【感想・ネタバレ】春の嵐のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 数あるヘッセの著作の中で『知と愛』に続く、かなり上位の作品となった。
 主要なテーマの一つとして、「青春と老い」があったと認識しているが、かつての青春の暗さもやがては心の内に定まるところを見つけ、私は今のところ否定的な言い方しか出来ないのだが、つまり人間は青春に限らず全ての過去を美化することしか出来なくなってしまうのか、という結末だった。その点で青春のうちに、愉しいうちに死ぬことを選んだムオトは私にとって最も美しく真実味を帯びている人物だったのかもしれない。しかし、私がもう少し年齢を重ねて再読した時は、この本は私にとって過去を掬いあげてくれる、綺麗にまとめられたものとなるのだろう。
 私は主人公・クーンと感情の波や自分についての考え方(劣等感への遇し方など)が似ていると感じることがあったので、久しぶりに登場人物と自分を重ね合わせて、読後心が洗われたと思うような一冊だった。
 美や音楽が作品の通奏低音となっていた。私には登場人物が音楽をやっているということ自体が興味深く感じられた。かなりてんこ盛りな作品と言えるのだろう。

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2024年05月21日

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ネタバレ

2019/2/17

翻訳 高橋健二先生

ゲルトルートはこの小説に出てくる女性の名だ。

ラストの数行でボロボロと泣いた。
歳をとってから青春を思い出すと苦いことも多々あったのに美しく感じる。
歳をとるということはそういうことなのかな。



主人公クーンは、ソリの事故で足を怪我し身体障害者となる
それにより、自分は誰かと恋仲になることも結婚もできないと思っている。
そして、自殺まで考えるが、音楽が彼を救った。

彼は悩みながらも、現実を受け入れつつ生きてきた。

友人のオペラ歌手ムオトは、容姿にも才能にも恵まれ、どんな女も自分のものにできる。
ただ、精神面が壊れやすかった。それは自分の中から生まれているもので、改めることはできない。

ゲルトルートを通して、クーンもムオトも傷ついたが、現実を受け止める力と、自分の中のフィルターを通して見えてくるものの違いのため、生き方が異なってくる。

巻末は、翻訳した高橋先生がヘッセに会いに行った時の出来事が書いてあった。



“若ものたちは利己主義と独立心にかられて、観望が満たされないと生命を放棄するようになる。これに反し、自分の生命が他の生命と結びついているのを知るものは、自分の欲望のためにそんなにまで駆り立てられるにいたらないと、父は言った。”


以下がラスト。
高橋先生の訳はいいな。

“人はとしをとると、青年時代よりも満足している。だが、それだからといって、私は青年時代をとがめようとは思わない。なぜなら、青春はすべての夢の中で輝かしい歌のようにひびいて来、青春が現実であったときよりも、いまは一段と清純な調子で響くのだから。”

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2019年02月19日

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再読。主人公クーンと女の子が夜の山から橇で滑り降りる場面が印象深く残っている。クーンは橇滑りの事故がもとで片足びっこになり、しかしそのおかげもあって音楽で生計をたてていくことを志す。

クーンの女性関係はけっきょく描かれないままだが、それゆえにかムオトやゲルトルートと交わす友情の場面はとてもうつくしい。
ムオトの激しさと明るさへの憧れ。そしてクーンの作曲したオペラを介してゲルトルートとふたりで過ごす時間の鮮やかさ。

青年は自己の願望のために生命までも放棄する。逆に老人は他人のために自己を犠牲にする。青年よりも老年がすばらしいというテーゼ。
しかしながら青年が老人になるためには、それこそ死にもの狂いで苦しみをなめつくさねばならない。

たとえばローエ先生の教えにしたがってクーンは母を愛そうと誓うが、この試みは挫折する。そしてある種の悟りというか、諦観に達する。
「いまは私は、他人の運命に向かって手を伸ばすのは愚かな危険なことだと考えた。(略)今日なお私は、自分の生活と他人の生活とをなんらか意識的に形づくる能力が人間にあるということを強く疑っている。金や名誉や勲章を獲得することはできる。しかし、幸福または不幸を獲得することは、自分のためにも他人のためにも、できないことだ。」

クーンが捉えられていたのは実存主義的な悩みだった。キリストや仏陀のいうように、「この世界はまちがっているし虚しい」。しかしその倦怠や迷妄を越えて差し込む光がたしかにあり、クーンにとってそれはゲルトルートや音楽だったにちがいない。

ゲルトルートのような高貴でうつくしい女性がみずからを破壊しかねないムオトのような男に惹かれること――それはまぎれもなく悲劇的なことであるが、それをどうこうする力は実は誰にもないのだ。

前に読んだときよりも、より多くのものを汲み取ることができるようになったと思う。感謝。

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2013年05月05日

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結婚した人と、老いるときまでそばにいる人が必ずしも同じではない類の物語の結末。
クーンが自らの青春との別れを悟ったシーンが印象的だった。

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2022年09月03日

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 才能あふれるオペラ歌手であるムオトは、親友のクーンが自分の妻であるゲルトルートに恋をしていることに以前から気が付き悩んでいた。
 ある日ゲルトルートは病気になり休養のため実家に帰ることとなる。しかし期日を過ぎてもゲルトルートは戻ってこない。その背景には彼女の薄汚い父親とクーンによる陰謀が隠されているのにムオトは気づいていた。
 愛するゲルトルートが自分の元へ帰ってこないことに絶望したムオトは酒びたりになり、今では舞台の前に酔わなければ歌も満足に歌えない状態になってしまう。
 頼むゲルトルート、帰ってきてくれ。君がいないと僕は生きていけないんだ。
 次回『ムオト、天国への帰還』――そうだ、ゲルトルートに花を贈ろう

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2016年07月12日

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ネタバレ

青春時代の経験は辛いことも楽しいこともあるが、それらを昇華し音楽として客観視できる形にしたことで、主人公はその経験を超えることが出来たんだと思う。私も作曲しますが、音楽はそのような役割を果たしたと思います。
青春期の作品は今の自分とは違うものなんだけど、今の自分を創っている大事な部分だし、それが今は無い美しさを持っているので、ときどき聴き返したくなります。それと同じ気持ちが小説家(ヘッセ)にも青春をテーマとした作品を書かせるんじゃないかな、と想像します。

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2012年04月29日

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障害を負ってしまい、普通の恋愛もできなくなってしまった主人公と、彼を巡る人々の人生が淡々と描かれる。ゲルトルート、ムオト、両親、ブリギッテなど、障害者ではない体をもつ人々も、結局のところいろいろなものを失っていく。この淡々さが良いですね。
主人公の母親と友人の友情が破綻する、利己的な友人とのエピソードって、極端に書かれてるけど、ああ、こういう母親の友人みたいな人リアルでも存在してそう…。

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2022年04月23日

Posted by ブクログ

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若さ故ともいえる激しい恋心を抱いた主人公が、自己で不具になったことをきっかけにか、多くを望まない、性欲なしに穏やかにみつめる愛を得る。

結局はかなわないんだけど、その過程で出会うひととの応酬がおもしろい。

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2011年10月02日

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