【感想・ネタバレ】意識はいつ生まれるのか 脳の謎に挑む統合情報理論のレビュー

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Posted by ブクログ

当たり前に捉えられている意識の不思議と、意識が生じる源となるものは統合情報量であるとする統合情報理論(IIT)について書かれた本。著者の1人がIITを考案したジュリオ・トノーニであったためIITについて詳しく書かれているかと思っていたが、どちらかというと意識の不思議に主眼を置いた内容であった。
個人的に面白いと思ったのは以下の3点である。
①意識の研究には実用性が薄いと感じていたが、臨床現場での患者の意識状態(昏睡、植物状態、最小意識状態など)を判別するために、「意識とは何か?」という問いに答えるのは医療現場では喫緊の課題であるということが分かった点。
②臨床での意識状態の判別結果と、TMS脳波計測によるTMS刺激の脳全体への広がり方に強い相関が見られたという点。
③睡眠時と覚醒時のTMS脳波計測で、刺激の広がりに違いがあったという点。

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2024年05月12日

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読み心地がすこぶる快適で、ミステリー小説を読み進めるような構成の妙。

直前にダマシオの『自己が心にやってくる』を読んで翻訳物の神経科学は僕には早いかもと打ちのめされてたところ、救世主のような救いの手を差し伸べてくれました。しかし、カバーデザインからは堅苦しい印象を受けてたので、読み手を選ぶだろうなと少し惜しい気持ちがある。

意識とは何か?という壮大なテーマに「統合情報理論」という手法によって挑む。解き明かされる謎もあるし、まだ霞が晴れない議論(意識分布図、統合や情報を司るコアなるものの解明)がある。それでも、意識というぼんやりしたでもクリティカルな問題に対して着実に解像度が上がること間違いなし。この議論の現在の展開が知りたいけど、参考図書あるかなー探してみよう。

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2024年03月18日

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初心者には難しかったが、大変読み応えのある本だった。情報統合理論をちゃんと説明出来ないが、「脳って凄い」という事は分かった。その点で言えば著者の企みは成功しているのではないか(本当はダメだけれど)。「意識の単位φ」や地球上に存在するあらゆるものに意識はあるのかという問いも興味深い。図や写真が豊富で見てて楽しかった。

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2022年05月08日

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意識という重大にして永遠の課題みたいなテーマがまず面白いし、統合情報理論についても大まかな理解が得られたと感じたからよかった。数式も用いられてないので誰でも読めます。

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2021年06月05日

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意識発生のメカニズムについての仮説をわかりやすく解説している。まず脳の働きと意識の関連とその不思議な働きから説明が始まり、Nスペの『驚異の小宇宙 人体』ファンとしてはそれだけでワクワクする。そこから、実際の現象との比較から順を追って矛盾がないことを説明するくだりは興奮して本をめくる手が止まらなかった。もうこうなると人工知能の領域で意識発生を実証してもらいたいところだが、そこまでは触れられなかった。あくまで著者は臨床医なのかな?しかし、こうなると意識を持つAIの登場する日は近いんじゃないかと思ってしまう。

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2020年12月13日

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意識があるとは何なのか。一見自明そうだが、現象として把握しようとすると実に掴みどころのない問を平易にかつ論理的に紐解いている良書。

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2020年05月06日

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意識がいつ生まれるのか。その謎にいどむ統合情報理論。それを推理小説のように、これを調べたらこうだった、次にこれを調べたらこうなっている、だから今度はこうなるのでは、と興味を途切れさせないような語り口で意識の存在への探求へ導いてくれる。脳から小脳を取り除いても意識は存在するという。しかし視床ー皮質系がやられると意識はなくなる。そこに意識が存在するのか?小脳との違いは何か?ニューロン間の接続の仕方によるらしい。左脳と右脳間を結んでいる連絡橋が大脳皮質にはあるが、小脳には存在しない。小脳は各モジュールが単独で存在するらしい。大脳皮質では縦横無尽にニューロン間に接続存在するという。

