あらすじ
娘を亡くし、ヨメさんがパクられたハービーと悪友・トイトイの二人がしでかしたシャレにならないヘマが、そしてストーカーと化した元恋人が、ろくでなしの智也とデブの警察官・柴尾を絶体絶命の状況に突き落とす! どうする? どう切り抜ける!? 直木賞受賞作『流』で話題をさらった著者が、圧倒的なスピード感と絶妙な筆致で描く、青春群像! 文庫『さすらい』を改題。
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Posted by ブクログ
サイコー!!
確実にこの本は、あたしの人生のスゴ本だ。
あまりこういったことは好きではないが、あまりに感動したのでいくつか、
この作家の素晴らしき世界を引用しよう。
なぜかというとこの作家のすごさは、その圧倒的な表現力にあるからだ。
ストーリーを説明するのはすごく難しい。
あるいはすごくカンタンだ。
4人のろくでなしどもがつるんで馬鹿やって、しくってボコられて、
死にかけて逃げてでもまたつるむ。
チャラくてもてて、でも人を愛したり誰かを信じることができずに、
つながりを断ち切りたくて腐る、ろくでなしの智也。
「世界はいつだって俺とそれ以外だ。みじめな負け犬どもを見るにつけても、狂っているのはおまえのほうなんだと、世界中の人間に後指を指されているような気になる。そう、少なくともこの街では、狂ってるのはおれのほう。」
智也とヤッたばかりのシャブ中の女とケッコンし、
愛しく思っていた娘をそのビッチに殺され、抗うつ剤を飲みまくるハービー。
「男と逃げたお袋、俺をぶん殴る親父、その親父を鉄アレイで割った兄貴、娘を殺した女房、
金を持ち逃げしたダチ。責めを負うべき人間は、いつだって俺以外の誰かだった。
だけど、それは真実じゃない。
ゲームを塗りつぶしたのは俺じゃない。俺じゃないけれど、もしかしたらほかのだれかでもないのかもしれない。
元々そういうゲームだったのかもしれない。
だれもそれに気づかずに、そうじゃなければ気づかないふりをして、なんとか新しいゲームをはじめようとしていただけだったんだ。それでなにもかもよくなると信じて。なによりもまず自分が変わらなければ、その新しいゲームもすぐ真っ黒になってしまうというのに。」
ハービーとトイトイペア、少し距離を置く智也、このろくでなし3人に、
若干振り回されつつも良心的なのが(といってもぶっ飛び気味)、デブの警官、柴尾。
「ぼくの欠点は、自分で決定を下せないこと。
そういう人間にとって、物事はいつだって唐突に襲いかかってくる。で、いいことも、悪いことも、出会いも、別れも、こっちが気づく前に全部終わっている。
いまできることは、起こってしまったことにじたばたせず、終わってしまったことをちゃんと受け入れることだけ。」
不思議なことに主人公の1人でもあるトイトイにはなぜか、独白が許されていない。
それは彼が、柴尾の曰く「禁治産者レベルの阿呆」だからなのかもしれない。
シャブ中になってホモの客を取らされたり鼻くそ入りの酒を飲まされたり、
彼の扱いだけは異色にひどいが、そこがまたこのストーリーの、いい抜けになっている。
漢字の使い方、行間、構成、全部がぎゅんぎゅん音を立てて疾走するストーリーの、
どこまでが計算でどこまでが勢いなんだろう?
この人の心臓を取り出したらきっと、常人の数十倍はどくどくいっているはず。
なんだろうこのビート感?
けれんみだらけの小説は、素敵な小悪党のこんなセリフでしまってゆく。
「どうせこの星はおれの思惑なんかおかまいなしにまわる。善意も悪意も、嘘も真実も、ホモもダライ・ラマも、みんなごたまぜにして。そんな血も涙もない世界を出し抜くなんて、どだい無理な相談だ。だったら、せいぜい自分を出し抜いてゆくしかない。
どこまでもつづいてゆく、どこへもいき着かない道。無理にでもどこかへむかっていると思い込まなきゃ、どんなやつでもめげちまう。」
才能にべた惚れしてるのは、きっとあたしだけじゃないはずだ。
東山彰良、サイコー!
ちなみに改題前は「愛が噛みつく悪い星」だ、そうで。
そのほうがずっとずっと、それっぽいのに。