【感想・ネタバレ】世界システム論講義 ──ヨーロッパと近代世界のレビュー

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Posted by ブクログ

以前に同著者の学生向けのやはり名著『砂糖の世界史』を読んでいますので内容的には自分にとって新しくはありませんが、アメリカ史を学びつつ改めて読むと色々と繋がり腹落ちします。
アメリカの独立から南北戦争期の歴史って、まさにヨーロッパ(スペイン、イギリス、フランス)の「世界システム」の「中に組み込まれた」人たちとそれに対する「抵抗派」の確執であり、さらにヨーロッパの国同士の覇権争いがそこに絡んで来て、またそれを利用する力学あり、牽制する力学あり、の歴史なんですよね…
「アメリカ史を知ると世界システムの歴史が見える」と感じる次第です。
あ、話が若干逸れましたが、間違いなく一読の価値ある名著ですね。

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2021年02月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

世界の歴史を特定の国に注視するのではなく、世界を有機的に結びつけられたシステムとして考える本書。
ある地域で発生した事象をきっかけにそれが他の地域に影響を及ぼしていく様を追いかける。

まず、はじめの問いかけがなぜこの世界には現在に至るまで地域間の格差が生じているのか?という点から始まり、世界の中心がヨーロッパになったのはなぜなのかを深掘りしていく。

以下、個人的あらまし。

①15世紀くらいまではどこも似たり寄ったりの封建的国家であり、小領主が農民を武力で支配していた。

②技術の発展(火薬や武器)に伴い、農民の不満を小領主では抑えられなくなり、「国家」に頼るようになる。こうして国家が成立し始める。

③度重なる戦争や黒死病により人口激減したヨーロッパでは従来の封建国家では成り立たなくなってくる。よって新たな収入源を求めて海外へ飛び出す
ちなみにこのときの中国は欧州と同等か進んでいたが、単一国家であったために、他国との競争にさらされず、武力の増強、外への進出が遅れた。

④まずいち早く動いたのはイスラムから領土を回復し、海に面していたスペイン・ポルトガルであった。これらの国々はラテンアメリカを蹂躙し、アジアに進出した。
また、進出先で生産品を作るためにアフリカから奴隷を「輸入」した。

⑤南欧国家に続いて、イギリス、フランス、オランダも海外貿易に参入したが、やがて世界で新たに開拓できる地域が無くなり、発展が進みにくくなる。

⑥その中で頭角を表してきたのが、漁業と林業といった「生産力」に秀でたオランダであった。オランダはその優れた生産競争力を発揮し、覇権を握るようになる

⑦しかし覇権国家では賃金上昇により競争力は低下する。その隙を突いたのがイギリスであり、海外貿易により収益を伸ばしていく。
特に紅茶と砂糖の生産は著しく、これらの輸入を機にコーヒーハウスが作られ、情報集積の中心となっていく。

⑧やがてイギリスの競争力が上がり都市化が進むに連れて、「産業革命」が、起こりイギリスの地位が安定的に覇権国家となる。

⑨しかし貿易の保護主義的側面に

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2019年01月26日

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各国を個別事象的に見て、ある国を「先進国」、またある国を「後進国」とラベリングするのは狭小な「単線的発展段階論」であると断じ、近代以降の世界は一つの巨大な生き物、有機体の展開過程の如く捉えるべきだとする論が主旋律。

封建制の崩壊と国民国家の成立に端を発し、その後スペインとポルトガルによってもたらされた大航海時代が近代世界システムの成立を告げ、やがてオランダ、イギリス、アメリカと、ヘゲモニー国家の覇権を巡って各国が「中核」の座を争った陰には、「周辺」として極度に低開発化された国々が。それはさながら「光」と「影」であり、この近代世界に影を落としてきたのは紛れもなく中核国そのものである。

この「世界システム」というスキームは、国際社会を見る視座を確実に一段高めてくれるものであり、また未来予測にも大変有益と感じる。
よく歴史は線で考えろというけれど、その一歩先、「複線」で考えるイメージかな。非常に勉強になったし、読み物としてシンプルに面白かったです。

