【感想・ネタバレ】弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂のレビュー

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Posted by ブクログ 2014年07月06日

貧困という概念を、物質的・金銭的側面だけでなく、社会的排除の視点から捉えている。
人が尊厳を持って生きていくには、「つながり」「居場所」「役割」等の社会的包摂(社会に包み込むこと)が欠かせないが、経済的貧困が、社会の一員であることからの排除を誘発する。

単に施し的な救済でなく、一人一人が社会の中で...続きを読む自分の居場所や役割を見出していく過程への援助、またすべての人が暮らしやすい社会(ユニバーサル・デザインの社会)づくりなどの政策等が紹介されている。

格差が大きい社会ほど富裕層も含め住みにくい病的な社会であるとのこと。貧困・格差は「対象者」だけの問題でなく、社会全体のあり方が問われる問題なんだ。

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Posted by ブクログ 2014年03月23日

社会的包摂という概念の導入本。
何が衝撃かと言えば、社会的弱者は災害時にも弱者になること。
そのままスライドしてしまうのだ。
生活保護だって現代の生活に当てはめれば、携帯電話やエアコンは必要だ。

日本にある貧困は、絶対的貧困ではなくて相対的貧困。
50年以上も前に作られた制度は時代に合わなくなって...続きを読むいるのではないか。
私たちは現実をこの問題にもっと気がつくべきなのではないかと思う。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年06月29日

チェック項目17箇所。「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」とは、従来の貧困の考え方をより革新した「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」に相対する概念で、平たくいえば「社会につつみこむこと」である。この震災を機に常日頃の生活において、すべての人が包摂される社会を構築しなければならな...続きを読むいからである。本書は、どのようなショックにあっても、人々の暮らしを守るセーフティネットを構築していかなければならないという願いを込めて執筆された、本書で論じる「社会的包摂」とは、災害時だけでなく、平時においても社会政策の基本的な理念となる考え方である。
2007年の貧困率は15.3%、18歳未満の子どもに限ると14.7%であった、約7人に1人の国民が貧困状態にあるというこの数値は、日本には貧困が存在しないと考えてきた多くの人々に大きな衝撃を与えた。「貧困」という言葉は、社会として「許されない」生活水準のことである、すなわち、「貧困」を定義することは、逆に考えれば、現代の日本社会において、どこまでが「許容範囲」の生活なのかを定義することである。実際には、最低生活基準は、一般的な世帯の消費水準の約60%に設定されている敢行が1984年から続いているが、この慣行とて、国民の理解と合意のうえで設定されているとは言い難い。日本の多くの人が持っている「貧困」のイメージは、食べ物にも事欠いており、衣服もボロボロである、といった、発展途上国の難民や、終戦直後の日本の状況であるという、このような、生きることさえ危うい状況のことを「絶対的貧困」と呼ぶ。一方で、2011年の現在、たとえば、クラスで一人だけ給食費が払えない子どもがいる状況は、どうであろう、みんなが同じ給食を食べているとき、その子は一人、家から持ってきた塩おにぎりを食べているとしたら、これが相対的貧困である。【何が絶対必要か?】……「医者にかかれること」(89%)、「歯科医にかかれること」(87%)、「電話」(88%)については支持率が高く、80%以上の人々が「絶対に必要である」としている。働くことというのは、ただ単に賃金をもらうための手段というだけでない、働くことによって、人は社会から存在意義を認められ、「役割」が与えられる、働くことは、社会から「承認」されることなのである。職場で「アルバイトさん」などと名前でさえも呼ばれず、人間関係も育まれず、不景気になればモノのように切り捨てられる、次の職に就いたときに評価されるような経験を得られることはない、このような職では、社会から「承認」を得たと感じることは、極めて難しいのではないだろうか。私は独身時代、よく週末に、たいした仕事もないのに職場に行った、同じような経験がある読者の方も多いのではないだろうか、そこに自分の名前がついた机があり、自分の持ち物が置いてあり、そこに何時間座っていても誰も文句を言わない。驚くべきことは、明らかに格差の大きい州ほど、人を信頼する人の割合が少ないことである、この傾向は、設問に異なる文言を使った調査でも、国ごとのデータでも、同じ国の時系列のデータでも確認できる。人が人を信頼しない社会では、暴力が蔓延する、殺人率と所得格差は驚くほど正の相関がある、アメリカは、突出して殺人率が高いが、それ以外の国々ではほぼ直線状にデータが並んでいる、やはり、格差が大きい国であるほど、殺人率も高いのである。格差の大きい社会ほど、女性の地位が低く、社会進出が遅い、不平等な社会においては、男性間の競争が激しく、より攻撃的で「男らしい」ことが評価されるようになるからである、この傾向は、男女格差だけに留まらない、格差の大きい社会ほど、人種や宗教などといったグループ間の対立が激しく、人種間の偏見の指数が高いのである、格差は社会の中で亀裂を作り、上下関係を強いるのである。人間は自分と似た社会的地位にある人と交流し、仲間意識を持ち、自分から離れた社会的地位にある人とは関係を持つことが少ないということである、格差が大きい社会においては、自分と離れた地位にある人々が増えるため、すべての人にとって信頼できる人が少なくなるわけである。格差が大きい地域や国においては、社会的地位が低い者は自尊心を保つことが難しい、自尊心を傷つけられたことに対する反応として、暴力に走ってしまうこともある。格差が大きい地域の人々は平均余命が短いのであろうか? その最大の理由は、おそらく、心理的なストレスであろう、現代社会におけるもっとも大きなストレス要因は、①社会的地位が低いこと、②人間関係が希薄なこと、③子ども期の(貧困)経験、であると言う、格差は、この三つのどれをも悪化させるのである。