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2018年10月19日

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ネタバレ

 やはり意識は「自分の行動・考えを眺めること」だと思う。例えば、他者とコミュニケーションできるだけじゃ足りない。一応犬でも、猫でも、こっちが働きかければ向こうは反応する。犬だったら主人が撫でれば、嬉しいって思うだろうけど、犬が嬉しいって思うのを自分で認知してこそ「意識」だと思う。そうじゃないと、コンピュータが嬉しいって言ってるのと変わらないと思う。それらの違いは「リアルかリアルじゃないか」だけ。
 例えば、人間がチャリンコ漕ぐのは無意識っていうし、これと同じ。右ペダル踏んだら左ペダル踏む。犬とのコミュニケーションはこれと一緒だと思う。
 もう一個例。映画でありがちな、主人公が目覚めて「ここはどこだ、俺は一体・・・」ってなるシーン。意識を回復しているが、文字通りこれこそ「意識」だと思う。自分の置かれている状況を理解し、それが不自然だと思う、つまり自分のこれまでの一般的な状況と今の不自然な状況をどちらも眺めており、その差異が分かるからこそ不自然だと感じる。これが「意識」。意識がない犬とかは「ここはどこだ?」ってなっても、自分の置かれている状況を理解できなさそう。
 って書こうとしたが、普通に犬も「ここはどこ?ご主人様は?」ってなってオロオロしそうで、あれ、これって自分が置かれている状況理解してるよなって思ったから、犬にも意識あるのかも。
 よく分からんくなった。

 ただ、何となく動物・植物には一般的に意識があるような気がする。それは進化してきたから。進化は周りの環境に適応する、ということ。もし全ての進化が突然変異ではなく、動物の主体的な適応によってなされてきたのなら、動物は自分の現状を理解しているということ。(例えば、もっと舌が長ければ、このアリ塚からアリたくさん食べられるのに、みたいな)
 
 もうひとつ夢を見ているときに、著者は「意識がある」って自明のように説いてるが、本当にそうか?夢を見ているとき、人は往々にして「夢をみているか否か」分かってないはず。それは自分の現状を分かっているとは言えないと思う。それか、「夢の中で登場する自分を夢の中で認識している自分がいて、それが夢だとは分かってないだけで、『夢の中で意識がある』」とも言えるような気がする。
 一応、矛盾はしないっぽい。

 ただ、著者の言うようにあらゆるレパートリーに下支えされた統合された情報っていうのは、単純に納得できる。知的に刺激的な良著でした。
 「広い繋がり(分解できない)がないと、単純なリアクションしかできない。広い繋がりがあっても、一様なリアクションしかできない場合もある。広い繋がりが複雑に絡みあって、はじめて単純なリアクションの裏に、多種多様なレパートリーが含まれるからそれが意識となる。」

 「統合された1なるもの」か否かが、ここでは大事だと言われている。それは納得できる。しかし、もし超知的生命体が現れて、情報を統合しつつ、それを複数行い、同時多発的にアウトプットできるとしたら??それは我々にはもちろん理解できないし、どのように彼らがコミュニケーションしているのか、それを意識と呼ぶのか、謎となるのでは??いや、結局それは、「統合された1なるもの」を複数持っているってだけで、意識の定義を否定するものではないか。

 伊藤けいかくの小説(タイトルは忘れた)で、脳移植を繰り返されて、完ぺきな暗殺を行えるようになった人が、ある暗殺を行ったことを忘れていた、という一説を思い出した。なぜなら脳が完全に暗殺の手順を覚えていて、それが「無意識に」行われたから。その主人公は衝撃を受けていたが、同じ刺激を繰り返すと脳はそのリアクションを小脳に送っていってしまうのだなと痛感した。

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2017年09月30日

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ネタバレ

一般人にも読みやすく、かつ著者の人文科学的素養もあって、楽しく読める。内容的には意識は大脳皮質系の複雑で統合的な活動によって生まれるのではないか、ということを科学的に証明した本。タイトル通り「意識はいつ生まれるのか?」を証明した本です。