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2018年01月15日

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著者は「砂糖の世界史」や「イギリス近代史講義」といった名著を書いた川北稔氏。本書も平明で筋が通っており、がってんボタン100回くらい押した。

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2016年04月08日

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超絶名著。近代ヨーロッパ史の流れがまるわかりできる。様々な断片的知識が繋がっていく爽快感はたまらない。

2017年1月6日追記

世界システム論について今一度考えてみると、中核―周縁関係の中で、垂直的関係があることが、南北問題が解決しない一つの理由として挙げられている。中核国家が産業の高度化を成し遂げたために、周縁国家は産業の低次化を強いられた。東方植民に見られるエルベ川以東の再版農奴制やインド植民地のモノカルチャー化はイギリスを筆頭とする西欧の産業化との関連性の中で考えられる。さて、そこで重要に思えるのは、低開発化された周縁では労働力のコストを下げるために、非/低賃金労働を強いられるということだ。いわゆる自給的労働は賃金の発生しにくい非/低賃金労働としてカウントされ、生産的労働に財が集まると考えられている。さて、WW2以前の世界では植民地における強制労働という形で、このような非/低賃金労働を賄ってきたが、植民地解放以降の世界では国内に低賃金労働者たる非正規雇用者を確保するために、雇用の非正規化が進む。サービス残業やブラック企業はシステムの存続に不可欠な非/低賃金労働の創出という歴史的側面で説明できる。そして、これが本題であるのだが、2016年12月に一世を風靡したドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」に隠されたメッセージは、世界システムの存続に必要な搾取の構造を、夫婦という解り易い関係に置き換えて世間に訴えていたのではないかと思う。最終回に近づくにつれて、主人公の平匡は解雇による年収の激減から、元々は賃金労働者として対価を払っていた妻の労働を結婚によって非賃金労働化することによってシステムの存続をしようと試みた。このシーンに象徴される含意は夫という中心がシステム維持の為に周縁を非賃金労働化するという世界システム論の中にある非対称な分業体制に由来するのではないか。
追記おわり。

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2017年01月06日

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ウォーラーステインに基づいた世界システム論の概説書。原本は放送大学の教科書なので、分量的制限からミニマムエッセンス的な記述となっており、取っつきやすい。大航海時代以後のヨーロッパ中心の近代世界を対象に、システム論的な見方で世界史を概括する。たとえば英国の産業革命ですら世界システムの影響から逃れ得なかったなど、示唆に富んでいる。近代世界の移民問題について知りたい場合にも重要な観点である。15世紀以前のヨーロッパ世界についてはアブールゴド「ヨーロッパ覇権以前」をひもといてみたい。

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2016年02月13日

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ウォーラステインが提唱した「世界システム論」という史観概念について解説されている。
世界システム論とは、歴史を国単位で捉えて、諸国が互いに不干渉な状況であるセパレートコース上での競争をおこなっているとする「単線的発展段階論」へのアンチテーゼとして生まれた。
つまり、勤勉国家が「先進国」、怠け者国家が「後進国」になっているとするのではなく、「中核国」が「周辺国」から収奪したために、「先進国」と「後進国」が生まれたというように、国単位ではなく、世界を一つの単位/構造体として捉え、構造体内の相互作用において全体の状況が作り出されているという考え方である。
近代初期においては、世界における西ヨーロッパの影響力は小さく、経済・文化・技術などあらゆる点において、アジア(特に中国)の方が進んでいた。
次第に、(火器などの暴力技術も含まれる)技術がアジアから到来し、一揆などに対応しかねた領主層が「国家」の存在を求めるようになり、封建制度から国家国民制度へと移行していった。
ここに、世界システムの萌芽が見られ、その後、西ヨーロッパ諸国は、大航海時代→植民地支配→工業化といった流れで世界システムを地球規模に拡大させ、常に新しい「周辺」を探し求める。

