【感想・ネタバレ】クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説のレビュー

あらすじ

なかなか死なない不思議な生き物クマムシ。
クマムシの信じがたい生態から愛すべき弱点まで、
研究室で起こる悲喜こもごもを交え、第一線の研究者が語ります。
「どんな状況で生き延びるのか」「どうやって極限状態を過ごすのか」「なぜそんな能力をもっているのか」「普段はどのように生きているのか」といった内容を通じ、生き物の不思議な力を感じられる1冊です。
人気キャラクター「クマムシさん」のイラストをたっぷり収録しています。
※紙の商品に付いているシールは電子版には収録しておりません。

【著者紹介】堀川 大樹(ほりかわ だいき)
1978年、東京都生まれ。地球環境科学博士。慶應義塾大学先端生命科学研究所特任講師。北海道大学大学院地球環境科学研究科にて博士号取得。NASAエイムズ研究センターおよびNASA宇宙生物学研究所にてヨコヅナクマムシを用いた宇宙生物学研究を実施した後、パリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所に所属。著書に『クマムシ博士の「最強生物」学講座─私が愛した生きものたち』(新潮社)『クマムシ研究日誌─地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)がある。ブログ「むしブロ」、有料メルマガ「むしマガ」を運営。ツイッターアカウントは@horikawad/@kumamushisan

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ミクロの闘技場と、2240万円のスープ——『クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説』が教えてくれたこと
夜勤明けの気怠さと達成感が入り混じる中、私はふと、自分を取り巻く日常のスケールから少し視点をずらしてみたくなった。ちょうどその頃、日経平均の暴落を笑い飛ばしたり、数年来放置していた足のイボとの地味な戦いにようやく勝ちが見えてきて密かに面白がったりと、身の回りのささやかな局地戦を楽しんでいた時期だった。そんなタイミングで手に取ったのが、2017年刊行の『クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説』(堀川大樹・著)である。
本書は、絶対零度や高放射線下でも生き抜く「最強生物」クマムシの驚異的な生態を紐解きながら、その謎に挑む第一人者の奮闘を描いた一冊だ。しかし、決してお堅い学術書ではない。著者がいかにクマムシという生き物を愛し、その「へんてこ」な世界に魅了されているかが、ユーモアたっぷりの研究日誌として綴られているのが核心的な魅力である。
私がまず心を奪われたのは、駐車場のアスファルトや道端の苔といった、私たちが普段見過ごしている場所のすぐそこに、これほどまでに奥深い生態系と世界が広がっているという事実だった。私たちの足元には、目に見えない無数の宇宙が存在している。そして、そのミクロの世界に身を投じ、一筋縄ではいかない困難な研究課題と日々格闘している人がいる。クマムシたちの愛らしさに気づかされると同時に、ちっぽけな世界を舞台に本気で戦い、そのプロセスを心底楽しんでいる著者の熱量に、私は強く惹きつけられた。私の「足のイボとの戦い」のような日常の些細な出来事すらも、視点次第でひとつの壮大なエンターテインメントになり得るのだと、価値観が重なり合った瞬間だった。
そして、本書の中で最も強烈なインパクトを残し、思わず唸らされたのが、巻末のコラムに記されていた「クマムシ実食」のエピソードである。慶応大学のクマムシ研究グループの方が、自ら飼育したドゥジャルダンヤマクマムシをスープにして食べたというのだ。その数、なんと8万個体。スプーン1杯分を集めるだけで途方もない労力を要し、時価にしておよそ2240万円相当になるというのだから狂気じみている。
さらに驚くべきは、それほどの超高級食材でありながら、その味が「熱帯魚の水槽の水(私の感覚で言えば、まさに近くの池の水を飲んだような感じ)」だったということだ。決して美味とは言えないその味の描写に思わず笑ってしまったが、同時に私は、これこそが「人類史上初のクマムシ実食」という偉大な飛躍なのだと感動すら覚えた。2240万円をかけて泥水のような味を確かめた彼らの探求心によって、クマムシは人間の「基盤となる食物群」のリストに名を連ねたのである。人類にとっては小さな一歩かもしれないが、とてつもなく大きな寄与であると言っていい。
この本を閉じた後、私の目に映る世界は少しだけ変わった。何気ない道を歩くたびに、そこで繰り広げられているであろうクマムシたちの営みと、それに人生を懸ける研究者たちの姿を想像してしまうようになったのだ。
未知を面白がり、どんなに泥臭くとも徹底的にのめり込むこと。それは、効率ばかりが問われる現代において、最も贅沢で幸福な生き方であると確信している。

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2026年04月01日

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