50本である。

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2012年02月23日

Posted by ブクログ

異常に面白い。一晩で読みきってしまった。
今まで評論といえば「文句だらけの貧相な感想文」というイメージしかなかったが、この本に掲載されている50本(!)もの評論はいずれも独自の切り口と長い研究の成果が見事に「面白く」、知的に昇華されており、読んでいて興奮すら覚えてくる。

ただ私の不勉強からか、筆者のあまりの博識からか、読みながら易々と筆者の主張に説得され、違和感を覚えてもすぐに捻り潰されてしまう感じがある。これが筆者のスタイルなのだと思ってしまえば何の問題もないんだが、なんとなく悔しい。完敗です。

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2011年07月18日

Posted by ブクログ

本書の元の記事は、2000年から2008年までレコ芸に連載していた「傑作!?問題作!?」である。その全100本の記事の内、前半の50本が「片山杜秀の本 1 音盤考現学」に、後半の50本が本書に納められている。

1枚のテーマ・ディスクに対する記事なので、落とし所は限られてくる。そういう場合でも、取り上げられている盤がもっと良いものであれば(作曲家、あるいは演奏家がもっと良いものだったら)、もっと面白い話が展開されたのではないかと思われ、もったいないというか、残念という様な気がした。つまり、たまにはテーマ・ディスクに、話題になった盤や、名演や名盤と言われる様な盤があれば、華やかな話題になったのではないか、面白い話が聞けたのではないかということである。

本書は再編されて「音楽放浪記」というタイトルで文庫本にもなったが、取り上げられている盤が時代を越える様な名盤ではないので、賞味期限は短い。
また、月に一回なら面白いと思える記事でも、本としてまとめて読むと、強引な論説が気になってくるというきらいもある。「なるほど」と思わされる回もあるが、著者お得意の思想論でまとめ上げ、これはちょっと付いていけないなと思える回も少なくなかった。もっとも書き下ろしの本ではないので、出来にばらつきがあるのは、ある程度は仕方がないことであるが。

印象に残った記事は、「能とソヴィエト」というタイトルの回である。テーマ・ディスクはアファナシエフによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ集。これは、論考ではなく、片山氏がアファナシエフにインタビューした話が載っていて、アファナシエフに演奏テンポの遅さの理由をたずねたら、「フルトヴェングラーの遅くうねる演奏に影響されたことと、能の緩慢な時の流れ、能役者の声の持続に理想の美を見出したことが重なり、今の自分ができた」という。
アファナシエフのあの異常なテンポの遅さは、思想的とか哲学的とかいう言われ方もしていたが、そんな単純な理由だったのかと驚いた。あの演奏スタイルは、ただの美意識や好みの問題からきているわかり、謎が解けたようで嬉しかった。

初回限定特別付録として、巻末に袋とじになっていた対談「カタヤマモリヒデの作り方」は、片山氏がどのように育ってきたか、どのようなカルチャーに接してきたかが分かり、興味深く、面白く読んだ。

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2023年03月30日

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