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2016年12月27日

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意識とは何かを論理的に説明している。これは凄い。本の半分までは一気に読み進めることができる。難しい内容も含んでいるが、わかりやすく書かれている。具体的なエピソードが多く含まれイメージがしやすい。
 意識の正体を統合情報理論で解き明かす。数値化による説明と検証実験により統合情報理論が間違いだとの結論は導けない。
 意識と知能は同じものなのか?AIに関する話も多くでてくるが意識と知能が同じものと明言はしていない。しかし、後半を読み進めていくと意識は知能だと明らかに解釈できる。そうであれば統合情報理論はシンギュラリティに対しある条件を示していると考えることができる。

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2016年06月05日

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「意識」についての脳の研究

ごく当たり前のごとく扱われているが、
非常に不思議なものである「意識」を、
脳を調べることによって解明していこうという試み。
その定義や、科学的な研究方法の確立、検証、考察と、脳科学だけに収まらない内容。

もちろんはっきりしたことは少ないのだが、
こういった第一歩のような挑戦をきっかけに
将来的に解明されていくのかと思うと、
今読めて良かったと感じる。

それと、
教養を要するような内容で、しかも翻訳本であるのに非常に読みやすい。
一般人向けに書かれたためか、イタリア人の文章がまわりくどくないのか、翻訳者が凄いのか。
とてもすっきりしていてわかりやすい。

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2023年02月12日

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物質としての脳からどのようにして主観的な意識体験(クオリア)が生じるのかを説明する「統合情報理論(φ理論)」の解説

●未解決問題

人間の意識には
・「脳内で情報がどのように処理されているか」という物理的過程を扱う「意識のイージープロブレム」と
・「物質および電気的・化学的反応の集合体である脳から、どのようにして主観的な意識体験が生まれるのか」

という二つの問題がある

後者はほぼ解明されていない


●「意識の情報統合理論」
トノーニの研究チーム 脳波計

・「わたし」という主観的な意識は、その意識が体験する身体の所有者にのみ存在するという考え方からスタートし、主観的に体験する情報が統合されて初めて意識が生じることになる。

・トノーニは、ある物理系が意識を持つためには、ネットワーク内部で多様な情報が統合されている必要があるとする

●情報統合理論

基本的な命題は、
ある身体システムは、情報を統合する能力があれば、意識がある、というもの。p111


●公理から導き出されるもの

意識を生み出す基盤は、おびただしい数の異なる状態を区別できる、統合された存在である。つまり、ある身体システムが状態を統合できるなら、そのシステムには意識がある

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2022年10月31日

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本の3/2程が意識が生まれるための条件の話、そこから本の副題にもある統合情報理論を導き出し、残りの3/1で理論の裏付けや今後の話をしている。
臨床例が多く説明がわかりやすい。専門的な単語が出てくるが、あわせて解説もしてくれているので素人でも理解することができた。
多少話が回りくどく、この場面でその例は本当に必要なのか?と思うところが多々あったが、内容自体は興味深く濃いものだった。

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2020年12月31日

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意識があるとはどういうことか、という難しい問題に取り組む本。
AIを人工「知能」だとは、ちっとも思わないけれど、このまま、コンピュータが、ニューロン、シナプスをどんどん模倣し続け、どんどん複雑なタスクができるようになってくると、そのうち大概の事は、人間と変わらずできちゃうんじゃないだろうか、とか、そうなった時に、コンピュータには意識ができる時が来るんだろうかとか、気になるところ。
この本は、コンピュータには意識は宿らない説。
難しいテーマの割に驚くほど読みやすい。
しかし、その読みやすさは、肝心な理論の中身をほとんど議論していないからでもある。確かに、数式バンバン出てきて、面倒くさいことを更に難しく言われるのも嫌なんだけど、全然説明しないで、数値だけ示されても困るんだよ。この系は、ファイが20とか書いてあると、何で20なのか気になっちゃうじゃないか。
統合が、情報を省略することで示されるかは疑問。多様な入力を小さいアウトプットにできれば良いと言う事は無いのでは?
最後はポエム。

