あらすじ
人生初のラブレターをもらい、幸せの絶頂にあった氏姓偲の人生は、突如後頭部に叩き込まれた一撃で唐突に断ち切られてしまう。 死んだはずの偲が目を覚ますと、目の前には黒ずくめの少女・泣空ヒツギが立っていた。死者を蘇生させる特殊な能力を持ち、巷で噂の連続猟奇殺人の犯人でもあるらしい不機嫌少女の凶行を止めるため、偲はいやいやながらも彼女の「実験」に従うことにしたのだが……。 第二の人生を強制的に歩まされることになった死人と、彼に執着する少女たちが織りなすネクロマンティック・ラブストーリー開幕。
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Posted by ブクログ
何者かによって殺されてしまった主人公の氏姓偲(しかばね・しのぶ)は、死者を蘇生される能力を持つ少女・泣空ヒツギ(なきがら・ひつぎ)によってアンデッドにされてしまう、という物語です。ヒツギは、偲を選んだ理由について、どんな環境にも適応できる特殊な能力を持っていたからだと説明します。自分が死んだことを認識し、首だけが残されても、そのことを冷静に受け止めることができる……というヒツギの解説を聞いて、「やっぱり、地味じゃね?」と冷静にツッコンでしまうくらい、異常な状況を「日常」として受け入れるのが、偲の特性です。
主人公がアンデッドになるというストーリーは、ライトノベルでは少なくありません。多くは、自分のおかれた状況を受け入れるために葛藤や試練があったりするのですが、本書ではそうしたドラマをすっ飛ばして物語を展開できるようなキャラクターが主人公に与えられています。他方、偲が立ち去ってしまった「日常」の世界に暮らしている幼なじみの故不院埋(こふいん・まい)の中に、秘められた「狂気」が配置されています。この仕掛けはおもしろいと思いました。
構成が少しぎこちないのと、心情の立ち入った描写が多くて理屈っぽいのが読んでいて引っかかってしまいましたが、本書が第一作だということですし、何よりおもしろいアイディアを出せる作者のようなので、期待はしています。とはいえ、2008年に本書が刊行されて以来、現在のところ続編は刊行されていないようです。