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Posted by ブクログ 2013年03月29日

著者が研究者であるため、「貧困って何?」や「最低限の生活の水準ってどう決まるの?」という基本的で古い問いから、これまでの社会保障モデルを反省する新しい議論まで含まれていて、とても良い。しかもわかりやすい。思いがけず勉強になった。

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Posted by ブクログ 2012年09月03日

「社会的包摂」という切り口から、従来の金銭的支援を中心とした貧困問題の取り組みに対して一石を投じている。

豊富なデータと著者自身の経験から並々ならぬ説得力のある論理が組み立てられている。
特に、格差の拡大が富裕層自身にも影響を及ぼすことについては多くの事例を積み重ねて強調しており、こうした知見が広...続きを読むく共有されることが望まれる。

貧困問題等の社会問題を扱うにあたっては必須の一冊である。

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Posted by ブクログ 2012年07月10日

「西洋資本主義経済の限界」というテーマが、著者の専門分野や観点から論じられているのだと感じた。読みながら鳥内浩一の提唱する「日本発 新資本主義経営」が常に想起された。貧困・格差を「個人の責任・問題」と考えがちな日本人の、ある意味で良くない面と、震災当時世界を驚かせた素晴らしい面、そのバランスを取って...続きを読むいく、そのための一助に本書がなるのではないかと思う。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2012年05月20日

噂に違わぬ「良書」。
さまざまな領域をクロスオーバーする「社会的排除」の問題および「社会的包摂」の意味を、余すところなく突っ込んでいらっしゃると断言していいと思う。
特に、社会的包摂を「所得」や「就労」といった(社会的)次元から、「その人の承認」という(存在論的)次元までひっくるめてきちんと語ろうと...続きを読む切り込む著者の姿は勇ましいと思う。勇気づけられる。

誰よりも著者自身がまだ言葉にならない歯がゆさを感じていると思われる点が二点ある(と思う)。ひとつは、社会的包摂による「承認」が「あなたと私のあいだの承認」であること、もうひとつは社会的排除や格差を生み出す「社会のありよう」、「社会のしくみ」は「包摂と排除」が社会のイニシャルロジックになっている機能分化社会だという点である。
(2点目は自分もはっきり言えてないですけど……)