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2020年02月29日

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①他人の脳の中に意識の光が灯っているのかどうかを確かめる方法は今はまだ無い。

②意識を生み出す基盤はたくさんの数の異なる状態を区別できる統合された存在である。つまり、ある身体システムが情報を統合できるなら、そのシステムに意識はある。

③脳の特徴は1つに統合されているということであり、日常にあるものは単一のものの寄せ集めにすぎない。

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2020年01月12日

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手のひらに乗るくらいの大きさの物質である脳に、どのようにして意識が宿るのかを説いた本。
進化の系統的にどの段階で意識が発生したのかや、人間の成長のどの段階で意識を持つのか、を説明しているわけではない。実はそう思って読み始めていた。実際のところは、意識が生まれるためにはどのような条件を満たせばよいか、が近い。
そして、その答えを導くのが「統合情報理論」である。重要なのは、情報に多様性があり、なおかつ全体が統合されているという、そのバランスである。それをΦという単位で表している。小脳はシナプスが非常に多く多量の情報を扱うことができるが、全体として統合されておらず、意識を宿すことはない。心臓は統合されたシステムだが、単純なパルスを刻むだけで、情報量は少ない。当然、心臓には意識はない。
今のところ、Φが大きいシステムとなっているのは、大脳の視床皮質である。
興味深いポイントは、Φは連続量であるため、意識がある/ないの境界をはっきり分けることはできないということ。覚醒した人間のΦは大きいけれど、寝入る寸前や、麻酔から覚醒する過程などはΦが小さい。乳幼児のΦも小さいのかもしれない。サルやイルカやイヌやネコは人間と同じ言語が使えないというだけで、高いΦを持っているのかもしれない。昆虫にも意識があると言えるのかもしれない。
統合情報理論はまだ確固たる裏付けはないらしいが、世界の見方をちょっと変えることができた。

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2019年03月25日

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”意識”というものをどうやって測るのか?
この難題に様々な理論、臨床試験を経て迫っていく過程を分かりやすく解説する。

普段意識することは無いが、わずか1.4キロの物体である脳がこの”我”の思考、記憶、全てを司っているかと思うと不思議な感覚になる。
特に覚醒時、睡眠時、植物人間などの明確な違いを様々な方法で浮き彫りにしていく過程は面白かった。
こういう、最先端の脳科学や医学を分かりやすく書いてもらうと全く専門知識が無くても色々知ることが出来て有難い。

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2019年01月01日

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意識の源泉を解明しようとする理論はいくつも提唱されているが、統合情報理論は最も合理性の高い理論の一つだと考えられている。本書では、意識の宿る物体と、意識の宿らない物体の物性的な違いに着目し、情報統合可能な結合を有するシステムこそ意識の源泉だと考える。しかし、意識の解明には技術的困難さが伴うため、未解決の問題がいくつも残されているのも事実である。

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2017年04月09日

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頭から体に伝わる電気信号。
それが体を動かすのだけれと、反射とはまた違う個人の意識はどうして生まれるのか。
普段全く考えたことがない内容だったので、とても面白く読めた。
でも結局は解明されておらず、むだまだ研究の余地がある分野で面白い。
基本的な脳の役割から説明してくれているので、復習+αの知識も得られる。

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2017年04月02日

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脳科学に関する専門書のようでいて、実は一般書なので非常に読みやすい。
意識とは何かを考える哲学書の側面も持ち合わせている。

個々のニューロンが相互に関係しあったとことろに、情報統合が発生し、それを意識として定義している。

この様な考え方によれば、意識は人間だけが持つ訳ではなく、他の生物にも当然意識はあることになる。
また、発展して考えれてば、外部からの刺激によって、情報統合させ行えば人工知能にすら意識を持たせることは可能だと思えてくる。

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2017年01月10日

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意識とは,という問題に実践的で,地に足のついたアプローチで取り組んでいる印象。脳の統合情報理論というものはこの本で初めて知ったが,とても興味深い概念。

哲学的ゾンビ,自由意志,等の問題。

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2017年01月02日

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統合情報理論、理論としては面白いけど、それが意識の根源になっているというのはどうかなあ、直感的には信じられない。読み物としてはよくできていて面白かった。