・世界システムは「中核」と「周辺」が存在し、周辺から搾取した富によって中核が充足されるという構造がベースとなっていること
・現代社会において、世界システムから逃れた地域は存在せず、新しい「周辺」の拡大が見込まれないこと
・搾取するシステムである「工業」の姿変化してきていること(IT/金融に重点が移動)
などを踏まえると、近代の世界システムから現代の世界システムへの更新を考えてみても良いではないだろうか。

<メモ>
・国家国民モデルが希求された背景として、ウォーラステインは「農奴統治のため」ゲルナーは「高文化教育普及のため」とそれぞれ違う観点で見ている
・ヘゲモニー国家の支配力の拡大/衰退の順序は、いずれも生産→商業→金融の順となる
・ヘゲモニー国家衰退の理由としては、生活水準の向上→生産における優位性低下となり、上記の衰退スパイラルに陥るため
・世界システムにおいて、「世界帝国」は存在せず「世界経済」のみ存在する。帝国モデルは支配体制としての効率が悪い
・ヘゲモニー国家において一番有利なのが「自由主義」。そのため、ヘゲモニー国家の首都は最もリベラルで芸術や亡命インテリの溜まり場となる

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2024年02月03日

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近代世界史がなぜヨーロッパを中心に展開していくことになったのか、それは世界は個別の主体(国家)による自由競争なのではなく総体として捉えるべきシステムであるから、という世界システム論で捉える本。元々は口頭の講義なのかとても読みやすいです。この書籍以降のアフリカ・中東の紛争と難民、欧米のナショナリズムの状況だったり、中国の台頭、あるいは気候変動問題なども地球規模の相互作用の中で捉えるという意味では今では当たり前の話ではありますね。それでもヘゲモニー国家の変遷と各国の文化の成立要因が連動しているところなんかはなるほど、と面白かった

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2022年12月04日

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感想
西洋の世界観の下に地球が一つのシステムにまとめ上げられる。ITCによって加速しているが、ローカルな動きも見られる現代。統一には限界があるか。

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2022年08月17日

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現在の世界がどのようにして一つの価値観に支配されてきたか、500年ほどの近代史をもとに解説されていた。
歴史をあまり勉強してこなかった自分にはわからない部分もあったけれど、ざっと500年間をまとめてくれていたので大きな流れを掴むことができた。
イギリスの甘い紅茶文化がなぜ形成されたのか?
インド経由のお茶と、三角貿易で得た砂糖が中核となるイギリスに集まったからということを知って、どんな文化にも歴史があるのだと感心した。

もちろん細かい部分でそれぞれの国の文化があるものの、ヨーロッパ的思想で統一化されている世界観と考えるのも面白かった。

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2021年11月19日

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世界史の知識があまりないので、読みにくいところが多々ありましたが、高校地理の学習にも少し繋がるところがあって面白かったです。

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2021年09月30日

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世界の仕組みというか、現代社会を外観するために参考になる本。時々こういった本を読むと、ああ、そうだったという確認と、そいういう見方もあるのかという新たな視点を得られるのでとても良い。今回は近代ヨーロッパを中心に、経済システムの切り口で歴史を外観するもの。これまでの教科書や歴史解説書では、「国や王朝」単位で物事を捉えていることが多いが、この本は国境や〇〇家ではなく、モノ(農作物、工業製品、奴隷も)の流れで歴史を解説し、評価もしてくれている。この見方に立つと、大航海時代の世界の中心はインドや中国など東・東南アジア地域であり、この地域は域外との取引をしなくても十分豊かだった。従って、ヨーロッパ征服などということは起こらなかった。一方、次第に力をつけ始めた欧州では、ヘゲモニー国家が誕生し、農業、工業、金融の順で世界を支配しようとした。この動きが進展すると、周辺地域は搾取の対象となるので産業や民主主義などが育成されず、いまだに低発展国となっている、などなど。新しい見方をくれる一冊

