【感想・ネタバレ】現代活学講話選集6 先哲が説く指導者の条件 『水雲問答』『熊沢蕃山語録』に学ぶのレビュー

あらすじ

人の上に立つ者が心得ておくべきこととは何か? 今の言葉で言えば、「リーダーシップとは何か?」と言うことになるのだろう。しかし「リーダーの条件」は、経済環境や組織の大小などで異なるため、どこにも共通するような決定打はなかなか見出せないでいるようだ。その証拠に、ビジネス誌では、戦国武将・明治の元勲・中国古典の英雄などに、その回答を求める企画をよく立てる。本書では、肥前平戸藩藩主・松浦静山が纏めた文献集『甲子夜話』に収められている、上州安中の藩主・板倉勝尚と幕府大学頭・林述斎とのあいだで書簡によって、学問や政治に関して問答をした『水雲問答』と、備前藩の改革に実績をあげた熊沢蕃山の語録集『集義和書』を解説しながら、指導者の心得を説いた、実践的なリーダー論である。時代は変ろうとも、人間の本質が変らなければ、その人間の集合体である組織を有機的に動かす要諦も変らぬはず。鋭い洞察による安岡版リーダー論。

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Posted by ブクログ

第1部は、肥前平戸藩主松浦静山が収集した文献集「甲子夜話」に収録されている「水雲問答」、第2部は江戸初期の陽明学者である熊沢蕃山の語録「集義和書」の解説
2つの書が語る、指導者の条件、が本書です。

江戸時代は文化の爛熟期にあたり、儒教、仏教、国学の普及が支配体制維持の理由になっていて、これが、明治維新の原動力となったという
また、多くの家臣を擁し、幕府の監視を受けながら、その藩を維持していくさまざまな苦労が、ずいぶん殿様を練達の士たらしめた。また、学問風流にただならぬ造詣があった人々もすくなくありません。
松浦静山の他、真田幸貫、白河楽翁の三名君、学者としては、「言志四録」をあらわした佐藤一斎、その弟子で佐久間象山、山田方谷などを輩出しました。

気になったことは以下です。

■水雲問答

・識には3つある。知識、見識(価値判断が大事である、見識がなければ、語るに足らぬ)、胆識(確信するところ、徹見するとこを敢然として断行し得るような実行力・度胸を伴った知識・見識)
・人心を服させる、納得させる。これが治国の術という。
・徳義はたしかに良いところだけれど、その弊害は、述情、すなわち情に流されだらしなくなるということである。頭がいいという英明の弊害は、くだくだ立ち入る、細かい、小うるさいということになる。
・上位に立つと、寛ならず非常に厳しくなりがちである。これは、上位の人の心得としてはもっともである。
・才智不足のために寛厚に見えるけれど、見るところも見落とし、仕事もできないのがかえって寛厚に見える人もある。
・上にあって才智全備、そして寛厚であるという人が出れば、これはもう当たるものはない。天下無敵であるというのであります。
・私を去るの術は、これはもう勉強する、学問を学ぶ、勉学のほかありません。

・無用の用というものがあり、荘子の言葉です。棄てる物、あるいは棄てる人材というものはないということです。
・使うには、ちゃんと見分け、あるいは、使い分ける能力がないと、逆におういう与太者のためにしてやられる。その見識が必要であります。
・どうしても泰平になると人間が堕落する
・何事によらず筋道を通す。この風俗を改める。風俗に負けないで風俗に従わないで、この風俗を直していくことがまず大事dす。
・人間とは、自分の欲望、自分の趣味にあわせて何でもやり、油断をすると、何をするかわかったものでない。なんでもする。
・理性と意思の力によってはじめてできる。つまり、だらしのない人間の欲望や興味にまかせる生活に一つの締めくくりを与える。節をつけることである。それで初めて人間に「道」というものが立つ。これを義という。これを結んで、節義という。
・どうにもならないような退廃的傾向の世になったときに、すぐにどうしよう、こうしようとしたって、できることじゃない。無理にやろうと思うととんでもない副作用にかえって敗れることがある。
・それよりは、種を残す、こういう傾向を救えるような種、人物、精神、道徳、信仰そういったものを残す。そうすると時が来たら、それが必ず育って自ずから世を救う。
・諸葛孔明が、無理を頼みにきた陳情家に答える。「我が心、秤の如し。人の為に低昂する能わず」。自分の心は秤のようなものだ。人の都合で上がったり下がったりしない。
・権力について世間はなんでもかんでも悪いという人がいる。しかし、権力論は、現代でも社会学・政治学上の重要な問題の一つである。
・目的のためには、犠牲を省みんということで、人情味、人間味がなくなる、つまり軽薄になる。それでは人心がつかん。やっぱり、大功を成就する者というのは、人を使わなければならないから、忠厚である。
・自分で解決できると思ってやってみたが、自分の手に負えないとわかったときは、自分にまさる適任者にやらせたらいい。

