あらすじ
物事にはすべて合理的な理由がある。
しかし、合理的な考え方は合理的であるがゆえに、常識を打ち破るような非連続的な変化はなかなか生み出せない。
もちろん、合理性を無視していいわけではない。また、非合理的なことをしたからといって即イノベーションを起こせるわけでもない。
しかし、合理性を超えないことには、どうやらイノベーションはなかなか生まれないのである。
(まえがきより)
第1章 成功者は合理性を超える
大きく成功するためには合理性を超えることが必要であることを、定性的な話を中心に述べている。
第2章 合理性を踏まえること、合理性を超えること
定量的な分析方法や意思決定方法の中から代表的なものをいくつか選び、経済合理的に意思決定するとはどういうことか、また、合理的と思われている各手法の落とし穴がどこにあるのかについて述べている。
会計的な知識をベースとした、経済合理的な分析手法に関するテクニカルな分析手法に踏み込んでいる。
第3章 合理性を超えたケース、超えられなかったケース
実際の企業の事例に基づく14のケーススタディ。合理性を超えたケースと超えられなかったケースについて考察を加えている。
第4章 合理性をいかに超えるか
合理性を超えるためにはどうしたらいいかということについて、筆者の考えを述べている。
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Posted by ブクログ
ロジカルシンキングに代表されるように、「経済合理性」はビジネスの基本です。
しかし、所謂イノベーション(競争環境の非連続的な変化、パラダイムシフト)というものは、得てして合理性だけでは説明のできそうにない、一見合理性を無視したかのような事象といえます。
著者は、イノベーションとは合理性を無視するのではなく、「合理性を超えた」先に生み出されるものだと解釈し、多様な事例で「合理性を超えるための」示唆を与えてくれます。
取り上げられる企業は当然のごとく、アップルやグーグルをはじめ、JALやパーク24など、日本企業もいくつか登場します。
イノベーションを取り扱った数ある専門書の中にあって、本書のユニークなポイントとして面白いと思ったのは、「合理的なビジネスとは何か」「合理性を超えているとはどういう状態か」といった本書の核心について、表面的な事例だけをツラツラと書き連ねるだけでなく、統計学や会計、財務の視点から迫っているところです。
具体的には「平均値を用いる危うさ」、「機械的な減価償却配賦の限界」、「キャッシュフローはプラスであるべきという考えへの疑問提議」などで、より実務的で具体的な数値を例にイノベーションについて考察することが可能となっています。
また、合理性を超えるためには、経営者の独断や(合理的に考えた場合の)リスクを背負う覚悟が避けられないことから、企業の内部統制や監査といった、コーポレートガバナンスの仕組みがイノベーションを阻害する危険性を指摘しています。
さらにこのような風潮は米国よりも日本にディスアドバンテージがあり、そういった意味で、「麻薬の常習歴があり、最終学歴は高卒。未婚のまま彼女を妊娠させ、生まれた子どもは認知しない。天下のスタンフォード大学では不適格な発言を連発。交通法規もまったく無視し、スピード違反で捕まっても反省の色ひとつ見せずに警官に悪態をつく。」このような人間=スティーブ・ジョブズが、日本の上場企業の社長になれるとは到底思えない、という著者の意見には納得させられました。
一方で、日本ならではの、助け合いの精神や、あいまいさを許容する風土などを活かした日本的な経営の可能性に示唆を与えつつ、教育や働き方の変革についての提言もあり、決して日本企業に悲観的ではありません。
企業とは、経済的な成長が至上命題であるため、「経済的に合理的か」「経済的に論理的か」といった問いからは逃れられない運命にあるわけですが、本書の冒頭にもあるように、本質的に人間は「わくわくすることが好き」なのであり、わくわくするモノ・コトには非合理的な側面が強く、合理性だけでは人間は惹き付けられないという、企業がビジネスを行っていく上で根本的なジレンマが存在します。
そのようなジレンマを一挙に解決するツールや特効薬は存在しないと自覚した上で、常にそのヒントやチャンスを積み重ねていくために、本書が提示する視点はとても参考になると思います。