あらすじ
稀代のペテン師・佐村河内守の虚飾の真相! 18年間、ゴーストライターを務めた新垣隆の懺悔告白によって暴かれた、何重にも嘘に塗り固められた佐村河内守の虚飾の姿。二人の共犯関係はなぜ成立し、誰もが騙され続けたのか――。テレビ、新聞、出版、音楽業界……。あらゆるメディアを巻き込んで繰り広げられた壮大なペテンの真相に迫った渾身のノンフィクション。週刊文春が告発した佐村河内守のゴーストライター事件の全貌。第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
本書は「ペテン師」佐村河内と「天才」新垣の出会いから生まれた「佐村河内事件の全貌」のドキュメンタリーである。佐村河内事件の暴露には著者の神山も噛んでいるので当事者によるドキュメンタリーの側面もある。何が起こったか、マスコミやネットで報じられなかった事実も掘り起こされている。
佐村河内の来歴はだいたいネットで曝されていた通りだが、売り込みの戦略と粘り強さ、図々しさでは一流ではないか。ただ、肥大した自我を持ちながら彼には売り込むものが何もなかった。他方、新垣の神童ぶりも凄まじい。だが、彼には自分の芸術を押し出す図々しさ、押しの強い自我がなかった。2人が出会ったのは偶然だったのか、運命だったのか。
また、この事件では障害者も重要なキーワードである。「障害を売り物にしたくない」と著書で述べながら、実は自分の虚偽の「障害」を使って売り込みをしていた佐村河内が、しきりと障害児に接触を繰り返していたことが書かれている。そしてそのひとり、先天性の上肢欠損ながらヴァイオリンを習う少女「やっくん」を売り物にしようとしてやっくんから「大人は嘘つきだ」と拒絶を受けたことが契機となって、ゴーストライティングの事実が暴露されることになったという経過。暴露はやっくんを守るためでもあったのだ。フィギュアスケートの高橋大輔選手が〈佐村河内作品〉の《ソナチネ》を使うことで迷惑をかけてはいけないというのは実は表向きの理由だった。障害を弄んではいけないという社会の良識を自分の嘘の隠れ蓑に利用した男が、他人の障害を弄んでしっぺ返しを受けたのである。
著者の神山も佐村河内のプロデューサーとしての才能を評価し、再起を促す場面もあるのだが、「謝罪会見」で彼が嘘をついたことを謝罪するのではなく、嘘がばれたことを利害関係者に謝罪しているだけであることにたいそう失望する。それゆえの「ペテン師」呼ばわりなのである。また、新垣がこの関係を終わらせようと説得にかかりはじめた頃に、ある音大生を第二の新垣にすべく画策していたことも暴露されている。佐村河内守氏には出直してよい道を歩んで欲しいと思うが、本書を読むと無理だろうなと思わざるをえない。
佐村河内が大ブレークする要因となったNHKスペシャルのディレクター古賀淳也の番組製作の酷さ、あるいはいかに佐村河内にいいように手玉にとられたかも述べられており、筆者も含めてマスコミすべてが「共犯」をさせられていたという指摘もある。
著者は「佐村河内なるものはいる,私の中にも、あなたの中にも,誰の中にも」といって本書をまとめる。つまり「売れるが勝ち」という発想。しかし新垣なるものも私たちの中にいる。お金ではなく、ただよいものをよいと思う心。
どのような経緯であれ生み出された音楽に罪はないこと、新垣隆氏にはこれからもよい作品をたくさん書いて欲しいこと、この二点はとりわけ著者に共感すると表明しておきたい。
Posted by ブクログ
ゴーストライター問題をスクープし、発覚後の佐村河内の会見でも「手話通訳はまだ終わっていませんよ!」と一喝した記者さんによる書。
佐村河内の虚飾まみれの人生だけでなく、新垣氏や大久保家の人生や心情もつぶさに記されているので興味深い。
著者も強調していることではあるが、障害児者や被災者等いわゆる弱者の心を利用することなど許されてはならない。
Posted by ブクログ
しかしよくもやったりと佐村河内の事を感心してしまう。嘘で自分を塗り固めるのが生きがいなんだろう。出自も影響してる。
程度の差こそあれ彼のような人間は結構世の中にいる。
Posted by ブクログ
『みっくん』を以前から知っていて、絵本も書き、真っ先に事件を知り新垣氏に告白を勧めた著者。著者にすればもっと早くに相当の物を書きあげることはできただろう。しかし、敢えて時間を掛け、徹底した後追い取材でより深化した内容になった。
忘れてはならないのはこれは一件のペテン師とゴーストライターの話しではない。
著者が最も述べたかったのは、『現代のベートーベン』を無責任に報道して来て真実がばれると手のひらを返して、素知らぬ顔で非難する方に回る、そんなメディアに対しての痛烈な批判だ。
報道に係わる者こそ、『テキストとして』率先して読むべきだ!
