【感想・ネタバレ】人間の大地のレビュー

あらすじ

国際郵便機のパイロットとしても長いキャリアを持つサン=テグジュペリが、勇敢な僚友たちの思い出、技術の進歩、また『ちいさな王子』や『夜間飛行』の物語の土台となった南米やアフリカでの極限状態など、自身の体験に基づいて時に臨場感豊かに、時に哲学的に綴ったエッセイ。本当の勇気とは何か、人間の使命とは何かを熱く問いかける傑作。

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ネタバレ

サン・テグジュペリのエッセイ。素晴らしかった。
初めての飛行任務、遭難や墜落と隣り合わせの空中のトラブル、奴隷のおじいさんを買い戻した話、同僚や自身の不時着体験、戦地のルポなどが詩的でどこか幻想的な文章でつづられる。その過酷さもさることながら、強く印象に残るのは飛行機や遭難した先で見る残酷なまでの自然の美、その中にサン・テグジュペリが星のようにちりばめている哲学だ。むしろ、状況や環境が過酷だからこそそれらが一層研ぎ澄まされていると言った方がいいだろうか。

「手の届かないところにある共通の目的によって同胞と結ばれたとき、僕らは初めて胸いっぱいに呼吸をすることができる。経験によれば、愛するとは互いに見つめあうことではない。一緒に同じ方向を見つめることだ」

「イデオロギーをめぐっていくら議論を重ねても無駄だ。結局、すべてのイデオロギーは論証可能で、しかも互いに対立し合っているのだから」

「どんなにささやかな役割であってもかまわない。僕らは自分の役割を自覚して初めて幸せになれる。そのとき初めて、心穏やかに生き、心穏やかに死ぬことができる。人生に意味を与えるものは、死に意味を与えるものだから」

サン・テグジュペリの中で、パイロットの視点で地球を見ること、自然を感じること、ちっぽけな人間という存在を自覚すること、そんな人間の生きる意味を思うこと、すべてがつながっているのだろう。読んでいると、その高い高い空を飛ぶパイロットの座席まで私たちも連れて行ってもらえるような気がする。

砂漠に不時着し、ムーア人に殺される危険の中で「砂と星のあいだに裸同然で横たわっている」とき、子供時代を過ごした屋敷の温かい思い出に浸る場面は、ちょっとヴィクトール・フランクルの「夜と霧」で妻を想う場面を思い出した。過酷な環境の中で強く輝かしい普遍的哲学が生まれくるというのは、どちらの作品にも共通しているかも。
私はのほほんと生きているだけだけど、その珠のような哲学をこうして読める、味わえるというのはどれほど貴重なことだろう。これからもたくさん本を読んでいきたいけど、こういう大事にしたい本を抱きしめていつまでも読んでいたい、という気もする。人生が足りないなあ。

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2025年10月12日

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ネタバレ

人間の大地
とても面白かった。自分が求めていたものが全て書かれているような気がした。

飛行機の操縦士という視点で書かれた本で、人間というものを上から俯瞰して見るというのが、本のテーマになっている。人間が作った街、人間が生きるために耕した畑、人間が争い合って血を流した戦争、人間が領地拡大のため侵略した土地、人間が食べるための労働。人間が人間らしく生きるとは何か、それを本書では問い続け、サン=テグジュペリの答えが書かれている。

サン=テグジュペリはとても人を平等に見ている人だ。人種も年齢も職業も、そういうフィルターを取っ払って、人間という尊い存在をきちんと評価している。

そして、飛行機の操縦士ゆえ、地球を一つの惑星のひとつと捉え、宇宙と繋がっている感覚があるという描写が幾度か出てくる。地球の上に立ち、過ごしていると人間を俯瞰で見られない。しかし飛行機から俯瞰して見ると、人は全て地球人という取られ方のようだ。

地球人は大地の上に生まれ、大地から湧く水を飲み、大地で育てた穀物を食べる。生きるとは大地と親密にくっついているのだ。

そんな大地を奪う行為は、その大地に住んでいた人の尊厳を奪うことで、他の人間がその土地に足を踏み入れることは、その土地を殺すことなのだ。サン=テグジュペリは他文化を尊重している。当時フランスやスペインが行ったアフリカの土地を侵略する行為を批判していた。

また、人間が何故戦争ため入隊するか、その心理も書いてあった。人間の根本欲求は人と同じ方向を見て、共に団結すること、そして、同じ釜の飯を食うこと。戦時下、政治家は入隊を薦めるため、論理的に正当かどうかは置いておいて、その欲求を満たすようなことを振りまいた。人間がそういう欲望を欲していることを知ってか知らずか、あえてそういうプロパガンダを流して、土地の取り合いゲームに参加させるのだ。

戦争は両者の主張というものは、本人にとって正しいものだ。他者から見ておかしいと思っても、本人は大真面目で言っている。ならばそれはその人にとって正しいのだ。その主義主張が隣国で噛み合わないとなると、戦争が起こる。

