あらすじ
プラグマティズムの最重要な思想家として、いま再び注目を集めるリチャード・ローティ。その政治的・社会的言説は、『哲学と自然の鏡』等の論著が提示する近現代哲学批判と通底している。彼の哲学は、絶対的真理にすがろうとする「客観性志向」を思考停止として疑問視し、自らを乗り越えていくための力として言語を捉え直した。ローティ個人と最も密接に交流のあった著者が、多面的な思想を平易明快に解説し、哲学史の系譜のなかで一つの筋へと繋げて見せる、決定版解説書。
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Posted by ブクログ
ローティのことを知りたくて読んだが、期せずして西洋哲学史を概観することとなり、かつ平易な語り口で、しかし確信を持って進む叙述には感銘を受けた。端的に言って良著。
Posted by ブクログ
ローティ本人の論文に挫折した私も、識者の解説で迂回してでも、ローティを理解しようと考えたため、本書を手にとった。蓋を開けてみれば、極めて分かりやすい説明で、ローティ理解は格段に進んだと言える。絶対的真理を掲げる人は怪しげだと見ていた私に、ローティの主張は恵みの雨であり、我々に関わりなく定まったものとして真理を探してそれに従うのではなく、我々を豊かにしてくれるような知見を形作り、さらにはそれも更新を続けて不断の発展を図る、というローティに心から賛同した。次はローティ本人の手に成る論文に挑戦してより良い理解を目指したい。とはいえ、アメリカと日本では思想風土は明らかに相違しているわけで、あまり熱狂的になってローティを妄信することのないようにしたい。そのためには、巷の話でもそうだが、極力正確に論旨を理解することだ。極力誤解のないように理解できれば、自分なりの視座を獲得できる気がする。冷静になって正確に読むことである。
Posted by ブクログ
リチャード・ローティの多面的な思想を、ローティと密接な個人的交流のあった著者が平易明快に解説。ローティの思想の前提となる哲学史的なことについても丁寧に触れられており、これを読むだけで近現代哲学の簡単なおさらいをすることもできる。
広範な哲学的話題に言及するローティの思想をたどることは、著者の噛み砕いた説明をもってしてもなかなか難解であったが、絶対的真理は人間の考えとは別に定まっていて、人間はそれを鏡のように正確に捉えるよう努めるべきという「自然の鏡」的人間観を否定し、人間の「創造的」行為を重視するローティの基本的考え方には非常に共感した。
Posted by ブクログ
リチャード・ローティは、20世紀後半のアメリカを代表する哲学者で、ネオプラグマティズムの主要な思想家。真理は文脈や実践に依存するため固定されたものではなく、常に変化し続けると主張した「真理の相対性」が有名。近代哲学の認識論的な伝統を批判し、哲学が絶対的な真理を追求することをやめ、より柔軟で多様な視点を受け入れるべきだと提唱した。固定観念にとらわれず、柔軟に思考することの重要性を強調したという事だ。
これが、ネオプラグマティズムの立場であるという事なのだが、ネオプラグマティズムという思想は解釈が難しい。「価値は固定されたものではなく、常に変化し続けるもの」、そして、「価値が実際の使用や文脈に依存する」とされると、そこにあったはずの正解は時間とともに変わる可能性があるのではないか。
つまり、どの範囲を抜き取って、解釈するかで正解が変わる。柔軟性がある事は良いのだが、結局、「決めつけない」という事で思想をリセットする価値のある主張ではあるが、「何も言っていない」ともいえる微妙な思想という印象だ。
ある技術が現時点で最適な解決策とされていても、新しい技術が開発されることで、その価値が相対的に低下することがある。以前は重要とされていた社会的な価値が見直されることがある。だからこそ、柔軟にいきましょうという主張だという事だ。脱洗脳、というか、意識改革というか、その点での啓蒙に意味がある。
本書は、こうした哲学者リチャード・ローティの思想を解説した本。絶対的な真理や客観性を疑問視し、言語を通じて自己を超えていく力について。また、ローティの哲学的背景や彼が影響を受けた思想家たち(デカルト、カント、ハイデガーなど)について詳述される。ローティの思想を理解するための入門書としても良さそうだ。
Posted by ブクログ
リチャード・ローティの哲学を、わかりやすい語り口で解説している本です。
ローティほど幅広い分野で活躍している哲学者は少なく、その思想の全貌を捉えることは容易ではありません。本書では、哲学プロパーの話題が中心となっており、政治思想についてはあまり述べられていません。著者はこれまでにも、「科学哲学者柏木達彦」シリーズなど、現代哲学の中心問題をわかりやすく解説する本を刊行しており、本書でも比較的ローティの思想になじみのない読者にも理解できるような工夫がなされています。
前半は、20世紀の言語哲学における最大の事件というべき言語論的展開と、それについてのローティの見方、さらに『哲学と自然の鏡』におけるローティの中心的な主張などが解説されています。後半は、ローティが従来の分析哲学と対局的な位置にあるとみなされていたハイデガーの思想をどのように読んだのかという問題や、彼のロマン主義への取り組みなどが扱われています。ただ、ローティの入門書でこれらのテーマに立ち入る必要があったのか、少し疑問に感じました。
また、ローティがプラグマティズムの立場から政治哲学の分野においてどのような貢献をおこなったのかということについてはほとんど触れられていないのも、少し残念に思いました。ただしこれに関しては、渡辺幹雄の『リチャード・ローティ―ポストモダンの魔術師』(講談社学術文庫)があり、本書の内容を補足するものとして読むことができるように思います。