【感想・ネタバレ】囁く影のレビュー

あらすじ

パリ郊外の古塔で奇妙な事件が起きた。だれもいないはずの塔の頂で、土地の富豪が刺殺死体で発見されたのだ。警察は自殺と断定したが、世間は吸血鬼の仕業と噂した。数年後、ロンドンで当の事件を調査していた歴史学者の妹が何者かに襲われ、瀕死の状態に陥った。なにかが“囁く”と呟きながら。霧の街に跳梁するのは血に飢えた吸血鬼か、狡猾な殺人鬼か?吸血鬼伝説と不可能犯罪が織りなす巨匠得意の怪奇譚。改訳決定版。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

5-

導入部はやや唐突で、何が起こっているのか、何が起ころうとしているのかを把握するのに苦労させられる。何だかよくわからないまま、結局はリゴー教授の“6年前の事件の話”に引き込まれざるを得なくなるのだが、それはそれで良いのかもしれない。何しろそれ以降は、著者の卓越したストーリーテリングで、最後まで目が離せないことになる。真相が明かされるシーンでは、バラバラになっていたピースが、ピタピタとはまり込んでいく様が目に浮かぶようで、感嘆するほかない。

トリックについても、過去の事件の真相についてはさして驚きはないが、現在の事件の方は“おお、なるほど!”と膝を打つほどで、とても感心させられる。

吸血鬼だ何だと騒がれる怪奇要素については、添え物程度と考えて良い。結局は、不可思議な出来事に遭遇した村人Aが「ありゃ幽霊の仕業ぢゃ!天狗様ぢゃ!河童ぢゃ!」と喚いているのと大差ない。ただし著者の巧みな筆致によってその怪し気な雰囲気は増幅されている。

人間関係にご都合主義的な要素はあるものの、巧みなストーリーテリング、秀逸なプロット、驚きのトリック、意外な犯人、そして戦後という時代背景など、様々な要素が渾然一体となり、かつ絶妙なバランスで成立している本作は著者の傑作の一つと言って差し支えないだろう。



ただ、そもそもフェル博士は“何故”マイルズを〈殺人クラブ〉に招待したのだろう? 〈殺人クラブ〉は通常、会員以外は講演者しかゲストに呼ばないというし、その日はリゴー教授が講演をする予定だった。フェル博士はリゴー教授の話をマイルズに聴かせたかったのだろうか、何のために? マイルズが所用でたまたまロンドンに来ていて、単に会いたかったから? だったらわざわざ〈殺人クラブ〉でなくても良いだろう。わからない。どこかにそのことに関する記述があっただろうか。ありそうなところをざっと読み返してみたが見つけられなかった。(ちなみに“リゴー教授の話を聴かせたかった”説を突き詰めていくといろいろと妄想できて楽しい。)

まあマイルズがそこを訪れなければ話は始まらないので、プロットのためにはそれは必然、故に理由まで気にしなくても良い、という気もしなくもないのだが、やはりどうにも腑に落ちない。

0
2012年11月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最近のカーやたら面白いなあ。アイデア命のミステリー作品なのにシリーズ中盤からエンジンかかっていくって珍しいんじゃね。

殺人クラブに招かれたマイルズは、主賓の大学教授から6年前に古塔の頂で起こった不可解な刺殺事件の話を聞く。犯行時間にその塔には誰も入った者がおらず、塔の死角から上空20mをよじ登ることも不可能。動機を持つ容疑者として真っ先に浮かび上がったのが被害者の息子の婚約者フェイ・シートンだった…

【ネタバレ】



マイルズはフェイ・シートンを司書として迎え入れると、同じ家にいた妹マリオンが「囁く何者か」への恐怖で心肺停止する事件が起こり…と徐々に十八番の怪奇性が増していく。戦争が影を落としていることもあって雰囲気は暗め。
何番煎じかの○○○○○トリックも6年前の事件と現在の事件の間に戦争を挟むことで見事に決まっている。塔の上での不可能犯罪はあの作品を思い出したが、レインコート・胸壁の岩・ブリーフケースなどの小さな謎の集積でとびきりの謎を創出する趣向や登場人物の細かな描写に伏線を忍ばせる(伏線の数が尋常じゃない!)手腕に恐れ入った。マイルズが美人薄命のフェイ・シートンに魅了され、彼女の潔白を信じ、闇雲に追い続けるという儚いロマンス要素もこの薄暗い雰囲気とマッチしている。

0
2025年09月19日

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