Posted by ブクログ
2020.02.17
「音楽という真実」は、当事者…新垣さんの目線、主観だが
世間は、報道は、外側から見た彼らは
というところから次元を読み取る。
綻びが出てフェイクが現れ告発から発表されるまでのスピード感たるや。
この本が全部をわかりやすく整えているので新垣さんの本はこの本の後に読むべきだっただろうか。真実が罪なら全貌は罰だ
反省する者に救いを与え、なお騙し続け反省もせぬものにはとことん追い回す
真面目な方々の尽力のある件だったが、やはり週刊誌というかマスコミの方はいささかやり過ぎではないだろうか
読み物としてはこちらも面白かった
Posted by ブクログ
誰でも佐村河内となる恐れがある、皆の心に警鐘を鳴らす意味があったのではなかろうか。人を動かす力、技術力は相反するものなのか、水と油なのか考えさせられた。まとめ方として、時系列を前後に揺さぶる手法は賛否両論あるかもしれないが映画を見ているような感覚であり嫌いでは無い。
Posted by ブクログ
(15-50) 抜群のプロデュース能力があり、ずうずうしく押して物事を成し遂げてしまう佐村河内。才能はあるのにいつも一歩引いてしまい、自分から出ることが無い新垣。佐村河内は自分が有名になりひとかどの人物として扱われることに執着。新垣は頼まれたことを断れず、人を喜ばせることで幸せを感じるという性格。この二人が出会ったのは悪魔の配剤か?ここまで相性が良い二人がコンビを組んでしまったのが、このペテンがこんなにも長続きしてしまった理由だ。それにしても一番情けないなと感じたのはNHKだ。ドキュメント番組を作るのなら対象者と対等でなければならない。天下のNHKが対象者の言うままになって、番組を作らせて頂いている状況だったとは・・・。
Posted by ブクログ
マスコミとはこんなものなのだと感じさせた内容。結局評価をしている人たちは、障害といった絵になることが大切で、本来の音楽そのものは、誰も聞いていなのではないか。マスコミといった世間の噂に流されないような目利きが必要なんですが、難しい問題です。
Posted by ブクログ
徹夜して本を一気に読むなんて久しぶりだ。この本はポルノです。日本的なものの恥部を一堂に会させたごった煮のポルノ本と言えると思う。主役は、佐村河内守、新垣隆、メディア、メディアを通じて美しい話に酔った一般人。。
昔、吉里吉里人を読んだ時に、日本のタブーに対する切込み、風刺がすごいなと思ったが、この本はそれが実話として、何も隠すことなく剥き出しで綴られている。なんというか偽善がメルトダウンを起こしている。
物語は佐村河内の虚構が織り成す不思議な人の縁を中心に生々しく続く。しかも、彼自身の嘘(耳が聞こえない)により、ほぼすべてのやり取りがメールで残っているという奇跡的な記録性の高さ。どれを以ってしてもこれを超える話はそう出てこないだろう。劇性があり過ぎる。
作者も書いているように、これは有名になる為には何でもよいと考える非常識な男と、才能溢れる音楽バカとの奇跡のコラボレーションの話であるとも解釈できる。そうすると、二人は日本の音楽業界、あるいは美しい話に酔いたいメディアや一般人に何を残し、これから何を作っていくのだろう? まだまだ続きがあるような気がしてならないが、とりあえずは、ここまでのところでも十分なので映画化したほうがよいと思う。そんな衝撃の本だった。
Posted by ブクログ
2015/8/1だんだん化けの皮が剥がされていくところは良かったが、遅すぎたね。勧善懲悪、悪いことをする人間は懲らしめられなくてはならない。NHKをはじめマスコミも問題あり。★3
Posted by ブクログ
内容は表題の通り。佐村河内について、どういう学生時代だったかなど、これまでの報道ではわからなかったこともかなり詳しく書いていて、興味深く読めた。ただ表題の「天才」は、ゴーストライティングをしていた新垣のことなのだが、これは少々言いすぎかな?と思う。
Posted by ブクログ
佐村河内守の偽作事件の経緯をまとめたノンフィクション。佐村河内守の生い立ちから、ゴーストライター新垣隆との出会い、偽作や経歴詐称の実相、発覚に至る経緯まで、時に目を背けたくなるような生々しい事実が、関係者間のメール記録や広範な取材で得た証言から明らかにされている。元が週刊誌の記事であるため、佐村河内の特異なパーソナリティーの「暴露」に力点を置く一方、佐村河内の「物語」を受容した大衆社会の構造的問題への追究は薄い。現在の新垣隆の「天才」に対するマスメディアの扱いや、あっという間に何事もなかったかのように事件を葬ったクラシック音楽界の状況を考えると、人びとはこの事件から何も学んでいないとしか思えず、社会現象としての「佐村河内ブーム」への分析と検討が必要だろう。