あらすじ
ユーロ危機を招いたギリシャ支援における頑なな姿勢、ロシアや中国への接近と米国離れ、学者やメディアの誤解に基づく日本批判――EUのリーダーであり、GDP世界第4位の大国が、世界にとって、そして日本にとって、最大のリスクになりつつある。ドイツは変質したのか? それとも、ドイツに内在していた何かが噴き出したのか? 気鋭のジャーナリストがドイツの危うさの正体を突き止め、根強い「ドイツ見習え論」に警鐘を鳴らす。
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Posted by ブクログ
ドイツリスク
「夢見る政治」が引き起こす混乱
著:三好 範英
光文社新書776
本書は、2015年断面のドイツを中心した国際政治をあつかっています。
その軸は3つ
1 日本の東日本大震災に端を発するエネルギー転換
2 ユーロ、その政治と経済、ギリシア金融危機、ドイツの再統一と、EUの誕生
3 ドイツとロシア、中国
夢見る政治”ドイツ”というのは、一種の皮肉かと思いました。
ドイツのエネルギーは、ロシアから供給を受けている
つまり、日本でいう中東、サウジアラビアは、ドイツでは、ロシアである
エネルギーの最大供給国である、サウジアラビアと日本が事を構えることが考えられないと、同様、ドイツとロシアは、エネルギーを通じてそういう関係なのである。
エネルギー転換とは、原子力発電所をとめて、代替手段で電力を確保するという試みなのである。
次に、西側としてのドイツ、ドイツの東西統一と、ユーロの誕生、EUとしての域内統一がセットになっているということ、EUの悲劇は、通貨という経済は統一したのだが、そのベースとなっている政治を統一できなかったこと、そのために西欧の中心である、フランスとドイツが勝者となり、ギリシアなどが、経済的危機に陥った。
ドイツの強みは、単に、経済大国であるだけではない。第一次大戦後にハイパーインフレを経験したが故に、通貨を含む、経済政策は、堅実を極め、その手腕は他国に追随を許さない
加えて、メルケルの登場はドイツに幸運をもたらした。待つことのできるメルケルの手腕は、マダム ノー、つまり、最適な状況下で、絶好のカードを切ることができる狡猾な指導者を、ドイツは手に入れたのだ。
ドイツ問題:ドイツは、ヨーロッパの中央に位置していて、勢力均衡にとっては強すぎるし、覇権にとっては弱すぎるという中途半端な、半覇権状態が歴史的にヨーロッパに混乱と動乱をもたらしてきた
ドイツの東西統一は、再び、ヨーロッパに覇権国としてのドイツを呼び戻したことになる
最後に東側としてのドイツ、かって東側であったドイツの顔がある、プーチンの理解者。シュミット、シュレイダーという2人の元首相は、プーチンの理解者である。それは、冷戦が終了して、ロシアと資源・経済面で関係強化が行われたからである。そして、2人は、社会民主党(SPD)の主要政治家であった。
一方、メルケルは、キリスト教民主社会同盟(CDU)の伝統を引き継ぐ西側の政治家である。
中国とドイツ、フォルクスワーゲンの巨大市場である中国は、ドイツにとっては欠くべからざる貿易相手国である。そして、ドイツの半分は、かって東側である。本書では、中欧国という表現を使っている箇所がある。
日本とドイツは、巨大市場である中国では、ライバルであり続けている。政府がそうだとは言えないが、ドイツのメディアは中国よりであり、日本を理解しようとはしていないと思える。ナチスドイツの贖罪を終えたドイツには、日本は、いまだ戦争責任をはたしていない国であると感じているとの感もある
歴史的には、ドイツと日本とは、同盟国ではなく、経済的なライバルなのである。
ISBN:9784334038793
出版社:光文社
判型:新書
ページ数:248ページ
定価:840円(本体)
2015年09月20日初版第1刷発行
Posted by ブクログ
2015年9月刊行の本だが、テーマであるドイツリスクがプーチンのウクライナ侵攻で顕在化しているので再読。
ドイツのロマン主義というか観念論的というか、テーゼに酔って突き進むという国民性は確かにある。著者は「夢見る政治」と呼ぶが、それはアングロ・サクソンの経験主義・現実主義の対極にある。
現在のプーチンのウクライナ侵攻に関わる部分は、できそうにもない「原発廃止」というテーゼに突き進み、電力不足からのロシアの天然ガスへの依存。親プーチンな人物も多く、十分な制裁ができないのは多分にドイツの事情である。
ドイツは元来、親中国であり第一大戦後にドイツの軍事顧問団が蒋介石の国民党軍を指導し、さらに大量の武器を輸出(戦間期ドイツの復興の原資は中国の武器購入も大きかった)、そのため上海事変で日本軍がかなりの損害を受けた。
明治政府がビスマルク時代のドイツの立憲君主制が日本に近い制度と考え、帝国憲法や軍隊(陸軍)や教育(大学制度)にドイツ式を採用したためドイツに親近感を覚える日本人は過去に多かっただろうし、第二次大戦では同盟関係にあったことから戦後生まれの自分にも親ドイツの感情が子供のことからある。メッシャーシュミットやパンサー戦車のプラモデルは人気だった。
ところが、このわずかな時期をのぞき、特に現代はドイツは基本的に親ロシア、親中国と考えた方がよい。日本人のドイツびいきはとっくに時代遅れになっている。
本書にも書かれているがナチスドイツのホロコーストという最大級の負い目を持つドイツ人は歴史認識問題などで日本人に対し常に道徳性な優越性を見せたいと思っており、日韓、日中の問題で日本を非難することが多い。
それ以外にもドイツ人について多くの示唆が得られる良書。
Posted by ブクログ
ドイツの人々が、いろいろな機会にあらぬ方向に暴走することを、事例によって教えてくれる。理想を追い求める「夢見る人」であるが、何かおかしい。
顕著に表れたのが、福島原発時の反応。英国と対比されて、eccentric さを思い出した。
日本を振り返って似た香りを感じざるを得ないのだが、反面教師としなければ。
Posted by ブクログ
日本人のドイツに対する印象は、概ね良いと思う。私自身もそうだった。しかし来日したメルケル首相の歴史認識についての発言には少し戸惑いを感じた。完全に中韓擁護だったからだ。
知っているようで知らないドイツの実際を知ることが出来る一冊。おすすめ。
Posted by ブクログ
思ったより骨太な1冊でした。本当のドイツを知らずに親近感を抱く日本人。マスコミがいかに表層的で偏っているかを、再認識させられました。ドイツの中国への傾倒、肩入れは早くもあちこちで軋轢を生んでいるようですが。