【感想・ネタバレ】虚構の歌人 藤原定家のレビュー

あらすじ

定家ほど、現在まで誤解され続けた歌人はいない。定家の新解釈本登場!! 藤原定家は、「美の使徒」「美の鬼」「歌聖」「日本を代表する近代詩人」などと讃えられ、一般には「新古今」「百人一首」の選者として有名であり、日本を代表する歌人と言っても過言ではないでしょう。また18歳から74歳にわたり書き続けた日記『明月記』は、定家を識るための資料とともに、日本中世(平安、鎌倉)の歴史資料として国宝に指定されほど貴重なものとなっています。そんな藤原定家を著者は歌人としては、天才ではないと突き放します。秀才が作る歌と・・・。そして、冷徹な眼で多くの資料を猟渉し、定家の<歌>だけでなく、定家そのものを解剖していきます。まさに名外科医の発見困難な病巣を切り刻むメスのように、定家の崇拝者たちによって作られたステレオタイプの偶像を丹念に一枚一枚剥がしていきます。 しかし、著者は、定家の現在までの評価を貶めるためにこれを書いたのではなく、歌人として、歌を学び、歌を読んできた自分が、今、定家と直接対話ができる時期がきたのではないか、そして、今まで築きあげられた虚像・定家にあざむかれず、実像・定家を世に知らしめ広げることが出来るのではないかという、熱い思いでこの本書を書いたと語っております。 著者は本書の中で「定家は『おもしろき』歌を詠む人ではない、落語を見るとき人は笑おうという姿勢でみる。和歌を見るとき人はおもしろいもんだと思ってみる。しかし定家はむしろ「もののあわれや」や「おもしろさ」を否定するために歌を詠んでいる。定家の歌は前衛であり形而上的であり、いわば「禅」なのだが、たいていの人はそこまで考えが及ばない。ある人はそれにもかかわらず、定家の歌に風情を感じようと努力してとんちんかんなことを言う。またある人は、なんだこんなわざとらしい歌、とあきれてしまう。定家はこんな具合にいろんな人に誤解される。」 と述べております。本書は今までにない定家新解釈満載の定家ワールドがこれでもかと書かれていいます。本年度文芸界の注目の一冊となることでしょう。



※紙版とは一部、内容が異なります。

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Posted by ブクログ

藤原定家について元々私が知っていたことは、

・新古今和歌集を選んだ
・小倉百人一首の元となるものを作った
・和歌に大きな影響を与えた重要人物
・父子で有名
・紫式部が好きで研究していた

というくらいだったが、本書を読んでなぜ彼が重要人物だったのか少しわかった気がする。
西行や他の歌人に比べ、定家は教育者としての側面が強く、多くの人が和歌を読めるようにテンプレートを作ったり和歌の繁栄のために尽力していたようだ。
中でも著者の言う「定家ジェネレーター」が面白く、一句目二句目で詩的な情景や願望を描き、三句目で突然否定し、残りで救いようのない現実を描くという、これに当て嵌めれば誰でもそれなりの和歌が読めてしまう優れものだ。
例えば定家の、

山里は 人の通へる あともなし(突然の否定!)
宿漏る犬の 声ばかりして

や、著者が詠んだ現代の歌では、

キャバクラで シャンパンタワーの かげもなし
場末酒場の 雪の夕暮れ

になる。
歴史上有名な人もそうでない人も、大勢の人がこのテンプレートで和歌を作り楽しんだ。
私にも作れるかしらと思わせる、そういうところが定家のすごいところで、踏み込めば底無しに深い和歌の世界に誘うのが定家のようだった。

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2021年03月12日

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