・いくら知識を習得しても見識にはならない。見識とは判断力である。情報というものがあるけれど、これは、知識である。
・見識をどう養うか。それは、やはり人生の体験を積んで、人生の中にある深い理法、道というものがわからないと見識になってこない。
・小人を使うにあたっては、あまり罪を攻めすぎますと必ず弊害が生じます。たとえ罪をおかしても、自分の罪過を納得して罪に服させるためには、少々の過ちがあってもすぐに咎めないで、罪が外面に現れるまでは待ってやるのがよろしい。
・追い詰められると、獣すら反撃します。まして、人間にあっては当然のことです。あまり過酷に罪を責めると弊害を生じるとの言葉、ごもっともであります。
・あまり重箱の隅をきれいにつつかない。多少の弊害は残しておく。その小弊を突っつくと、かえって大弊が生じます。

・国家の滅びる兆候として、五寒をあげています。
 ①政外る 政治のピントがはずれる
 ②女はげし 女がでしゃばる
 ③謀泄る 機密が漏洩する
 ④卿士を敬せずして政治やぶる 教養がある者を大切にせず、無責任な政治を行う
 ⑤内を治むり能わずして而して外を務む 国内の目を欺いて、国民の目を外国ばかりに向ける

・軽率の益:軽率によって失敗することもありますが、その中にも益があります。精緻になりすぎることによる失敗も。それよりも実行段階では、躊躇しないで、さっさと断行してしまったほうがいいこといっています。
・世の中の道理をわきまえること分別は結構だが、あまりにも分別臭い人間ほど実行力はありません。それゆえに、無分別ほどよい者はないと思います。無分別であれば、たいていのことは押し切ってやり通すことができるからであります。
・「大事を倣し出すもの必ず跡あるべからず」跡をのこせば、必ずそこから禍が生じます。だから、痕跡があってはなりません。
・勤勉努力が善いことであると知っていても、現実には怠けがちなものです。そんなことはよくわかっている、いつでもできることだと言って、怠ける連中ばかりです。
・中庸に「力行は仁に近し」。努力して実行することは、道徳でいう、仁に近い。
・時世を知るということは、外でもありません。為すべきときには時機を外さず断行し、してはならないときには、行わないだけのことであります。
・「棺を蓋うて事乃ち了る」 人間の評価というものは死んでみないとわからない。

■集義和書

・人間を考察するに4つの要素
 ①特性
 ②知性・知能
 ③技能
 ④習慣

・道徳もその通りで、無理に押しつけて、型にはめることではけっしてない。いろいろのものにぶつかり、争い、苦しんで、まごまごするのではなくて、いつもゆったりと、自然に進んでいく。これが、道徳の真諦であります。
・法というものは、その時代時代、その時と所に従ってだんだん変化していかなければなりません。
・本質と実践とはおのずから区別があります。本質的には良いことでも、人情という現実の問題に違反するときは、性急に考えないで、長期的な見地から手加減しなければなりません。
・しかしながら、義の大なること、つまり、国や民族の運命を左右するような大問題に対しては、人情に囚われないで、断固として決行しなければなりません。
・日本くらい平和・平和といって大事な問題を抹殺する風俗はほかにない。平和は誰にでも口にするが、それをどう達成するか。こういう実際問題になると、これくらい難しいことはない。
・道というものは実践だ。信仰や宗教は日々の実践なんだという。つまり仏教も道徳なんです。広い意味において、すべては道徳であり、すべては人間いかに生きるべきかということなのであtって、これを間違えたら人間は破滅してしまいます。
・躾という字はまことにうまくできている。身体を美しくする。身体をきれいにする。人間のありかた・生き方・動き方を美しくするという、これは躾だ。

・道徳というものは自然である。自然であるから、原則として教師たる者は自ら範を示すことである。その上に有効なる手段は、人間をそのまま反映するところの情緒というものを主として、これに理性とか知性というものを結びつけて、出来るだけ文芸とか、音楽とか、つまりレ礼楽を興すことである。これが道徳学習を進めていく大事な根本原則であります。

目次

文庫版のまえがき
第1部 「水雲問答」を読む
 第1章 治と乱
 第2章 権と人
 第3章 人間の用い方
 第4章 失敗と工夫
第2部 経世済民の真髄
 第1章 道と法
 第2章 日本精神
 
ISBN:9784569664606
出版社:PHP研究所
判型:文庫
ページ数:240ページ
定価:680円(本体)
発売日:2005年10月19日第1版第1刷

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2023年06月10日

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