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2021年08月28日

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川北稔(1940年~)氏は、イギリス近世・近代史を専門とする歴史学者。大阪大学名誉教授。
本書は、2001年に放送大学のテキストとして出版された『改訂版 ヨーロッパと近代世界』を改題・改訂し、2016年に出版されたもの。
「世界システム論」とは、米国の社会・歴史学者であるイマニュエル・ウォーラーステイン(1930~2019年)が、1970年代に提唱した巨視的歴史理論である。それは、各国を独立した単位として扱うのではなく、より広範な「世界」という視座から近代世界の歴史を考察するアプローチであり、複数の文化体(帝国、都市国家、民族など)を含む広大な領域に展開する分業体制により、「周辺」の経済的余剰を「中核」に移送するシステムを「世界システム」と呼んだ。その理論は、細部についての批判・反論はあるものの、世界を一体として把握する視座を打ち出した意義やその重要性については、現在も広く受け入れられている。
本書では、概ね以下のようなことが述べられている。
◆近代以前(12~13世紀)の地球には、4つほどの相互に独立した経済圏(=世界)が存在した(ビザンティン帝国~イタリア諸都市~北アフリカの地中海周辺、インド洋~ペルシャ湾岸、中国を中心とする東アジア、モンゴル~ロシアにかけての中央アジア)が、その一方で、のちに近代世界システムの「中核」となる北西ヨーロッパ(イギリス、ベネルクス、北フランス)はいずれの世界にも属しておらず、「周辺」の地位にあった。
◆14~15世紀、封建制の危機(その原因は様々な見解がある)に見舞われた北西ヨーロッパで、危機を脱する唯一の方法として、パイを大きくするために「大航海時代」が始まり、ヨーロッパが主導する近代世界システムの確立への動きが本格化した。当時の技術水準・生産力はアジアの方がヨーロッパより高かったとも言われるが、アジアは一つの経済圏として完結できるシステム(帝国)であったのに対し、ヨーロッパは小国家の寄せ集めで、政治的統合を欠いたシステムであったことから、各国が競って対外進出を図った。
◆「大航海時代」以降、キリスト教徒と香料を求めたポルトガルのアジア進出、スペインのアメリカ進出と世界帝国の形成、オランダによるヘゲモニー(覇権)国家の確立、イギリスのカリブ海・北アメリカにおける植民地の形成、アジアやアメリカからの商品(砂糖など)の流入によるヨーロッパの生活革命、黒人奴隷貿易の展開、イギリスの貧民の移民による北アメリカ植民地の形成、産業革命とフランス革命、ポテト飢饉によるアメリカへの移民の大流入、パクス・ブリタニカ、アメリカとドイツのヘゲモニー争いを背景とした世界大戦などを経て、ヨーロッパ・アメリカは他地域をそのシステムに組み込んでいった。
◆「近代世界システム」には、資本主義の根本原理ともいえる、飽くなき成長・拡大を追求する動機が内蔵されているが、そのシステムが地球のほぼ全域を覆い、新たな「周辺」が存在しなくなった今(帝国主義によるアフリカ分割や、ヘゲモニー争いとしての世界大戦などは、既にその始まりであったが)、過去500年の過程を踏まえて、これからの世界を考える必要がある。
本書が書かれてから更に20年が経過しているが、近年は「持続可能な開発」が国際的なキーワードとして定着しつつあり、明るい材料と言える。ただ、私は、(経済的な側面から見る限り)究極的には資本主義的な発想から脱却することができるかが、長期的にこの問題を解決する唯一のカギではないかと思うのだ。
著者が言う通り、過去を知ることは基本である。そして、残された時間が少ない今、我々に求められているのは、これからの世界をどのように方向付けていくのかを真剣に考えることである。
(2020年9月了)

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2020年09月24日

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最初はだるいが、半分過ぎて面白くなってきた。
産業革命は奴隷貿易の産物、
アメリカを作ったのは故国で食いつめた貧民と流刑者、
フランス革命は… と、
世界システムの目で見ると革命の神話は崩れ去る。

