【感想・ネタバレ】脂肪の塊/ロンドリ姉妹~モーパッサン傑作選~のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

この作品を読むと、地元の同級生たちや、過去のバイト先にいたような、無責任で身勝手な人々のことを思い出す。

 この話の舞台は、普仏戦争でプロイセンに敗北した1871年のフランス。プロイセン軍が戦勝国としてルーアンの町を占拠しているなか、知り合いのドイツ人士官のつてを辿り、町から出る許可を取りつけた人々が4頭立ての大きな乗合馬車を確保。メンバーは、10人。
ワイン問屋を営んでいる、悪知恵が働くお調子者のロワゾーとその妻。
紡績工場を3つ所有している錦糸業界の重鎮にして県議会議員のカレ=ラマドンとその妻。
ノルマンディー地方でも屈指の名門に属しているブレヴィル伯爵夫妻。
修道女ふたり。
民主主義者として知られ、親の財産を革命のために食い潰したコルニュデ。
小柄な身体がどこもかしこも丸々としているから「ブール・ド・スュイフ」というあだ名がついている高級娼婦。タイトルになっている、「脂肪の塊」とは、この娼婦のことだ。

いわゆるリベラルな思想の持ち主であるコルニュデと、ロザリオを繰って祈ってばかりいる修道女コンビを除くメンバーは、「脂肪の塊」のことを「恥知らずな売女」と蔑んでいる。
しかし、ホテルがある村までの13時間にも及ぶ長旅で、食べ物を持参しなかった彼らは、「脂肪の塊」が持ち込んだ、美味しそうな食べ物が詰め込まれた大きなバスケットを目の前に差し出され、蔑みから媚びへと表情を変え、あからさまな手のひら返しをしてくる。「脂肪の塊」は、そんな連中にも、快く食べ物を提供したおかげで、馬車の中の10人は一応フレンドリーな関係になっていく。

ところが、ホテルに投宿すると問題発生。その村を仕切っていたドイツ人士官が、「エリザベート・ルーセ(「脂肪の塊」の本名)が自分と寝ない限り、出立を許さない」と通達をしてくる。最初は「脂肪の塊」と共にドイツ人士官への怒りを露わにしていた面々だか、日が経つにつれ態度を変えていく。

「あの《売女》はわれわれをいつまでこんな場所に足止めさせる気だろう」「ブール・ド・スュイフひとりをここに残し、他の者は出発させてくれるよう士官に提案してはどうか」(ロワゾー)
「どんな相手とでもあれをするのが、あの淫売の商売でしょ。選り好みする権利なんかありませんよ」(ロワゾー夫人)

いきり立ったロワゾーが「あのあばずれの手足をしばりあげ、敵の士官に引きわたしてしまおう」とまで言うと、上品な伯爵は「あの女みずからその気になるように仕向ければいい」と計略を練り、歴史上に存在した「征服者をくいとめたあらゆる女の例」を引いて必死に説得を試みるが、「脂肪の塊」は首を縦に振らない。

修道女も、「どんな行いであれ、その意図さえ立派なものであるならば、神の不興をかうことはない」。おまけに自分たちがル・アーヴルに向かっているのは、天然痘にかかって入院している多数の兵士の看護を要請されたからで、「あのプロイセン士官の気まぐれによって、こうして足止めをくっているあいだに、多くのフランス兵が亡くなっていくのだろう」とダメ押し。
とうとう根負けして、折れてしまった「脂肪の塊」に、一同、大喜び。セクハラもパワハラもモラハラも軽口ならオッケー的な、ダメなおじさん代表ロワゾーの下品なジョークもバカウケ。けっきょく、彼女は士官と寝ることで、翌朝馬車が出発することを許可された。

ル・アーヴルへの道中、『美徳の代弁者』達は、「脂肪の塊」の犠牲により出発出来たにも拘わらず、彼女を汚物のように無視して礼儀正しい会話を交わし、彼女が旅の始めに食事を勧めてくれたお陰で空腹から救われた事も、もはやすっかり忘れてしまったかのように、自分達だけで持参した弁当を食して彼女に勧める素振りは全く無かった。「脂肪の塊」が屈辱と同乗者に対する怒りで煮えくり返っている中、コルニュデは他の乗客へのあて付けのようにラ・マルセイエーズを執拗に口笛で吹き、歌った。最後には彼女は失われた尊厳に啜り泣きを堪える事が出来なかった。

小中学生や、アルバイトをしていた頃を思い返すと、なんか、世間の多くって、けっきょく、こういう人々の集まりだという気がするのだよね。

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2021年12月30日

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