あらすじ
アメリカの歴代大統領の大きな課題の一つに、対中東戦略が挙げられる。イスラエルの安全をどう守っていくのか、石油をどう確保していくのか、過激化するテロ集団にどう立ち向かっていくのか――。しかし、新政権から声高に聞こえてくるのは、「イスラム・フォビア(反・嫌イスラム)」的な発言だ。本書では、偏見やヘイトが世界をいかに危うい方向に導く可能性があるかに着目し、中東世界とアメリカの「危険な未来」を読む。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
アメリカ大統領選挙はトランプ氏の勝利で幕を閉じた。それと同時に次のトランプ大統領がどの様な中東政策を行うか注目が集まるところだ。親イスラエルを掲げ、身内にもユダヤ教徒を持つ同氏の言動には常に注目が集まる。それは明らかに中東の和平の幕開けとはかけ離れたものになるのではないだろうか。特に今後トランプ大統領を中心とする閣僚人事には大きな注目があつまるが、前回大統領時代の様な、イスラムに対する超攻撃的布陣ともなれば、現在もなお対立を続ける中東各国の不穏な動きは助長され、少なからず邦人の身の安全にも影響を及ぼしそうである。
この閣僚人事については、前回政権時には軍関係者がずらりと並び、アメリカの政策そのものが、軍需産業と密接に関わっている事を改めて強く意識させる。ご存知の通り、アメリカは武器輸出大国であり、世界の和平が乱れれば乱れる程に国家財政が潤う仕組みを持つ。根っからの商売人であるトランプ氏が、自国の利益のみを優先するなら、表向きは世界平和を口にしながらも、出来る限り争いの多い状態を維持したいのは明確だ。ただし、それは自国の軍隊が敵地に直接赴いて、紛争に身を投じるのではなく、争う一方に対して武器を渡す形で行われる。そこにアメリカ国内の雇用も生まれ、国民は満たされていく。考えたくないがそれが事実だ。アメリカが沖縄に駐屯する事は、中国の対日政策に大きく影響しているが、そのアメリカが沖縄からの撤退をちらつかせれば、日本は単独では自国を守り切る事は出来ないから、費用負担を増やしてでも、アメリカを繋ぎ止めるしか方法は見当たらない。アメリカも本気で中国の太平洋進出を見過ごすわけにはいかないから、そこに日米交渉の肝がある。外交交渉というよりは、もう商談に近いと考えた方が良いだろうが。兎にも角にも、アメリカファースト、偉大なアメリカをもう一度、と叫ぶトランプ氏にとって、自国に不利益にならずに、紛争を中途半端に続かせる事は、アメリカの国益に適っている考え方である。世界地図を見れば、この様なアメリカにとっての商売の場、市場はいくらでもあり、過去の日本が真珠湾攻撃に踏み切った際の「ハルノート」の様に、少し力を入れて、マッチを擦れば、あっという間に炎が噴き出す場所をよく押さえている。アメリカに不法入国する近隣のメキシコおよびカリブ海諸国、中国の台湾に向けられた視線、何よりも異なる宗教を持つアラブ、中東地域。そしてロシアの南下政策を体現するウクライナ戦争。バイデンなら躊躇するロシア国内の攻撃が可能な武器の売却も、トランプの商売感覚からすれば、ただの美味しい市場なのかもしれない。先ずはその閣僚人事に注目していきたい。
本書はそんなトランプ氏の軍事に関わる前回の実績を眺め、新たな政権がどの様なフォーメーションになるか、類推するための一つのヒントになる。自らの商売を理解できる人材か、どの程度軍事面、商売面の実績があるか、過去にどの様な発言をしてきた人間かなど、今後大いに注目していきたい(大量の選挙資金協力をしたイーロンマスクなどは常日頃から、非情な措置も平気でやってのけるから、案外トランプ氏と上手くやれそうだ)。
本書後半では、トランプ氏の手法を過去のナチスドイツになぞらえて、手法を比較して論じる部分がある。当時のドイツは第一次世界大戦における賠償金支払いで経済が窮地に陥り、国民は大きな閉塞感の中、再び強いドイツを目指せる人間を求めた。選ばれたのはご存知の通り、アドルフ•ヒトラーであり、国民の不満はユダヤ人に向けられた。トランプ氏にとっての敵は、相変わらずイスラム系の国々であり、中国である事は言うまでもない。ロシアのプーチン大統領も何をするか、一般的な日本人からすれば未知数な部分も多い。だからこそ、最も注目すべきは、アメリカの対ロシア戦略であり、それが果たしてどの様なものになるかは注目を集める。ロシアも武器輸出大国の一つではあるから、もしかしたら、裏ではアメリカとガッチリ手を組んで、両国の自国とは離れた影響の少ない候補地を共同で探しているかもしれない。新冷戦とは、互いに相手の利益を理解したもの同士の武器輸出促進策の一環として、作用するものなのかもしれない。全くそうした予測•推察が的外れなら嬉しいが、案外部分的にはその様な動きが見られ、後日結果分析した際に、「結局儲かったのはアメリカとロシア」=「現代版ナチスヒトラーとスターリン」といった事が無いように、これはもう祈るしか無い。