【感想・ネタバレ】アメリカはイスラム国に勝てないのレビュー

あらすじ

カリフ(預言者ムハンマドの正統な後継者)宣言、奴隷制の復活、通貨の発行……国家を超えた理想のイスラム共同体の実現をめざし、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」が、急速に勢力を拡大している。インターネットを駆使した戦闘員の募集に対し、世界中から続々と志願兵が集まってきており、近い将来、「イスラム国」が国家として承認される懼れすらある(すでに2014年6月に樹立を宣言。“首都”はシリアのラッカ)。対するアメリカは、マイノリティを抑圧し、恐怖で人々を支配する「イスラム国」を空爆するも、いっこうに成果は挙がらず、その“根絶”のための作戦にはまるで出口が見えない。本書では、イスラム研究の第一人者が、「イスラム国」の正体を解き明かすべく、彼らが台頭した背景や最前線の活動を紹介するとともに、オバマ政権の中東政策“失敗”の要因を明らかにし、いよいよ混迷を深める中東情勢を平易にかつ鋭く分析する。

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Posted by ブクログ

『対テロ戦争』がいかに無茶な試みであるか、いやというほど思い知らされる。マスコミが言うことを鵜呑みにしてはいけない、正しい判断をするためには自分で知識を付けなければならない、とつくづく思う。

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2015年03月29日

Posted by ブクログ

タイトルの通りである。アメリカはイスラム国には勝てない。それは大正解とまでは断言しないまでも、今のままのアメリカでは勝つ事はないだろう。いや、勝とうとはしていないという方が正しいのかもしれない。イスラム国をはじめ、イスラム教の社会にはニュース報道の影響力からかテロや戦争を通して触れる事が多い。小さい頃はアフガニスタン紛争を扱う映画をよく観たし、記憶に残るものでも、イラン・イラク戦争、湾岸戦争だけでなく、アメリカがイラクに対して核兵器を始めとする大量破壊兵器の疑惑をかけて、サダム・フセイン政権打倒を目論んだイラク戦争など、戦争映像ばかりが目に浮かぶ。近頃は再びイスラエルがパレスチナのハマスを攻撃している。聞き飽きるくらい紛争やテロが尽きないように思える。イスラム国=ISILはイスラム国家樹立運動を行う、元アルカーイダ系のイスラム過激派テロ組織の事である。アルカイーダと言えば、アメリカ国内で散々テロを起こし、2001年には同日複数機を一斉にハイジャックし、そのまま航空機によるワールドトレードセンター、他数カ所に突入するなど世界を震撼させたアメリカ同時多発テロを引き起こした。ウサマ・ビン・ラディンの顔をニュースで記憶している人も多いだろう。話を戻してISILはその後アメリカが手を回しながら世界中の敵となり、各国からの激しい戦闘行為が展開される中で、バクダーディやアブハッサン・ハシミ、アブ・フセイン・フセイニなど主導者が次々と殺害され、勢力を縮小しながらも、直近2024年3月にはモスクワ郊外のコンサート会場で62名が死亡するテロを起こすなど、未だ存在し続けている。記憶に新しいトランプ氏が大統領になった際には、イスラム国に対する勝利宣言もあり、アメリカの撤収などもあったはずであるが、そのアメリカも2024年時点で戦闘を継続している。
何故彼ら(イスラム国はISとなる)はこうもしぶとく活動を継続できるのか、そして何故アメリカは勝てないのか。本書はその理由について様々な面から分析している。経済面で言えばアメリカ経済を支える軍需産業の存在が、本当は彼らの存在自体が消えてしまうのを望まないのではないか。中東の混乱はアメリカのシェールガスの供給にも影響する。政治的な面で言えば、アメリカ政治で重要なユダヤ人によるロビー活動と組織票の存在。そこから来るイスラエルを支持するしかないアメリカの立場。何より宗教面では相入れる事のないキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の存在。それぞれの宗教がエルサレムを聖地としており、国連は認めていないが、トランプ政権時にはイスラエルの首都としてアメリカは認めている。3つの宗教が複雑に絡み合う地域として、古い歴史の中でも何度も奪い奪われ紛争の種となってきた。
様々な理由はあろうが、ただでさえ複雑な中東アラブ諸国の問題が、イスラム国を生きながらえさせる理由になっている事は間違いない。アメリカや平和にとってはイスラム国は悩みの種ではあるが、各国の複雑な利害関係がある限り無くなりはせず、無くす方法も恐らくは無いだろう。それこそアメリカの政治体制が、選挙のあり方から大きく変わるか、巨大なユダヤ資本が何らかの形でアメリカから撤退するか(その方法も可能性も全く今は思いつかないが)、イスラエルがこのまま暴走を続け、世界各国そしてアメリカから見放されるか。何か世界の潮流が劇的に変わらない限り、イスラム国は当分存在し続けるに違いない。勿論地球上には多くの国、人種、宗教、複雑な地形と気候、隅々まで鎖のようにつながった経済があり、一気に劇的に変わることなど、宇宙から謎の侵略者が地球に攻めてこない限り、起こるとは思えない。
だから本書に記載される、アメリカがイスラム国に勝つという事そのものが、そうしたアメリカにとって様々な要因の中で「勝ち」の意味すらよくわからない状態になっているように思う。
そしてその様な状況下で日本は、私たちが何をすべきかについても本書は触れている。複雑な要因と歴史と宗教からは少し離れて俯瞰できる位置にある日本。石油というエネルギー依存のリスクは極大ではあるが、海外に戦闘部隊として自衛隊を送り込まない限りは、平和的に人道的に影響を及ぼせるはずである。本書記載時点では中村医師は未だ存命であった様だが、その後2019年パキスタン系タリバンに活動中のアフガニスタンで殺害され命を奪われてしまった。その様なリスクはありながらも、未だ未だ我々にはできる事が沢山あるし、中村医師の死を無駄にしないためにも考えて行動すべきである。
イスラム教は平和を愛する宗教であり、それはキリスト教もユダヤ教も同じである。何より人が人を殺害して良いはずがない。社会、経済、宗教など様々な違いを乗り越えて分かり合える日がいつか来るだろう。その時には和解という形でアメリカ大統領とISの指導者が肩を並べて写真に映る日が来るかもしれない。

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2024年09月23日

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