あとがき214頁の「振り返り」と216頁の「危惧」は、「共感」と「不吉」という二つの意味で震えながら読みました。

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Posted by ブクログ 2012年02月05日

「障害の社会モデル」と「貧困の社会的排除」は似ているという。問題は当事者ではなく社会が内蔵している障壁にあるということ。すべての人は程度の違いがあれハンディや生きにくさを抱えている。いちばんしんどい人に焦点を合わせた社会が、結局はすべての人にとって暮らしやすい社会になるということ。(ユニバーサル・デ...続きを読むザインの社会)
社会的包摂の一方法としてベーシックインカム(BI)なる言葉も想起している。この社会に生まれた運命を支えてくれる人権・生活保障になりうるのか。おカネへの執着や将来に対する不安は減るだろう。障害、難病、介護、育児などに対する生活不安も減るだろう。生活不安に縛られた意に沿わない労働から本来の仕事を含め思いっきり得意分野で自己創造希求の営みができるのではないか。社会的包摂としての「BI」、批判も含め改めて勉強する価値はありそうだ。

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Posted by ブクログ 2023年06月21日

社会から排除されないように努力をすべき、と考えられがちだけど、だれもが排除されないような社会を本来はつくるべきだというのが納得した。

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Posted by ブクログ 2020年09月18日

貧困問題に対し、自己責任論という個人の問題ではなく、社会包摂という社会の責任を問うアプローチをしている。
また、格差は社会の中での人と人の信頼関係の低下と相関がある等、インクルーシブかつ格差のない社会の重要性がわかりやすく提示されている。

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Posted by ブクログ 2020年05月22日

統計を使った分析もさることながら、ホームレスのエピソードが印象に残った!統計的には格差と社会への信頼が相関していることが、エピソードからは、頼られることの重要性が理解できた。

ロビンフッド指数、マタイ効果について、さらに勉強。

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Posted by ブクログ 2020年02月24日

社会的排除という言葉を初めて聞いた。
格差は確実に存在している。けれど、弱者をないものとして社会の隅に追いやる状況は、この本が発行されて9年経った今でも変わらないんじゃないかと思う。
いくら暮らしが発展して便利になったからとはいえ、やっぱり人とのつながりは大切。誰かに認められること、自分の居場所があ...続きを読むることが何より生きがいになるし生きる活力になる。でも貧困と格差がその人間らしさを奪ってしまう。私の周りに貧困者がいたらどうするだろう。もし自分がその立場になったらどうするだろう。考えるきっかけになった。

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Posted by ブクログ 2017年06月05日

昔は地縁、血縁が基盤であったが、いまは職縁の時代である。ゆえに失業はその縁を失うことであり、失業が長引けば友人付き合いも希薄になり、だんだん社会の周辺に追いやられてしまう。これを社会的排除と言い、対の概念を社会的包摂という。
日本の相対的貧困率は16%である。つまり6人に1人が相対的貧困である。
...続きを読むは残りの84%はどうか。この84%の層には貧乏が蔓延している。
貧困は経済用語であり、貧乏は心の問題である。他者との比較から欠乏を感じるのが貧乏である。しかし、この84%の経済格差は小さい。この層は希望格差であろう。

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Posted by ブクログ 2016年10月02日

貧困を学問的に追及すると、こうなるのね。貧困学入門。
貧困の定義、その測定の方法論、社会との関係、政策への反映のさせ方、等々単に貧困といっても色々な切り口があることを知った。
特に社会的排除と格差の理論はなるほど腹に落ちた。最も援助を必要とする人に基準を合わせれば皆が幸せな社会になる。情けは人の為な...続きを読むらず、と言うことか。
ただ格差是正の恩恵は目に見えにくいから負担とのバランスに社会の納得感が得られるだろうか?被生活保護者をナマポと呼んで差別する風潮が益々強くなっている現状を見ると、絶望的にならざるを得ない。日本人の民度はそこまで高くない。

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Posted by ブクログ 2014年12月20日

社会的包摂という新たな定義の紹介と日本や世界にその定義を適合させるという内容。
筆者とホームレスとのエピソードであったり、統計資料の説明だったりと読んでいて意外なことや新しい事実にショックを受ける。
どうなるんだろね。選挙過ぎたけど。