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2020年05月06日

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世界システム論講義

世界システム論について初めて読んだ本。
シヴィライゼーション界隈の人とかがたまにウォーラーステインとかの名前を出すので気になっていた。
放送大学のテキストだったらしい。

世界システム論は、世界史を個別の国単位の総合として捉えるのではなく、世界全体を1つのシステムとして捉える見方を言う。
16世紀に西欧で成立したため、「西欧システム論」と言い換えてもいいかもしれない。
世界システム論によれば、南北格差の問題は、中心国である帝国に1次産業供給地として周辺化されてしまい、その構造が固定化されてしまうことにある。(その国やその民族の特性に起因するのではない。)

面白かったポイント
・イギリスの産業革命は世界システムのうえにこそ成立したのであり、独立自尊なヨーマンの勤勉によって生じたわけではない
・ピルグリムファーザーズという神話。米国も豪州と同じく英国からの流刑民がほとんどだった。これが明らかになったのは歴史学にコンピュータによる統計が導入されてからだった。
・作る作物がサトウキビかタバコかで独立した後の発展に差が出る。サトウキビの農園主は本国にいるだけで、植民地へのインフラ投資はしない。タバコの場合、作物の性質上、現地で生活することが多いため、自分たちにインフラ投資をする。カリブにサトウキビプランテーションを展開したイングランドは発展し、東部アメリカにタバコを展開したスコットランドは低開発化された。

特にサトウキビの項目は薩摩と琉球、琉球と先島の関係に当てはめながら読んだ。

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2019年12月12日

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本書は、ヨーロッパ、特にイギリスを「中心」に、重要な史実を関連付けて、システム論という大括りにされた視座で解説がなされている。高校の世界史の授業で扱われたかすかな記憶が線で繋がったようだった。世界システム論の核となる「中核」と「周辺」の概念は、世界の大学の発達過程や、日本国内の大学間の関係を理解するときに活用できよう。例えば、中核となる大学はその機構を強化しつつ、周辺の大学は「大学間連携」の名のもとに当該大学を溶融させようとする効果が企図されている、というように仮定することは言い過ぎだろうか。また、著者は植民地が製品・商品の「生産地」であると同時に「社会問題の処理場」だった側面があるとしているが、これも国内の大学事情に無理やり当てはめると、思い当たる事象があるだろう。

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2017年10月14日

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イギリス近代史学者さんによる、近世からの世界の流れを少し広い目で捉えた本。ねらいは、現代社会がどう成立したのかを読み解くこと。
全体のボリュームは軽めで、各章ムチャクチャ駆け足で進んでいきますが、要点がまとまっていて明解です。世界史で習った「アレか!」的単語が登場したかと思うとサラッと去っていくようなシーンがしばしばあります。典礼問題とか。文章は平易なのですが、世界史習ってないとようわからんかも?

大して豊かでもなかったヨーロッパがなぜ覇権を握ることができたのか?今後世界で覇権を握っていくのはどこ(誰)か?などについて、歴史の流れを手繰りながらヒントを得ていく本です。
世界史は開拓の歴史で、新たな「周辺」を開拓してはそこから「中心」が資源を搾取してきた。よって、ある時期に低開発に甘んじていた地域は「中心」によってそうならざるを得ないような事情があった。とか、アメリカは紅茶を飲む文化圏の端っこにいるのではなく、新たにコーヒー文化圏を作ったという指摘はそうなのかなぁと思わされます。

基本は歴史書なので、今後の展望というところは軽め。世界の「余白」はほぼ埋められた中、現在もっとも有力なのは海洋開発か、また、IT技術による世界システムへの影響についても触れられたところで本編は終わっています。(全く別の本で、サイバー世界を新たな「余白」と捉えて金融システムが拡大したという論があったことをふと思い出しました)
参考図書に挙げられていたウォーラーステインも読もうかなぁと思わせてくれる良い本でした。

