あらすじ
冬を間近に控えた四月。建築家ファビアンの愛娘とそのベビーシッターは、ブエノスアイレスの地下鉄で突如姿を消した。警察の捜索は遅々として進まず、以前からギクシャクしていたファビアンと妻との関係は悪化の一途をたどるばかりだった。やがて絶望の淵に立たされたファビアンは、バローロ宮殿に事務所を構える曲者の私立探偵の力を借り、みずから娘を探し始める。腐敗した街をめぐり、大河の果ての密林に続く彼の旅路は家族の忌まわしい秘密を明かしていく。スペイン語圏を席巻したアルゼンチンの傑作ミステリ。
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Posted by ブクログ
原題は「ブロンズの庭」。この意味は後半になると分かる。邦題の方がミステリーらしい。
長い小説だが、先が読めず、少しずつ手掛かりが明らかになっていくので、まったく飽きることがない。最後の200ページはほとんど一気読みした。
ブエノスアイレスの中心部から、密林の奥地へと辿り着く地理的、場面的なコントラストや、事件発生から解決まで10年近くかかるという時間的なコントラストが物語に広がりを与えている。
主要な登場人物にも容赦なく悲惨な結末を辿らせる。妻のリラ。探偵のドベルディ。ドベルディはよいキャラクターだっただけにとても惜しく感じるが、その死も無駄にならず、事件の解決への重要な手掛かりを与えることになる。
そういえば、キャラクターの性格付けもとてもよくできていて、物語に深みを与えている。主人公のファビアンは比較的無特徴。人の良いドベルディ。不安定なリラ。刑事のブランコ。
リラの叔母が実はすべてを分かっていたということに、後で気づいてぞっとする。ファビアンが叔母を罵る場面は、一つのクライマックスだろう。
娘が見つかったところで簡単にハッピーエンドで終わらないところもよい。10年近い時間の溝はそう簡単には埋まらない。それでも、微かな希望を感じさせて物語は終わる。
個人的には一人称でこの物語が書かれたらどうなるのか興味がある。
ときどき挿入される犯人の日記は、読者を楽しませるための小手先の演出である。これは最後に読めばいい。ドベルディの元刑事宅への潜入場面や、娘が密林で暮らす様子などは、当然事後に知ることになる。映画的なエンターテイメント性は薄れるのかもしれないが、ファビアンとともに歩む先の見えない旅を楽しめるのではないかと思う。