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Posted by ブクログ 2014年07月27日

社会的包摂はほんとうに大事だと思うんですよ。格差と生きにくさを見直してよりよくしていくにはこれだと思えますもの。

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Posted by ブクログ 2013年08月23日

貧困を社会のあり方に問題があるとする社会的排除として捉えなおし、これを解決するために包摂していく、新しい視点の社会保障をまとめた本。
これを具現化していくのが、これからの政治に必要です。

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Posted by ブクログ 2013年06月20日

社会的包摂についての導入本

社会的包摂とは、簡単にいえば「人を社会から追い出さず、包み込むこと」です。生活水準を保つための資源の欠如に着目していた従来の貧困概念に対し、人の社会的位置や人間関係に着目した概念です。

本書では日本の貧困・格差について論じながら、この社会的包摂を紹介しています。データ...続きを読むなどにつっこみどころはありますが、わかりやすくていい本だと思います。すぐに読み終えることが出来ました。

個人的に、物質的欠如に着目した貧困論だとそのような状況に陥ることを自己責任とした上で「可哀想だから救済する」という色彩が強いと感じるのですが、社会的包摂概念は貧困をより社会構造と結びつけて捉え、階層に関わらず社会に生きる人間一般に関わってくる問題として貧困を捉えています。

貧困に全く自己責任の要素がないわけではないですが、生活保護バッシングをみるに自己責任の追求が行き過ぎているのではないかと感じる点もあるので、社会的包摂概念がもっと広まってそのような日本の貧困に対する見方に風穴を空けていってくれたらいいなと思います。

格差極悪論やマタイ効果、障害の社会モデルなどを引いて社会として貧困対策に取り組む必要性の根拠について触れている部分もあり面白かったです。

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Posted by ブクログ 2013年02月23日

大衆向けに書かれた格差貧困の本。めっちゃ読みやすい。が、この類の本を読んだことのある読者にとっては、割と知っていることばかり書かれていて面白みに欠けると感じるのではないかと思う。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2012年11月06日

* 社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)
* 従来の貧困の考え方を革新した「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」に相対する概念
* 社会につつみこむこと
* 貧困が生活水準を保つための資源の欠如を表すのに対し、社会的排除とは、社会における人に位置や、人と人との関係、人と社会との関係に...続きを読む関するもの(=社会から追い出されること)

* マタイ効果(アメリカの社会学者:ロバート・マートン)
* 格差は自ら増長する傾向があり、最初の小さい格差は、次の格差を生み出し、次第に大きな格差に変容する性質