そういうものなのだ。しかし、一人一人の人間にフォーカスを当てた時、欲望に飢えた人間がいなくなれば戦争は起こらないかもしれない。ではどうすれば良いか。素足で土地を踏んで、土を耕し、宇宙の視点から見下ろして、人を愛でることだろう。

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2025年08月31日

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堀口大学訳の新潮文庫版、ロングセラーの地位はいまも不動。私もずっとこの詩的な堀口訳に慣れ親しんできたが、引っかかる訳語がいくつもあった。
今回、渋谷豊訳の光文社古典新訳文庫版では、それがすっかり解消されている。たとえば、サンテクスの最初の職業フライトの場面。午前3時半、雨のなか、彼が乗り込むのは飛行場行きの「マイクロバス」なのか、「路面電車」なのか。渋谷訳は「路面電車」。タイトルも、堀口訳は「土地」だったが、渋谷訳は「大地」だ。
どちらの訳で読んでも、サンテクスが初仕事に向かうその緊張感と高揚感の描写はたまらない。そして彼とプレヴォがリビア砂漠の真ん中にクラッシュしたエピソードも。3日間飲まず食わずで、蜃気楼、錯覚と幻覚に悩まされながら生き延び、奇跡的にベドウィンの遊牧民に助けられる。何度読んでも、感動的だ。

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2025年05月03日

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サン=テグジュペリの最高傑作。

若い人に読んで欲しいとあとがきにあったが、読んでも理解するのはずっと後になるだろう。人生における普遍的な真実をあの若さで書くことができたのは、死と隣り合わせの職業だったからではないか。読んでいて、極限状態に追い込まれないと真実には辿り着けないのではないかと感じた。
近しい身内を亡くした人間は、高次の意識に近づくと感じるけど、すぐまた元に戻ってしまう。
極限状態に居続けることは考えるだけでもしんどい。でも主人公は心が安らぐという。死ぬ瞬間には理解できるのだろうか。
いつもは考えない人間の根幹とか普遍的な何かとかを考える読書だった。浮かんでは消えていく感じだけど、サン=テグジュペリが伝えたいことの片鱗は誰の中にもあるのではないか。

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2024年09月16日

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新潮の堀口大學訳は何度か読んでいたが、ふと他の訳も読んでみようと思い手に取った。
かなり新しい訳なので上記のものよりも読みやすく、だからといって軽い文というわけではなく荘厳な世界観を崩さない程度に留められていて良かった。
内容に関しては何度読んでもハッとさせられる。
特にギヨメの話と砂漠での話は人間の強さと小ささが感じられて好き。

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2023年10月23日

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ネタバレ

人間が生きるとは何かということをパイロットという職業で経験したことから詩的に語る作品。
同じことを様々な表現で描かれているが、286,287ページの表現を残しておきたい。人類の前進に貢献する、貢献している他者を認識することが幸せなのだと感じさせてくれる。
「人類の形成過程はまだ完了していないということだ。また、僕らは自分自身と宇宙を同時に意識しなければならないということだ。僕らはこの闇の中で架け橋を作らなければならない。」

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2023年01月05日

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「ぼくたちは何世紀もの間道に騙され続けてきた」
「自分の中のモーツァルトを虐殺しない」など、美しく簡潔ではっとさせられる文章と、サン=テグジュペリのパイロットとしての経験などを基にしたルポルタージュやエッセイを寄せ集めた作品。

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2021年12月31日

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人間の気高さとは何かについて書かれた本。

p76の下記の一節は僕の座右の銘の一つになっている。

「人間であること、それはとりもなおさず責任を持つということだ。自分のせいではないと思えていた貧困を前に赤面すること、僚友が勝ち取った栄冠を誇りに思うこと、自分に見合った石を積むことで世界の建設に貢献していると感じることだ。」

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2016年06月04日

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本文中の至るところに散りばめられた詩的イメージがいい。
物語としては、「砂漠の中心で」が白眉であろう。自分も喉の渇きを感じながら夢中で読んだ。
サン=テグジュペリの他の作品も読んでみたくなった。

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2015年09月16日

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郵便飛行機のパイロットとして、アフリカの砂漠や南米の山岳地帯でのエピソードを連作にした。砂漠で不時着し極限状態。僚友との絆。学生の部活動で同じ目標に向かう一体感に似たものを感じた。最終章での人間と自然との関わり、偉大さ、平和への願いにも気づきがある。2022.1.29

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2022年01月29日

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ネタバレ

すごく面白いという感じでは無いですが、全体的にキレイな文章でかつ心に残るフレーズもたくさんありますので、読んでおいて損は無い本だと思いました。とりあえず、この本を読んでから「星の王子さま(ちいさな王子)」を読むのがオススメ♪

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2021年03月21日

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サンテグジュペリのエッセイ。これまで読んできた本は飛行機から見た風景や人間関係が主だったが、今作は様々な人々にスポットを当てた人間観察のエッセイ。