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2017年03月01日

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この世界はどのようにして成立したのか、その中でなぜヨーロッパが世界の中心となったのか、なぜその逆(アフリカや南米が先進国で欧米が発展途上国である世界)にならなかったのか、南北の差はなぜ生まれたのか、というのがこの本の議題で、議題自体は名著「銃・病原菌・鉄」と同様のものだと思います。ただ、「銃・病原菌・鉄」は人類の文明が始まる昔まで遡ってこの議題に挑んでいる一方で、この「世界システム論講義」は主に15世紀以降の世界の経済の動きに焦点を合わせている点が違うと感じました。250ページ程の文庫本なのに1,100円もして高かったけど、それに見合う内容だったと個人的には満足しました。この本を「銃・病原菌・鉄」みたいな感じで形容するとしたら、たぶん「船舶技術・奴隷・甘い紅茶」になるんじゃないかなと勝手に想像しています。箇条書きですが、個人的にこの本の中で面白いと感じた点をいくつか並べます。
・現在の南北問題は北の国が工業化すべく「開発」された過程において南の諸国がその原材料や食料生産地として「低開発」された結果生じたものである、本著では前者を世界システムの「中核国家」、後者を「周辺国家」と呼んでいる
・「中核」と「周辺」とが世界システムを構築している点は不変であるが、どの国が「中核」となるか「周辺」となるかは流動的である
(現在は「中核国家」の一員である日本が今後「周辺国家」になる事だってあり得る)
・オランダが当時開発した先鋭の船舶技術が、輸出物(悲しいかなこの中にはアフリカで調達された奴隷も含まれる)の輸送コストを抑えるばかりか、輸出物にかかる保険も安くした
・当時のイギリスの発展は、「英国人の禁欲と勤勉の賜物」なんかでは決してなく、不当な強制労働を強いられた奴隷制度なくして語られない
・英国から北米への移民の半数は、英国で職業不詳だった人たちだった
・甘い紅茶(紅茶に砂糖を入れて飲む英国の習慣)は当時の英国のステイタスシンボルであったし、短時間で効率的にカロリーとカフェインを摂る生活の術でもあったが、この紅茶と砂糖を英国人が手に入れるために奴隷は働き、人や物が船舶を介して移動し、船舶には保険が、物には関税が掛けられることで、英国が流通と経済の中枢となり得るシステムを構築した
・その後その中枢を英国が米国に明け渡す事になってしまった一因にミシンの開発が挙げられる、これは当時労働力が不足していた米国が衣服の縫製労働時間を節約するために開発したミシンが、労働力は特に不足していなかった英国に大量に輸出されて英国の労働者に取って代わった事で開発国としての主導権を米国に握られた
・英国は米国の発展を目の当たりにして今のやり方が時代遅れになっている事には気づいていただろうけど、一度完成した社会や技術体系を変革することは難しかった(これを本著では経路依存と呼んでいる)
・労働において、「平等」の観念が「能力主義」と結びつくとき、各種の新しい差別(性差別や高齢者・子供の労働機会からの排除)はとても簡単に生み出される

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2017年01月03日

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世界史の流れを、「国家」という単位ではなく、「世界」全体で見つめ直すべきだ、ということを様々な角度から講釈してくれている本。

この本が示そうとする事柄は、次の文に端的に表現されている、と思っています。

p26「近代の世界は1つのまとまったシステム(構造体)をなしているので、歴史は「国」を単位として動くのではない。すべての国の動向は、「一体としての世界」つまり世界システムの動きの一部でしかない。「イギリスは進んでいるが、インドは遅れている」などということはなく、世界の時計は一つである。現在のイギリスは、現在のインドと同じ時を共有している。両者の歴史は、セパレート・コースをたどってきたのではなく、単一のコースを押し合い、へし合いしながら進んできたのであり、いまもそうしているのである。いいかえると、「イギリスは、工業化されたが、インドはされなかった」のではなく、「イギリスが工業化したために、その影響を受けたインドは容易に工業化できなくなった」のである。

