あらすじ
最先端の医学研究に詳しい名郷医師が、20年余にわたるEBM(根拠に基づいた医療)の実践の中でわかったこと。それは医療のかなりの部分がエビデンスが明確でないままに行われているという驚きの実態である。
すでに研究で明らかになっている「効果が疑わしい」あるいは「すべきではない」という治療が、いまも医療の現場にまかり通っているのはなぜなのか。
かつては常識でもいまや非常識と化し、意味がないばかりか、逆に病状を悪化させる可能性すらある医療のリスクを丁寧に説明。
新しい時代の治療のあり方を解説する。
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Posted by ブクログ
著者は自治医大を卒業し、地域医療を中心にキャリアを重ねてきた医師です。
本書は医師を盲信して検査や投薬を受け続けるリスクをEBMという観点から啓蒙したものです。
著者は冒頭で「近年の医療はEBM=Evidence-Based Medicine(根拠に基づいた医療)を目指している。
しかしEBMとは単なる平均値に過ぎず、患者の個性に応じて個別に判断すべきものだ」と述べています。
これは国内で保険認可されている薬の評価根拠が、血圧や血糖値などの「数値の上下動」で、「実際に寿命が延びたか」などの長期的な経過を黙殺していることを問題視しているようでした。
その論拠として1章では降圧剤があまり効果がないにも関わらず頻繁に用いられて、医療費高騰の原因の1つになっていることが述べられていました。
2-4章では間口を「検査」に広げ、インフルエンザを巡る検査や投薬の無意味さ、風邪や癌検診での過剰医療、CTの被爆リスクとMRIで過剰治療されるリスクが述べられていました。
5章では、薬価の高い新薬が推進されていることへの疑問を述べていました。著者の実感では古い薬や安い医療の方がEBM上ではよい結果が示されていると感じているためです。
6章ではこうした事実を踏まえ、総合的に考えて「医療を受けない選択」をむしろ積極的に考えるべきではないか、として結んでいました。
本書は、医療に対する疑問をわかりやすくまとめていました。
中心に添えているのがEBMですが、コラムでも指摘されていた降圧剤「バルサルタン(ディオバン)」の論文捏造が有名ですが、こうした臨床実験やデータの捏造は他にもあるのではないか、と思わせました(英国医師は「ファーマゲドン」でこの点を指摘しています)。
自らの健康に責任を持つ、という気概を促すもので、読み応えがありました。