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Posted by ブクログ 2012年07月16日

今までの貧困対策では適応されなかった社会的弱者の包括的支援政策がメインの一冊です。
災害の一番の被害者は貧困層であるという指摘にはっとさせられました。
他者とのつながりや役割が、貧困対策の鍵であると著者は述べます。確かにそれらは必要だと思いますが、1970年代以降一貫して、人間関係の束縛を解放する方...続きを読む向に進んできたように思えます。近所付き合いやお中元・お歳暮、自治会、それらの煩わし人間関係を否定してきた時代だと言えます。そのような時代背景のなかで、今度は『絆が大事だ!』と叫ばれても、今一つピンときません。絆それ自体の重要性は理解しますが、果たして前時代のような人間関係に戻った方が良いのか、疑問が残ります。
強制的費用は、江戸時代の身分費用(『武士の家計簿』参照)という概念と同じで、特に通信機器の発達によって費用が嵩んでいる現実は看過できません。ところで、江戸時代の武士の借金は収入の2倍であったらしく、しかも金利が高いため、自転車操業に陥り、おトクな身分ではなかったようです。僕が着目するのは、『収入の2倍の借金』で、これは現代日本社会でも応用できないかと考えます。まぁ、借金に対するステレオタイプ(ネガティブイメージ)が強いので、すぐに却下されそうです……。
マタイ効果は興味深いです。マタイ効果とは別ですが、僕の体験談を書きます。僕は中学生の部活に携わっているのですが、所謂問題児に手がかかりすぎてしまい、真面目に練習に励む生徒に構ってあげる時間が取れないというジレンマがありました。真面目に練習する子にはそれに相応しいステージ、応用練習や練習試合、公式試合への参加等を用意してあげたいのですが、少数の問題児の影響で、素質ある子の芽を伸ばす機会を逸してしまい、また、真面目にやっても構ってもらえないという無気力にも注意しなければならない。かといって、問題児を放っておくのはできない。真面目な子はそれでも真面目に取り組むのですが、『ひょっとすると、真面目に練習しても損するばかりじゃないか?』と疑心暗鬼に陥ると、最早お手上げ状態になる……。実際はそこまできていませんが、そんな想像が現実になるのではないかという危惧はありました。
ウィルキンソンの主張は尤もで、格差が拡大してしまえば、富裕者も貧困者も住みづらい社会になることは容易に想像できますし、これは都市計画論でも論じられているものです(バージェスの同心円理論とか?)。
ただ、ホリエモンこと堀江貴史の名言『格差なんてあって当然。みんな同じだったらつまらないでしょ。』にあるように、格差がどの程度が許容されるかが問題です。
誰もが生きやすい環境を、ということでユニバーサル・デザインの社会を構築するのは賛成ですが、果たしてできるのかが、これは難しいように思います。
その地方に住む人のニーズの割合が問題となってくる上、自分の能力が発揮できる環境が身近にあるかという地理的な問題もあります。ただ、労働市場をもっと弾力的にし、すべての人が働きやすい環境を整えようとする改革の姿勢は大切です。こういった人達が政治を動かしてくれるのを願います。
僕の評価はA+にします。

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Posted by ブクログ 2012年07月16日

『子どもの貧困』(岩波新書、2008年)のあと、子ども以外の貧困に関する内容で予定されていたものを、東日本大震災後、「社会的包摂」を中心として書き直され上梓された本。
 震災の被害を受けた人々のなかでは、生活再建に大きな差が出てきている。自然災害の被害者のうちでも、もともと生活基盤の弱かった、社会的...続きを読む弱者が災害弱者となっている。このことから自然災害の多い日本では、社会的弱者を減らすことを目指していかないと、自然災害のたびに、孤立死や自殺者が現れるのではないか。
 会社の経営者が一転してホームレスとなる場合があるかと思えば、他方、失業してもサポートを受け、生活再建へ歩むことができる人もいる。自然災害等で困難な状況に陥っても、おカネや人脈に恵まれている人々は、社会資源を活用し、復旧への滑り出しも早い。一方、それらに恵まれない人々は、社会資源へアクセスすることすら難しく、支援の手が回らず、孤立を深めてしまう。このようにして、被災する以前からあった格差は更に拡大してしまう。
 おカネがすべてではないが、今の日本では、おカネがないことはあらゆる生活場面で、生きづらさをもたらすことになる。おカネがないと、衣食住に困り、十分な医療や教育も受けられず、結婚もできない。病院や診療所が医療費負担を理由に、患者から治療や投薬を断られたりする、健康でないのに経済的理由から受診抑制が増えているといった現実がある。日本は50年前に、「国民皆保険・皆年金」を達成したが、現在、その意義や重要性が再認識されるべきである。
 自然災害によるものであれ、経済情勢によるものであれ、社会の構成員が生活困難を抱えたときに、生活再建を支援する制度が整備されている国こそ、先進国と言われるべきだろう。阿部氏は、「社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)」という概念を用い、経済的な「貧困問題」だけでなく、個人と社会との関係や社会的な仕組みに着目して、展開している。
 「社会的包摂」と「社会的排除」とは、対立する概念である。「社会的排除」に近い概念として「貧困」「孤立」などがあげられるが、それは、「社会的排除」の一側面に過ぎない。「社会的排除」は、より人間関係に依拠した考え方で、「つながり」「役割」「居場所」「人間の尊厳」といったキーワードが使われる。
 社会保険、公的扶助、就労支援の3つの柱からなる、現行の社会保障制度では、現代の貧困や社会的排除に対応しきれない。そこで阿部氏は、ベーシック・インカムやユニバーサルな視点を持った公的制度を強調している。

