あらすじ
高さ100メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手の従業者はそこで日々、異様な有機生命体を素材に商品を手作りする。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物だ。甲板上とそれを取り巻く泥土の海だけが語り手の世界であり、そして日々の勤めは平穏ではない――第2回創元SF短編賞受賞の表題作にはじまる全4編。奇怪な造語に彩られた、誰も見たことのない異形の未来が読者の前に立ち現れる。デビュー作ながら第34回日本SF大賞を受賞した、現代SFの到達点にして世界水準の傑作!創元SF文庫収録に際し、著者によるイラストを5点追加。/本文イラスト=酉島伝法、解説=大森望(本電子書籍は、『皆勤の徒』(創元SF文庫 2015年7月初版発行)を電子書籍化したものです。)
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Posted by ブクログ
すごく読み応えがあった。理解するためにたくさんメモを取った。奥深く作り込まれた世界は一度読んだだけでは把握しきれない感があり、解説を読んで驚くことがいくつかあった。
やはり最初の『皆勤の徒』に抜群に惹かれた。ここから始まる未知の世界にじわじわと馴染んでいくのが楽しい。想像力を働かせる読書の楽しみを最大限得られた。
今現在の人間とはかけ離れた者たちが登場するが、行動原理が意外にも理解できるところがポイントで、仕事があり暮らしがありここにもひとつの社会があると気づく。それがなければ本当に放り出されたような気持ちになったかもしれない。
たくさん登場する造語も、つかわれている漢字や読みでなんとなく意味が分かるようになっているところがすごい。
設定やストーリーの面白さだけではなく、読ませる文章の巧みさがあると思う。デビュー作というのがまた驚きだ。
Posted by ブクログ
面白い。同音異義語(?)がワラワラ出てきて言葉遊びが楽しい。
描写が妙に生物的でグロテスクなので、耐性が無い人には辛いかもしれない。
表題作が一番訳がわからない(といっても世界観がとてつもなくユニークで引き込まれる)話で、徐々にこの世界の仕組みが分かっていく構造になっている。解説を読まないと完全な理解はできないだろうが。
解説には同じような世界観として『地球の長い午後』や『新世界より』など私にはイマイチな印象だった書籍が出てくるが、それらと共通するのは「空想の生態系が出てくる」という点だけだと思う。方向性も描写の仕方も異なる。
…と思ったら、解説を読み進めていくとちゃんとそう書いてあった(列挙された作品とは格が違うことも)。
本書の内容は海外に出てもウケると思うが、言葉遊びの面白さは他国語に翻訳するときにとても悩まされそう。
あまりカタカナ語を使わず、本来なら外来語で呼称するものを敢えて独自の漢語(= 表意文字)で記載することでイメージと共に異世界感が強烈に表現されている。SFで軌道エレベーターや脳インプラント、脳内のインターフェイスがワクワクする単語であるように、海外ではこの漢語的な語呂が魅力的に見えるかもしれないなと思う。あえて漢語を残してルビを振っても面白がられるかもしれないが、漢字の意味が分からないと面白さが伝わらないか。書籍への印刷や2バイト文字は画面への表示も大変で、労多くして・・かな。
Posted by ブクログ
異形の生物が続々と登場、有機物が畝り、ぞわぞわと増殖し…。奇怪なイメージの奔流に翻弄されるだけだった表題作。
連作を読み進めるうちに、人類文明は衰退して異形の進化をしているらしいとか、人類の記憶がデータ化されているらしいとか少しずつ分かってくるけど、解説を読まないと全部は理解できないな。
人類社会を模している、でもグロテスクにズレている異形の生物たちの生態が面白く、背景設定がわからなくても結構楽しめます。
Posted by ブクログ
筒井風ダジャレ落語かと読み始めたら、噂どおりハードSFの設定がチラリと目をかすめた瞬間から怒涛の迷宮が浮かびあがる。吾妻ひでお描く異星のぬるぬるぐちぐちょ生物が、カフカ的な生真面目な不条理世界を徘徊する様に驚く。(非)日常のルーチン描写かとみせかけて、世界のひみつを覗き見させるポリティカルスリラーっぽい展開もすごい。それにしても、あとがき解説のおかげでやっとわかった描写がいくつもw 噂どおりの傑作だった。
Posted by ブクログ
果てしなき、あまりに果てしなき、切なさの旅路。
第34回日本SF大賞受賞の本作、いろんなところで数々のレビューがなされていますので、今さら鴨ごときが紹介するまでもないでしょう。
円城塔氏の文庫版帯の紹介文「人類にはまだ早い系」がものすごくしっくりくる、認識のパラダイム・シフトを前提として構築された圧倒的な世界観。「冥刺(めいし)」だの「遮断胞人(しゃだんほうじん)」だのといった言葉遣いがただのジョークじゃないの?という論評も少なからずありますが、そうしたユーモラスな言葉遣いが表現する世界の骨組みを朧げながらも読み取ると、全身に鳥肌が立つ空前絶後の言語SFでもあります。
この余りの異形ぶりに訳が分からないまま読み進めて、読み進めてもやっぱり訳が分からないんですがヽ( ´ー`)ノ、歯を食いしばって読み進めるうちに何となく物語の背景が、どうやらこの世界に登場する異形の民は地球人類の成れの果てらしいということが薄らとわかってきます。
この時点で、この作品の骨格の大半はまだ理解できていないのですが、それでも鴨的に強烈に感じ取れたのは、物語全体を通低音のように流れる、切々とした哀感。
この作品世界において、現代の我々が認識できる普通の「人類」は最早登場しないのですが、それでも肌感覚で理解できる「滅びゆくもの」の切なさ。
地球に残った人類は緩やかに死滅して行き、宇宙への潘種を目指して自らをデジタル化した人類もやがて否応なく異形の環境へと適応せざるを得なくなる・・・そして未来史の最後(この作品では最初に収録されている作品で!)において、情報から再構築された最後の人類は、新たな生命の種が地球に降り立つ様を目撃することになる。
読み終えて本を閉じた時に感じる壮絶な虚無感、そこに至るまでの登場人物たち(その大半は人間の姿をしていないわけですがヽ( ´ー`)ノ)の愛おしさ。
ぱっと見の印象はものすごく変態チックでものすごく読む人を選ぶ作品ではありますが、鴨はそこに優れた日本的美意識を、万物への温かい(そして厳しい)眼差しを感じます。現代日本SFが世界に誇れる、実に日本的な傑作だと思います。
・・・と、偉そうにレビュー書いてますけど、これも大森望氏の懇切丁寧な巻末解説があってこそ。途中で投げ出しそうになった方、大森氏の解説を読んでから再挑戦しても良いと思いますよ!