あらすじ
遠くヨーロッパ中世、市井の人びとは何を思い、どのように暮らしていたのだろうか。本書から聞こえてくるのは、たとえば石、星、橋、暦、鐘、あるいは驢馬、狼など、人びとの日常生活をとりまく具体的な“もの”との間にかわされた交感の遠いこだまである。兄弟団、賎民、ユダヤ人、煙突掃除人など被差別者へ向けられた著者の温かい眼差しを通して見えてくるのは、彼らの間の強い絆である。「民衆史を中心に据えた社会史」探究の軌跡は、私たちの社会を照らし出す鏡ともなっている。ヨーロッパ中世史研究の泰斗が遺した、珠玉の論集。
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Posted by ブクログ
読みやすさ ★★★★
面白さ ★★★
ためになった度 ★★★
中世の中でも、特に賎民史に詳しい阿部謹也氏の短文集。日本の中世賎民史との類似が興味深い。網野善彦氏が本書の解説文を書いていることも、日本と中世の類似性のひとつの象徴といえる。
Posted by ブクログ
中世ヨーロッパの人々の暮らしを情感溢れる筆致で描く前段は、いわば究極の異文化体験といった趣。
中世ヨーロッパの世界は現代の我々から見れば剣と魔法のファンタジー世界そのものだが、考えてみれば当たり前の話で、世界を秩序づける説明の体系が、現代とは全く異なっていたということ。
後段は中世を離れ、歴史学とは何かが論じられるが、中でも、自由な市民が結成した、諸”協会”についての考察が印象に残った。
”協会”は中世の兄弟会やギルドの系譜に連なるということだから、このような”結社”はヨーロッパの市民にとっては由緒正しく、また自明のものだったのだろう。
だとすると、日本国憲法においてはやや唐突に感じられるが、”結社の自由”が基本的人権のデファクトスタンダードとされている意味あいについて、何となく得心がいった。