あらすじ
代表作『東京物語』が、英国映画協会発行の映画雑誌「Sight&Sound」による2013年アンケートで世界の映画監督が選出したナンバー1映画になるなど、小津安二郎は今なお注目を集めている映画監督である。その小津作品の中でも頂点と評されるのが紀子三部作、『晩春』『麦秋』『東京物語』だ。各作品のフィナーレに近い場面で、ヒロインを演じた女優原節子は全身を震わせて泣き崩れる。小津が、不滅の名を残し得たのは、この三本の映画のフィナーレで原に号泣させたからだといっても過言ではない。「泣く」という行為を切り口に、幸福の限界、幸福の共同体の喪失、という小津の映画の主題と思想的本質に迫る画期的評論。【目次】はじめに/第一章 ほとんどの小津映画で女優たちは泣いた/第二章 小津映画固有の構造と主題/第三章 思想としての小津映画/第四章 原節子は映画のなかでいかに泣いたか/第五章 原節子をめぐる小津と黒澤明の壮絶な闘い/第六章 『晩春』[ I ]――原節子、初めての号泣/第七章 『晩春』[ II ]――娘は父親との性的結合を望んでいたか/第八章 『麦秋』――失われた幸福なる家族共同体/第九章 『東京物語』――失われた自然的時間共同体/第十章 喪服を着て涙も見せずスクリーンから消えていった原節子/おわりに/関連年表
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Posted by ブクログ
作者は音楽や芸術を経て文芸を評論する人で、映画評論専門ではない。
映画評論家の本流に横槍を入れる類いの本、っぽい。
だって、「娘は父親との性的結合を望んでいたか」という明け透けな章を立てるくらいだし。
が、シロートの横槍とは全然感じず、確かになーと首肯した。
あの壺と、あの顔を見せられたら(「晩春」)、考え込みたくなるのは仕方ないわけだが、作者の主張をざっくりいうと、小津はむしろ深読みにストップをかけるために、壺を映した。
というのも、もともと脚本に号泣とか書かなかったのに、原節子が号泣したから、演出プランを変えざるを得なかった、非ナマモノの壺を映して、老いた笠智衆と重ねたのだ、という読み解き。
確かに確かに。
ちょうど本書を読む少し前に「父ありき」を見て、笠智衆の顔は時間そのものだとユリイカしたところだったので、頷いた。
とはいえ本書に先行する佐藤忠男、高橋治、蓮實重彦、吉田喜重らの読みが誤っているかといえばそんなことなく、本流評論に棹差す傍流があって然るべきと思ったくらい。
本流未読だし。
本書、前半で溜めて、後半で分析して、という構成や、矢鱈と「ワイルド」と言いたがる作者の癖や、「●●的」を多様する癖もまた、面白い。
蓮實とは逆ベクトルで理屈っぽい文体だな、と。
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涙が表す「幸福の限界」とは!?
小津映画、世界的普遍性の謎を読み解く。
代表作『東京物語』が、英国映画協会発行の映画雑誌「Sight & Sound」による二〇一三年アンケートで世界の映画監督が選出したナンバー1映画になるなど、小津安二郎は今なお注目を集めている映画監督である。その小津作品の中でも頂点と評されるのが紀子三部作、『晩春』『麦秋』『東京物語』だ。各作品のフィナーレに近い場面で、ヒロインを演じた女優原節子は全身を震わせて泣き崩れる。
小津が、不滅の名を残し得たのは、この三本の映画のフィナーレで原に号泣させたからだといっても過言ではない。「泣く」という行為を切り口に、幸福の限界、幸福の共同体の喪失、という小津映画の主題と思想的本質に迫る画期的評論。
目次
はじめに
第一章 ほとんどの小津映画で女優たちは泣いた
第二章 小津映画固有の構造と主題
第三章 思想としての小津映画
第四章 原節子は映画のなかでいかに泣いたか
第五章 原節子をめぐる小津と黒澤明の壮絶な闘い
第六章 『晩春』[ I ]――原節子、初めての号泣
第七章 『晩春』[ II ]――娘は父親との性的結合を望んでいたか
第八章 『麦秋』――失われた幸福なる家族共同体
第九章 『東京物語』――失われた自然的時間共同体
第十章 喪服を着て涙も見せずスクリーンから消えていった原節子
おわりに
関連年表
[著者情報]
末延芳晴(すえのぶ よしはる)
一九四二年東京都生まれ。文芸評論家。東京大学文学部中国文学科卒業。同大学院修士課程中退。一九七三年欧州を経て渡米。九八年まで米国で現代音楽、美術等の批評活動を行い、帰国後文芸評論に領域を広げる。『正岡子規、従軍す』(平凡社)で第二四回和辻哲郎文化賞受賞。『永井荷風の見たあめりか』(中央公論社)、『寺田寅彦 バイオリンを弾く物理学者』(平凡社)他著作多数。