【感想・ネタバレ】山本周五郎で生きる悦びを知るのレビュー

あらすじ

「――これまでかつて政治が貧困や無知に対してなにかしたことがあるか」……誰か他の小説家がこれと同じような台詞を書いているのを読んだら、辟易してすぐ本を閉じることだろう。ところが周五郎の小説では、この「赤ひげ」の分かりやすい正義が心に迫ってくる。何故だろうか……。人間の人間らしさを生涯にわたって探究し続け、自らの生活そのものを小説にささげた周五郎の小説の言葉は、どこかからの借り物ではなく、彼自身が自ら獲得してきた言葉である。彼自身の言葉を用いれば、周五郎は「貧困や病苦や失意や、絶望のなか」の「生きる苦しみや悲しみ」そして「ささやかであるが深いよろこび」を描こうとしたと言えよう。あらゆる文学賞を辞退し、ただひたすら自らが「書かずにいられないもの」を描き続けた作家の真髄を味わう。

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Posted by ブクログ

山本周五郎があらゆる文学賞を辞退し続けたという話は有名である。
周五郎は、「文学は賞のためにあるのではない」というのが持論だった。
筆者は、なぜ、そのような考え方に至ったかを周五郎の生まれ育ってきた環境を丁寧に分析している。
世間の片隅で、肩を寄せ合って極貧の身で、運にも恵まれず必死に正直に生きようとする人物を周五郎は描いた。
また、愚直なまでに正直なゆえに、罪を犯してしまうというような人間の弱さを描き、あまた、周りの人間の愚直なまでの親切心で、人々が救われる。
庶民であろうが、武士階級であろうが、人間が本来持っているであろうという心性を周五郎は信じ、自分がこうだと信じたテーマを長年温め、小説に書ききる。
そんな周五郎が取ってきた態度を筆者はフランス文学者としての立場からも解き明かす。
まさしく、「山本周五郎で生きる悦び」を改めて教えてくれた本でした。

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2017年04月12日

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