【感想・ネタバレ】弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂のレビュー

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Posted by ブクログ

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チェック項目17箇所。「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」とは、従来の貧困の考え方をより革新した「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」に相対する概念で、平たくいえば「社会につつみこむこと」である。この震災を機に常日頃の生活において、すべての人が包摂される社会を構築しなければならないからである。本書は、どのようなショックにあっても、人々の暮らしを守るセーフティネットを構築していかなければならないという願いを込めて執筆された、本書で論じる「社会的包摂」とは、災害時だけでなく、平時においても社会政策の基本的な理念となる考え方である。
2007年の貧困率は15.3%、18歳未満の子どもに限ると14.7%であった、約7人に1人の国民が貧困状態にあるというこの数値は、日本には貧困が存在しないと考えてきた多くの人々に大きな衝撃を与えた。「貧困」という言葉は、社会として「許されない」生活水準のことである、すなわち、「貧困」を定義することは、逆に考えれば、現代の日本社会において、どこまでが「許容範囲」の生活なのかを定義することである。実際には、最低生活基準は、一般的な世帯の消費水準の約60%に設定されている敢行が1984年から続いているが、この慣行とて、国民の理解と合意のうえで設定されているとは言い難い。日本の多くの人が持っている「貧困」のイメージは、食べ物にも事欠いており、衣服もボロボロである、といった、発展途上国の難民や、終戦直後の日本の状況であるという、このような、生きることさえ危うい状況のことを「絶対的貧困」と呼ぶ。一方で、2011年の現在、たとえば、クラスで一人だけ給食費が払えない子どもがいる状況は、どうであろう、みんなが同じ給食を食べているとき、その子は一人、家から持ってきた塩おにぎりを食べているとしたら、これが相対的貧困である。【何が絶対必要か?】……「医者にかかれること」(89%)、「歯科医にかかれること」(87%)、「電話」(88%)については支持率が高く、80%以上の人々が「絶対に必要である」としている。働くことというのは、ただ単に賃金をもらうための手段というだけでない、働くことによって、人は社会から存在意義を認められ、「役割」が与えられる、働くことは、社会から「承認」されることなのである。職場で「アルバイトさん」などと名前でさえも呼ばれず、人間関係も育まれず、不景気になればモノのように切り捨てられる、次の職に就いたときに評価されるような経験を得られることはない、このような職では、社会から「承認」を得たと感じることは、極めて難しいのではないだろうか。私は独身時代、よく週末に、たいした仕事もないのに職場に行った、同じような経験がある読者の方も多いのではないだろうか、そこに自分の名前がついた机があり、自分の持ち物が置いてあり、そこに何時間座っていても誰も文句を言わない。驚くべきことは、明らかに格差の大きい州ほど、人を信頼する人の割合が少ないことである、この傾向は、設問に異なる文言を使った調査でも、国ごとのデータでも、同じ国の時系列のデータでも確認できる。人が人を信頼しない社会では、暴力が蔓延する、殺人率と所得格差は驚くほど正の相関がある、アメリカは、突出して殺人率が高いが、それ以外の国々ではほぼ直線状にデータが並んでいる、やはり、格差が大きい国であるほど、殺人率も高いのである。格差の大きい社会ほど、女性の地位が低く、社会進出が遅い、不平等な社会においては、男性間の競争が激しく、より攻撃的で「男らしい」ことが評価されるようになるからである、この傾向は、男女格差だけに留まらない、格差の大きい社会ほど、人種や宗教などといったグループ間の対立が激しく、人種間の偏見の指数が高いのである、格差は社会の中で亀裂を作り、上下関係を強いるのである。人間は自分と似た社会的地位にある人と交流し、仲間意識を持ち、自分から離れた社会的地位にある人とは関係を持つことが少ないということである、格差が大きい社会においては、自分と離れた地位にある人々が増えるため、すべての人にとって信頼できる人が少なくなるわけである。格差が大きい地域や国においては、社会的地位が低い者は自尊心を保つことが難しい、自尊心を傷つけられたことに対する反応として、暴力に走ってしまうこともある。格差が大きい地域の人々は平均余命が短いのであろうか? その最大の理由は、おそらく、心理的なストレスであろう、現代社会におけるもっとも大きなストレス要因は、①社会的地位が低いこと、②人間関係が希薄なこと、③子ども期の(貧困)経験、であると言う、格差は、この三つのどれをも悪化させるのである。

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2013年06月29日

Posted by ブクログ

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噂に違わぬ「良書」。
さまざまな領域をクロスオーバーする「社会的排除」の問題および「社会的包摂」の意味を、余すところなく突っ込んでいらっしゃると断言していいと思う。
特に、社会的包摂を「所得」や「就労」といった(社会的)次元から、「その人の承認」という(存在論的)次元までひっくるめてきちんと語ろうと切り込む著者の姿は勇ましいと思う。勇気づけられる。

誰よりも著者自身がまだ言葉にならない歯がゆさを感じていると思われる点が二点ある(と思う)。ひとつは、社会的包摂による「承認」が「あなたと私のあいだの承認」であること、もうひとつは社会的排除や格差を生み出す「社会のありよう」、「社会のしくみ」は「包摂と排除」が社会のイニシャルロジックになっている機能分化社会だという点である。
(2点目は自分もはっきり言えてないですけど……)

あとがき214頁の「振り返り」と216頁の「危惧」は、「共感」と「不吉」という二つの意味で震えながら読みました。

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2012年05月20日

Posted by ブクログ

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* 社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)
* 従来の貧困の考え方を革新した「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」に相対する概念
* 社会につつみこむこと
* 貧困が生活水準を保つための資源の欠如を表すのに対し、社会的排除とは、社会における人に位置や、人と人との関係、人と社会との関係に関するもの(=社会から追い出されること)

* マタイ効果(アメリカの社会学者:ロバート・マートン)
* 格差は自ら増長する傾向があり、最初の小さい格差は、次の格差を生み出し、次第に大きな格差に変容する性質

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2012年11月06日

Posted by ブクログ

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子どもの貧困についての記事等を漁っているときに目にした「社会的包摂」という言葉が気になり手にした一冊です。
教科書的なオーソドックスな流れで(悪い意味ではないです)「社会的包摂」について解説されています。
読んでいて中だるみしてしまうところもあるけれど全体的にわかりやすかったです。

「社会的包摂の観点のない貧困政策は愚策」という一節がすべてを要約していると感じたけれど、あわせてあとがきの最後、アメリカの慈善団体のエピソードにハッとしました。
ボランティアとホームレスの間に上下関係はあっても信頼関係はない。
「格差は貧困を拡大させて権威主義を蔓延させ、ひいては人々の信頼性を欠如させる」というウィルキンソンの警告どおりのことが実際に起きている描写はおもいのほか切なかったです。
そして最終段落を読むまでそのエピソードに違和感を覚えなかった 自分の鈍感さにも凹みました…。

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2013年10月11日

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