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2016年10月30日

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意識を生みだす基盤は、おびただしい数の異なる状態を区別できる、統合された存在である。つまり、ある身体システムが情報を統合できるなら、そのシステムには意識がある。

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2016年10月23日

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「意識」というものに対しては、小さい頃からずっと不思議に感じている。
「意識=自分=人生そのもの」のように思ってきた。

意識って何なんだろう?
サルや猫や魚や虫に意識はあるのか?
どこまであってその境界は?
死んだら意識はどうなるのか?
肉体と意識は分離できるのか?本当に一体のものなのか?
死んでも意識が残るということは不可能なのか?
意識をコピーできないのか?
などなど…

ほぼ半世紀生きてきたが、意識に対するクエスチョンマークは一向に減ることはない。この間、ニューロンやシナプスの構造や働きが解剖学的・生理学的に解明されてはきたが、意識の謎は解明されない。

しかしこの本は少し手がかりが見える。
特に植物状態や昏睡状態に陥っている人の意識の問題は深刻で、かつ示唆に富んでいる。それは、意識のある状態とない状態の境界に位置する問題だからだ。

情報量と伝達の構造と多様性(複雑性)が鍵になる。
これは組織の在り方や人間社会の在り方のヒントにもなる。

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2016年10月02日

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タイトル通り「意識はいつ生まれるのか」をテーマにした本。著者の戦略は、まず意識の有/無を定義し、それぞれの場合の脳の状態を観測して差分を調べることで、意識が発生するための「脳の状態」に関する条件を探ろうとするものである。

人間の脳のうち、小脳のニューロンが800億個と脳全体の半分以上が集まっているにも関わらず、小脳を取り除いても生命は維持できる上に意識も存在している。一方、大脳皮質には約200億個のニューロンしかないが、大脳皮質の障害は意識状態に大きな影響を与える。このことは、単にニューロンの数が意識を生み出しているわけではないことを示している。また、睡眠状態の脳の活動の量を測定すると、ほとんど覚醒時のそれと変わらない。一方、TMS (Transcranial magnetic stimulation: 経頭蓋磁気刺激法)により直接的に脳内のニューロンを刺激した反応は睡眠時と覚醒時は大きく違っており、睡眠時は同期した単調な反応しか生じないのに対して、覚醒時のそれは非同期な複雑な反応をするという。著者は、この違いが「意識がいつ生まれるのか」を判定するために非常に重要なものであるとする。

著者らは、このような近年得られた知見をもとに、「ある身体システムは、情報を統合する能力があれば、意識がある」(p.111)という仮説を提唱し、これを「統合情報理論」と名付ける。彼らはシステムの統合度と複雑性を表す数値をΦと定義し、それを「ある物理的システムがあらゆる方法で揺さぶられたとしたら、どのような反応をしうるか、を表す数値である」(p.270)と定義する。そして意識レベルを表すこの値は「脳が潜在的に持つ選択肢の数によって左右される」(p.270)とし、その数を測定することで判定が可能だとする。もちろん、この値を現時点で直接的に測定することはできない。しかし、著者らはそれを将来的には測定し客観的に比較することが可能な数値であるとしている。そのことで、動物に意識はあるのか、コンピュータは意識を持つことができるのか、といった問いを数字的に測定可能な問いに置き換えることができるとしている。

この本に対する批判があるとすれば、著者らが提唱する情報統合理論におけるこのΦの測定可能性が、少なくとも本書の中では「一連の複雑な計算プロセスを経る必要がある」とするだけで明確ではないことだろう。「外側から観察するだけでは不十分」で「あらゆる方法でシステムに揺さぶりをかけるだけでなく、情報がいろいろな構成要素によってどの程度共有されているかも調べなければならない」としているが、このような「あらゆる」という仮定を導入しなければならないものが自分にはそれが測定可能であると思えない。これらの疑問は、専門的な研究論文などでは言及され、解消されているのだろうか。 また、何ゆえにΦの値が意識レベルを表すものであるのかの根拠が弱い(ほとんどない)という問題も挙げることができる。「『意識とは何か』という哲学的な問いには答えない」としているからといって、その疑問に答えなくても、彼らの主張が成立することを説明しなくていいということにはならない。