過去500年間にわたって、ヨーロッパからスタートした「近代世界システム」が、どのような流れで世界を飲み込んでいったのか、それぞれのポイントにおける解説がなされています。

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2016年02月27日

Posted by ブクログ



ちくま学芸文庫
川北稔 世界システム論講義


世界システム論の本


南北問題やヘゲモニー国家の変遷については 資本主義論と重複しているため、世界システム論の必要性が理解できなかったが


奴隷貿易や奴隷制プランテーションにより イギリス産業革命が起きたとする ウィリアムズテーゼの論証は わかりやすかった


「だれがアメリカをつくったのか」の論考に驚いた〜植民地時代にアメリカに渡ったイギリス人は、年季奉公人(期限付き白人債務奴隷)、死刑を逃れた犯罪者、失業者とのこと


「世界システム論〜近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史を有機体の展開過程として捉える見方」


南北問題
*世界的な分業体制の中で、北の国が工業化して開発され、南の国が原料生産地として開発された
*中核〜世界的な分業体制から多くの余剰を吸収できる地域。西ヨーロッパ
*周辺〜食糧や原材料の生産に特化され、中核に従属させられる地域。東ヨーロッパ、ラテンアメリカ


ヘゲモニー国家の変遷が世界大戦へ
*近代世界システムが地球全域を覆い、新たな周辺を開拓する余地がなくなった
*アフリカ分割を契機に、世界が帝国主義とよばれる領土争奪戦に突入
*帝国主義とは、地球上の残された周辺化可能な地域をめぐる、中核諸国の争奪戦




世界システムは、その地域間分業の作用を通じて、西ヨーロッパ=中核では国家機構を強化しつつ、周辺国では国家を溶解させる効果をもった

ヨーロッパのシステムと中華システムの違い
*ヨーロッパのシステムは政治的統合性を欠いた経済システム〜国民国家の寄せ集めにすぎない
*ヨーロッパのシステムでは、各国は競って武器や経済の開発を進めた
*中華システムの中核は、一帯をひとまとめにして支配すふ帝国となっていた

ヘゲモニー国家
*中核地域のなかでも、圧倒的に強力の国
*17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、第二次大戦後のアメリカ
*世界システムのヘゲモニーは、生産、商業、金融に及び、崩壊するのときも この順に崩壊する
*ヘゲモニーは長く続かない〜生活水準が上昇し、賃金が上がり、生産面での競争力が低下するため
*ヘゲモニー国家は、自由貿易を主張する





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2023年10月19日

Posted by ブクログ

歴史学の分野でシステム論と呼ぶからには、当然、ニクラス・ルーマンのシステム論が根底にあるのだろう。ルーマンがひたすら抽象的な理論に徹したのに対し、これなどはその考え方を中世〜近代世界史に適用した、具体的な学説の例といったところか。
しかし本書ではじゅうぶんに「システム論」的なところが感じ取れず、世界史を「社会システムの自律的動向」として把握しきることは困難だった。
ところどころに面白い知見も見られるが、どういうわけかそうした個別の知が相互につながってくることがなく、単なる「雑学」のような、ばらばらの知識のように見えてしまった。なので、読んだときにはおもしろく思っても記憶に残らず、それは全体像のゲシュタルトに結びつかないからなのである。
本書が壮大な学術を語り尽くすには小ぶりに過ぎるということもあるだろう。個々の章はばらばらであり、「システム」の統一感が出てこなかった。
世界システムの中核としてのヨーロッパ文化と、中国などアジア文化等との関係など、示唆的なところはあったのだが・・・。

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2017年05月16日

Posted by ブクログ

『砂糖の世界史』の理論を解説し敷衍した内容。非常に読みやすく噛み砕いた内容になっているが、逆に重要な部分を読み飛ばしてしまいそうになる。多分、参考文献を参照しながら、読まないと「分かった気」になってしまうかも。

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2016年03月19日

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