【感想・ネタバレ】殺意の風景のレビュー

あらすじ

断崖絶壁に立った時の、血が引いていくような戦慄、季節はずれの別荘地の静寂につつまれた時の、本能的な怯え――。北は北海道の十勝岳、シラルトロ沼から、南は九州の平尾台、高千穂峡まで、日本全国18カ所の風景を〈主人公〉にした、ユニークな旅のミステリー。非情な大自然が人間の心に呼びおこす名状しがたい恐怖を、時刻表や心理のトリックを駆使して描き出す。泉鏡花文学賞受賞。

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Posted by ブクログ

鉄道紀行の大家による、異色のミステリー短編集。全18話(雑誌連載当時は20話だったらしい)に殺人シーンは一度も出てきません。それでも人は死んでいるかもしれない、あるいは全て思い過ごしなのかもしれない。描かれるのは、殺してやろうという、あるいは殺されるかもしれないという心理描写。その心模様が地理にことさら造詣の深い作者による風景描写と織り交ざって、何とも不思議な読後感を与えてくれます。

本業ではないジャンルだけあって、筆致にはどこかぎこちない部分もあります。特に、女性の一人称語りには少々違和感が。でもこれ、"プロ"のミステリ作家には書けない作品でしょうね。門外漢だからこその思いもかけない切り口が全編を通して冴えわたっています。

舞台のチョイスや登場人物のセリフの端々には、氏の鉄道紀行を連想させる部分が相当散らばっています。宮脇ファンから見ても本作は決して亜流ではなく、むしろ読めば読むほど味が深まる作品かと思います。

ちなみに本作、直木賞候補作だったとか。もし受賞していれば、宮脇俊三の名は鉄道紀行の第一人者としてではなく、異色のミステリ作家として世に知られる事となったかもしれません。人生って不思議です。

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2016年08月28日

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