繰り返しになるが、本書は「意識がいつ生まれるか」について説明するものであり、「意識とは何であるか」を説明するものではない。そこに物足りなさを抱くこともあるかもしれない。
本書では、脳梁を切断したときに、どうやら二つの個別の意識があるらしいことや、脳の局所的反応から意識生成までに0.3秒~0.5秒かかることを説明している。これらの事実は、意識が情報の統合から生まれるという仮定と合致するものである。いずれにせよ、この辺りの知見は近年の脳を測定する技術が進展したことの成果である。技術の進化はつい最近のことであり、かつ発展途上でもあるため、「意識とは何か」ということに関してもまだまだこの先にも新しい話はありそうだ。

なお、第一章から第九章までを第五章を中心にして、前半四章で階層的に出される問題に対して、後半四章でミラーにして回答をするような構成になっているが、その工夫の効果はいまいち感じられなかった。期待していたものに対しては少し十分なものではなかったのかな。

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2017年12月23日

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 シナプスの量からいえば小脳のほうに多いのに、なぜ意識は大脳にしか生じないのか。重要なのはたんなる複雑さではなく「システムが抱え持つ潜在的なレパートリーの大きさ」なのだと説く。人間が部屋を「暗い」と言うとき、そこには「明るくない」だけではなく「赤くない」「星空ではない」「音がしない」といったあらゆる「ではない」が含まれている。意識とは、こうしたありとあらゆる情報が統合されたものでありるのだという主張だ。

 大脳は左右の半球に分かれていて、その間で対話をすることで複雑性が高められている。あらゆる情報からひとつのものを取り出すことと平行して、わずかな情報から多様な可能性を引き出すことが、「意識」の条件であり、結果でもあるということだろうか。

 視聴覚器官からの情報が脳みそをぐるっとまわって、いろんな可能性のなかからひとつを取り出してくるには、0.3~0.5秒ほどかかるそうだ。「自由意志」仮説への疑いとして、「手を伸ばしてアレをとろう」と考える0.3秒前にはすでに手には信号が発せられているというものがあるが、最初のピン!という信号から「意識」のほうが遅れて形成されるとすれば、頷ける話だと思う。

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2016年02月21日

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脳がどのような状況下で意識があり、ないのか、その差について追求している。
結果しては、適切に情報統合された状態が意識がある状態ということ。では、その状態は人間以外にもありうるのか、といった部分は明確な結論は無い。

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2020年12月09日

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意識と情報量の関係がキーポイントというのが面白かった。
エントロピーの高い状態のものを予測できる能力が重要。

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2019年10月06日

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他の臓器と、脳。デジタル機器と脳。何が違って意識が生まれるのか。
仮説と検証、データ解析をしながらその謎に迫ります。
実験の一つに「電気はついているか、あるいは消えているか」を答えるものがあり、それによってわかったことがとても印象的でした。「電気がついているか、消えているか」なんて考えなくてもわかることだと思いきや、人はそれ以外の要素を排除していたことがわかったからです。
検証の結果は必ずしも期待した結果が得られるわけではありません。それでも、それではいけない、足りないということがわかるところは、神経科学に従事していないものにも通じることだと思いました。
この本は、前半は問い。後半はその答えとなっていて、構成が工夫されていたところも面白いかったです。

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2016年07月04日

Posted by ブクログ

「一なるもの」から意識が生まれるという考え方。この考え方であれば、コンピュータ上にも意識を作ることは可能。しかし、その意識は外界に対して反応するものなのでは、とか、自分のモチベーションというものは何に由来するのか、というところは見えてこない。
でも、専門家でなくても、こんな思考議論ができるほど、噛み砕いてわかりやすく書いてくれてる本は、ありがたい。なんにしても、興味深く、引き続きウォッチしていきたい領域。

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2016年02月14日

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