あらすじ
著者が自らの体験談を豊富に織り交ぜて戦後史を語った、異色の経済書。
日本経済の変貌が著者個人の視点と経済学者としての大きな視点の両方から描かれます。
最初の記憶は、4歳のときに遭遇した東京大空襲。
戦後復興期に過ごした少年時代、1964年の大蔵省入省、アメリカ留学、そして80年代のバブル、90年代・2000年代のグローバリゼーション--。
日本経済は、ダイナミックな成長と成熟を遂げる半面で、
経済思想や政策手段の中に、戦時経済体制的なものをいまだに残している、と著者は指摘します。
戦後70年を迎え、日本経済を改めて理解するための必読書です。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
戦後経済史 単行本 – 2015/5/29
経済政策に関する限り安倍晋三はアカ、社会主義者である
2015年6月7日記述
野口悠紀雄氏の著作。
今回は戦後経済史と銘打っている通り経済史の本である。
本書に登場する1940年体制という概念は戦時経済体制のことである。
著者の1940年体制という書籍を合わせて読めば理解が深まるだろう。
これまでの野口悠紀雄氏の著作をいくつか読んでいた身としてはまず本書の語りかける文章に驚いた。
ただ野口氏の個人的な当時の出来事とからめて経済史が語られるという本書のつくりではむしろその方が適切であると途中から実感。
著者自身の東京大空襲を生き延びた話、子供のころ、大蔵省に入るきっかけ
大蔵省での仕事、留学時の話など大変興味深かった。
当時の生活がリアルに見えてくるようでもあった。
敗戦後の日本を統治したGHQが日本の経済については実は無知でシャウプやドッジは日本の官僚が自分たちの政策を実施するための神輿だったという指摘には意外な思いがしました。
ただ日本の予算制度などを詳しく知らない人がいきなりきて膨大な予算案をつくれるはずはないという指摘は正しいでしょう。
紹介したい点が数多くあります。(ただ細かい点は本書を読んでいただくことにして)
戦時体制をつくる為に準備された1940年体制は戦後の復興、農地改革、高度経済成長、石油ショックの克服など1970年代までは有効に機能していた。
しかしIT革命、社会主義国の崩壊並びに資本主義国への変貌、中国の工業化などによって日本経済にとっては逆風とも言える経済構造に世界が変化した。
その変化に対応しきれていない為、日本は停滞し失われた20年となった。
1980年代後半からのバブル経済は明らかに異常だった。
人はボブルの渦中にいるとき、それがバブルであることを認識できないバブルが進行している最中にそれをバブルだと認めることは、非情に難しい。
バブルだと指摘することは、もっと難しい。
それは誰も理解してくれない、孤独な戦いです。
自分の国に誇りを持てるのは大変重要。
しかしそれは客観的な事物や事実に裏付けられている場合である。
裏付けなく誇りだけが独走するのは危険。
それは攘夷と異質排除に繋がり、進歩に対する最大の障壁になる場合が多い。
著者の違和感の正体は「働く必要がある」という原則が成立しないこと。
日本人が使える資源の総量が増大しない好景気は間違いなくおかしい。
誰かが豊かになっても他の人が貧しくなる状態は長続きしない。
介護問題や財政危機など今後の日本のために必要なのは高生産性産業。
竹ヤリとバケツで超高齢化社会には立ち向かえない。
現在の安倍晋三内閣の進める経済政策は企業の賃金決定過程に介入するなど市場の役割を否定している。
日銀の独立性に否定的立場である。
それは統制型経済、1940年体制、戦後レジームへの執着に他ならない。
野口悠紀雄氏の論説が人気が無いのは内容が悪いからではない。
理解できない人or理解したくない人が多いからである。
それはバブル景気の時も今の異次元金融緩和も同様である。
今こそ著者の真摯なる日本経済への指摘に耳を傾けよう。