あらすじ
なぜトランプなのか? ニューヨークではわからない。アパラチア山脈を越え、地方に足を踏み入れると状況が一変した。明日の暮らしを心配する、勤勉なアメリカ人たちの声を聴く。そこには普段は見えない、見ていない、もう一つのアメリカが広がっていた。朝日新聞の人気デジタル連載「トランプ王国を行く」をもとに、緊急出版!
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Posted by ブクログ
ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書) 新書 – 2017/2/4
アメリカン・ドリームが死んだ先にあるものは現状への怒りだ
2017年5月20日記述
金成隆一(かなりりゅういち)氏による著作。
現在、朝日新聞ニューヨーク支局員。
1976年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
(大学の恩師は久保文明氏)
2000年朝日新聞社入社。
大阪社会部、米ハーバード大学日米関係プログラム研究員、国際報道部などを経て、ニューヨーク特派員。
教育担当時代に「教育のオープン化」をめぐる一連の報道で第21回坂田記念ジャーナリズム賞(国際交流・貢献報道)受賞。
好物は黒ビールとタコス。
他の著書に『ルポMOOC革命―無料オンライン授業の衝撃』がある。
2015年11月~2016年11月まで
アメリカの特にラストベルト周辺、アパラチア山脈の人々へのインタビュー、連載記事をまとめた本。
TVの特集などでトランプ支持者について何となくわかった気になっていたけれども、本書を読んで問題はより根深く深刻であることがわかった。
トランプが強かったのはバーニーサンダース上院議員に人気があったのとつながっていた。
本書では第6章でサンダース支持者について紹介している。
可能であればサンダース支持に関してもより深く取材し記事を読んでみたかった。
著者はプロローグにあるように米大手メディアのトランプ番記者にトランプが大きく伸びる理由を教えられた。
このことが大きな示唆として取材のはずみになったに違いない。
しかしこの番記者、トランプの遊説先を地図に落としてみるなど分析に優れている。
本書を読むとウォール街、シリコンバレーなど一部の地域しか1990年代の好景気の恩恵を受けていなかったことが分かる。
野口悠紀雄氏が指摘するような米は日本と違い新産業が生まれ新しい経済構造があるという指摘を読んだりすることもある。
しかしそれはあくまで米の一部に過ぎないのだ。
むしろ大半の州はそうではなかった。
本書を読んでいてまるでバブル崩壊後の日本の不況と大差が無いではないか。
あくまでアメリカはアメリカ合衆国であり多くの国の連合体だということを再認識した次第である。
増えない給料、老朽化するインフラ、工場移転で地場産業が無くなり孫世代の就職先が無い。
白人中年層の寿命が短くなっていること。
広がる薬物汚染。
インタビューしていた3人組女子大生の内、1人が夢は学費を返済することだと返答していたのには驚いた。
アメリカン・ドリームは完全に死んでいる。
ミドルクラスの象徴でもあった長期休暇を取って家族旅行に行くことも出来なくなっている。
多くのミドルクラスが貧困層に陥る中、企業献金に頼らず労働者、生活者、有権者の為の政治を求めている。
トランプの行った敵意を焚き付ける方法は正しいとは思わない。
それでもトランプ躍進、サンダース躍進の背景問題が解決に向かわない限り、既存政治の延長線はあり得ないだろう。
それは次のアメリカ大統領選挙でも同様だろう。
その辺りを踏まえた政策が民主党にも求められているのではないか。
とは言っても著者の指摘するように製造業や石炭産業の復活などあり得ないとは思う。
メキシコ国境沿いの壁建設も資金面で
難しいかもしれない。ただ人々は簡単には国境を越えれないし簡単に転居出来る訳でもない。
(逆に言うと転居を厭わず動ける人の強みも見えた気がした)
非常に難しい問題だ。またそれは日本にも当てはまる問題だ。
夢を失った地域は活力を失う。
夢を喪失せず希望を見いだせる社会を築く為には
何が出来るのだろう。
放置して時間が解決する問題ではない。
Posted by ブクログ
メディア等で多くの米国民がトランプ大統領の誕生に反対しているように見えた中、なぜ(得票総数そのものはクリントン氏を超えなかったが)大統領選で勝利することができたのか、という問いに現場面から答えようとする本。
「反グローバリゼーションとポピュリズム~『トランプ化』する世界」(神保哲生氏等著)においてもトランプ大統領誕生の要因の一つとして語られていた、ラストベルトに住む人々への訴求について、実際に当該地帯に住みトランプ氏に投票した人々の生の声を知ることができる。
本書に登場するラストベルトの人々に共通するのは、かつて真面目に働けばそれなりに豊かな暮らしが出来た上向きの時代(著者はアメリカン・ドリームとも表現している)への郷愁と自身ないし彼らの子孫の(そうした生活を享受することのできる)ミドル・クラスからの没落に対する危機感であった。トランプ氏の発言には論理的でない(矛盾する)面もあったり、事実に即していない点、具体性に欠ける点などもあったが、彼らはトランプ氏の掲げる理想(大きな方向性)に共感するとともに、特定団体からの献金に頼らずストレートな物言いのトランプ氏に(エスタブリッシュメントが政治を支配する現状からの変化という)希望を見出したのである。
本書の最終章では現場でのインタビューを踏まえてトランプ大統領が誕生した背景と民主主義への影響についての考察がなされている。グローバリゼーションによって得をした(所得が大きく上昇した)のは先進国の最上層と新興国の中流層(先進国の中流層は相対的な敗者)であり、この点が本書で取り上げられたような人々が登場した背景になったと筆者は説明している。また、今回の大統領選によって、民主主義の根幹である政府の正当性や言論の自由(暴力の否定)が脅かされる恐れがあるとの指摘もなされている。
本書に出てくるラストベルトの人々と同じような境遇の人は、我が国においても増加しているのではないかと実感する。マクロ経済的にはグローバリゼーション・自由貿易は是認されるべきものであろうが、急速な変化に乗り遅れ得る人々への対応・迅速な国内産業構造の転換をどのように行うべきか、政府には難しい舵取りが求められる、という点が含意されている。Brexitの例にも示されるように、今後当面は(先進各国において)グローバリゼーション及びそれに伴う急速な変化への反動として、このような潮流が予想されるだろう。