あらすじ
ぼくは人生を愛している。これはいわば告白だ――孤独で瞑想的な少年トーニオは成長し芸術家として名を成す……巨匠マンの自画像にして不滅の青春小説、清新な新訳版。併録「マーリオと魔術師」。
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Posted by ブクログ
機会があって少し触れたところ、想像以上の面白さに一気にすべて読み切ってしまった。繰り返し読みたいと感じさせる作品で、今後愛読書になりそうである。
「マーリオと魔術師」についてもその巧みな描写力に圧倒され、まるで自分もその場で催眠術にかかっているかのように空気にのまれながら、マーリオの登場と結末に向かうピンと張り詰めた空気に触れさせられたが、何よりも「トーニオ・クレーガー」が秀逸だった。言葉によるソナタと言う表現は的確で、完璧に構築された全体のなかでモチーフが美しく用いられ、心に迫った。貴重な作品である。
この作品から我々が受け取るものは数多くあるだろうが、その中で「若きウェルテルの悩み」と通じるものが挙げられているのは非常に妥当だと感じる。この作品が「若きウェルテルの悩み」であり、また「人間失格」であると私には感じられた。
文学に通ずる人からは批判されてしまうかもしれないが、おそらく当時の若者が「新世紀エヴァンゲリオン」を通して碇シンジから受け取ったものも、これと同種のものであったのだと私は考える。そしてまた、そのような受容の仕方が現代の世代(ハルヒ以降)の事後的なエヴァンゲリオンの受容の中には見られず、単純に碇シンジを軟弱な他者、旧エヴァを難解で未完成の作品ととらえる動きの中に、作品と人間の関係性について考えるべき問題点が潜んでいるように思われてならない。
Posted by ブクログ
トニオ・クレエゲルの新訳ということで興味を持ち読んだ。混乱を招きやすい箇所はなるほどあからさまに書かれており理解しやすい。表題作も素晴らしいが、同時収録作品が強く印象に残る。想像以上に挿絵が多かった。
Posted by ブクログ
本作は、トーマス・マンの自伝的要素が一番強い作品で、カフカが何度も読み返したらしい。
主人公トーニオが幸福な青春期を過ごしてから大人になり自分を取り戻す話。
故郷に帰り、実家のあった場所に帰ったり、そこには思い出の胡桃の木があったりするけど、ホテルで詐欺師と疑われたりもする。
でも、愛すべき平凡な人たちを再び発見したトーニオ。自分のことを芸術にハマって迷子になった普通の人、と女友達に言われて、故郷に旅に出たおかげだった。
1章ラストと9章(終章)ラストがつながるソナタ形式で、私は感情がブワッと昂ぶりました。
「これは価値ある、実りあるものだ。
ここには、憧れと、憂鬱な羨望と、ほんのすこしの軽蔑と、この上なく清らかな幸福感とがあるのだから。」
トーニオは決心をします。よりよい作品を書くと。
短い作品ではありますが、綺麗に纏まっていて、自分の青春を思い出したこともあり、良い作品だと思いました。