あらすじ
出家した作家・宇都木のまわりには、姉の死や裁判を受けている俳優からの電話、獄中の死刑囚からの手紙などの“事件”が相次ぐ。作家として尼僧として、誠実に対応しつつ、虚が実で実が虚の世界を書き続ける。現実の展開を小説の中に映し、自らの道をわき目もふらず独り歩きつづけた作家の、人生への愛と哲学に満ちた長編。瀬戸内寂聴が得度十年目に書いた、「亡き姉に」捧げる一冊。
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Posted by ブクログ
著者は俗評にまでまみれた超の付く著名人だが、著作を読んだのは本作が初。
挑戦的?とも思えるタイトルについ惹かれ、手に取って読んでみた次第。
これは傑作だ。読みながら何度も繰り返しそう確信しながら読み進む。こんなこと、珍しい。文章が、表現が、描写が、構成が、どれも唸るほど美しく、心に染み入る。
作中で著者自身も書いている通り、「私小説」なるタイトルには幾重にもトリックがあるようだが、それは決して薄っぺらく安っぽい試みではない。多くの登場人物に実在のモデルが居ることも容易に分かるが、さりとてその「実物」と作中の人物がどこまで重なるのか?…というような俗物的な詮索をする気など全く起こらない。そのくらい見事に「小説化」されている。その筆力がスゴイ。
他の著作を一切読んでいないが、何となく「本作こそが著者の最高傑作なのでは」と確信するに近い読み応えが味わえた。
ご存命のうちに、一度でも良いので生のお声を聴きたかった。