少々小難しいが、上品で知的な表現が心地よい。大体の作品で解説は飛ばすけど、今作は解説もしっかり読んだ。貴族出身で飛行士で、詩的な作家ときたら、モテないわけがない。著者のことをもっと知りたい。

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2021年01月26日

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パイロットとして孤独と向き合い、地球や人間の歴史や根源的な存在意義に思いを馳せた究極のエッセイ。コロナ禍で味わう孤独などサン=テグジュペリが向き合った孤独に比べればピーナッツ程度ではないか。金言の連続。

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2020年08月01日

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1930年代の飛行機はエンジンの不調でリビア砂漠やアンデスの山の中に不時着することもしばしばある。サハラ砂漠に不時着するとムーア人に襲われることもある。アンデスの標高4000mの高台に不時着した盟友メルモーズは滑走スペースがないので飛行機を奈落に向かって走らせる。断崖の縁から真っ逆さまに落下する途中で奇跡的に揚力を得て生還した。再び空に戻ったメルモーズは何年後かに南大西洋上空で消息を絶つ。同じくアンデス山脈で飛行機が故障して奇跡的に生還した盟友ギヨメは第二次世界大戦中に輸送飛行中に地中海上空で撃墜される。サンテグジュペリ自身、何度も事故を起こして奇跡的に回復し、リビア砂漠で水もほとんどもたずに遭難したときは2日目から幻覚があらわれる。奇跡的に通りかかったアラブ人に助けられるものの第二次世界大戦中にはフランスが降伏したあとアメリカで執筆に励んで星の王子様を出版したのに連合軍の偵察隊に復帰して消息を絶っている。そうまでして危険な仕事に帰って行くのは、歯車の一部となって精神生活とは無縁の小市民として生きることに耐えられないからだという。そこまで命をかける気にはとうていなれないが、自分はどう生きていきたいかを問いかけながら人生をすごしたいと思う。

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2025年07月27日

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愛するとは互いに見つめあうことではない。一緒に同じ方向を見つめることだ。

はい、サン=テグジュペリの『人間の大地』です
新潮文庫版では『人間の土地』ですが、我らが光文社では『人間の大地』です
非常に柔らかい訳文だったような気がします
そのへんがタイトルにも現れてる気がします

読んだことないですが、どうせ大學の訳文なんてカッチカチに決まってます
鍛え上げられた上腕二頭筋

うん、飛行家たるサン=テグジュペリのエッセイ集ということなんですが、「大地」なんですよねタイトルは
そこがまず面白いな〜って思いました
『人間の大地』人間の支配が及んでいる範囲みたいな意味なんかな〜

サン=テグジュペリが空を飛んでいた時代は今よりも、もっとも〜っと空を飛ぶことが、けっこう割の合わない賭けだったころで、実際砂漠の真ん中で遭難してそのときのことも書いてたりしていて、結局人間は大地から離れることはできないとも言えるし、空さえも人間が支配する一続きの大地に繋げてしまう試みなのかもしれないとも言えるのかな〜と

壮大なギャンブルの先で気付く人の生命がもつ奇跡みたいなこともちょっと感じたりしました

なんて、ちょっと分かった風なことを言ってみましたが、わいは飛行機というものが大嫌いなので、あんな危険な乗り物に乗って、なんかちょっと良くわからんことを言ってる奇人
それがサン=テグジュペリっていう身も蓋もないところに落ち着くのでした

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2025年08月17日

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郵便パイロットての経験を通じて人間のあり様については解くエッセイ。
やや難解な文章なので少々読んでいて注意散漫になることが多かった。当時の飛行機乗りはかなりの危険が伴った職業だったようで、故に人間の生き方についての考えが研ぎ澄まされていったように思える。また、当時の読者達は飛行体験を記した本書により未知の世界に想いを馳せたのだろうし、文学的価値以上に読者達を楽しませたのではないかとも思う。印象的なのは、リビアの砂漠に不時着して死の間際まで追い詰められた過酷な体験を綴った「Ⅶ砂漠の中心で」でのサバイバル。
死ぬことと向き合うことになった時にまた読みたくなるような、人生の哲学を丁寧に描く作品です。

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2023年01月03日

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ネタバレ

名作だということなので、読んではみたものの、、、最初の150ページは、自分のパイロットとしての実体験を話しているのか、空想の話をしているのか、急に黒人奴隷を解放した話になったり、何が何だか全く掴みどころがなく、とても退屈な内容だった。

途中から、砂漠で墜落、遭難した話になって、急に具体的な話となり、なんとか読み続けることができたものの、、、

でも、全体を通して、うーん。。という内容。
命の尊さは感じられたけど、、、ね。。

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2022年08月12日

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パイロットという職業人を描いたエッセイをまとめた作品。表現が詩的。

みすず版と比べるとかなり読みやすい。
みすず版は、英語版にのみ収録されているエピソードも翻訳していたようで、本書には載っていないエピソードも記憶にある。

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2022年05月04日

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