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Posted by ブクログ 2012年06月18日

「貧困」というと、遠い世界で起きている問題というイメージを抱かれやすい。しかし、今の日本で確実に広がる貧困と、心の問題、社会的排除の問題はつながっている。貧困は個人の自己責任ではなく、社会構造システムにあるのだと、認識を深めることができる書。わかりやすくまとめられ、最後に提言もあるので、初心者にもわ...続きを読むかりやすかったです。

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Posted by ブクログ 2012年05月21日

やっと、社会的包摂の本が日本人によって書かれるようになったのか~と思って、手にとった。

善人ぶる訳じゃないけど、
社会の問題から個々人に生じてる問題を、個々人の性格や気持ちの持ちようといった自己責任で片づけるのでなく、社会に目をむけて、解決していくような
一人一人の生きにくさが少しでも緩和されるよ...続きを読むうなユニーバーサルデザインな社会を目指していきたい

と、思った。

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Posted by ブクログ 2012年03月05日

 ルックスと経歴からもっと冷たい人かと勝手に思ってました。研究者として本意ではないかもしれないけれども,こういう形でバックグラウンドを晒すのは悪くないと思います。これもまた,筆者の属人的説得力とう話かw 内在的動機に裏打ちされた研究は好きです。本人はしんどい面もあるだろうけど。
 言葉としては普通に...続きを読む知ってましたが,社会的排除という概念の意義を深く考えたことがなかったので改めて勉強になりました。社会的包摂って刑事の分野でしかとらえてなかったしね。むしろ貧困分野の方が先なのかも。「貧困問題の新しい入門書」いう帯に負けない中身だったと思います。
 

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Posted by ブクログ 2014年05月20日

・結構な割合の人が相対的貧困の状態にある。
・格差が大きい社会ほど人間関係が劣化してイジメや殺人が多くなる(ことが統計的に示唆される)。
・人は経済だけではなく社会関係など多面的に包摂されている必要がある。
・マタイ効果、富む者は更に富み、貧しい者はさらに貧しくなる、社会的格差が自然災害において露見...続きを読むする。
・マイノリティも承認されるようなユニバーサルデザインな社会が社会構成員全員にとって生きやすい社会である。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年10月11日

子どもの貧困についての記事等を漁っているときに目にした「社会的包摂」という言葉が気になり手にした一冊です。
教科書的なオーソドックスな流れで(悪い意味ではないです)「社会的包摂」について解説されています。
読んでいて中だるみしてしまうところもあるけれど全体的にわかりやすかったです。

「社会的包摂の...続きを読む観点のない貧困政策は愚策」という一節がすべてを要約していると感じたけれど、あわせてあとがきの最後、アメリカの慈善団体のエピソードにハッとしました。
ボランティアとホームレスの間に上下関係はあっても信頼関係はない。
「格差は貧困を拡大させて権威主義を蔓延させ、ひいては人々の信頼性を欠如させる」というウィルキンソンの警告どおりのことが実際に起きている描写はおもいのほか切なかったです。
そして最終段落を読むまでそのエピソードに違和感を覚えなかった 自分の鈍感さにも凹みました…。

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Posted by ブクログ 2012年12月10日

貧困問題について考える時、今現在何が主題になっているかを知るにはいいと思われる。ただ、理念的・同情的であまり具体的な言葉はなく、理想的。

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Posted by ブクログ 2012年01月11日

「社会的排除」という概念は、資源の不足そのものだけを問題視するのではなく、その資源の不足をきっかけに、徐々に、社会における仕組みから脱落し、人間関係が希薄になり、社会の一員としての存在価値を奪われていくことを問題視する

社会に包摂されることは、衣食住やその他もろもろの生活水準の保障のためだけに大切...続きを読むなのではなく、包摂されること自体が人間にとって非常に重要

日本の社会的孤立の指標はOECD22ヶ国諸国の中でも群を抜いて高い

社会的包摂政策をいち早く打ち出したEU諸国において、社会的包摂を促す政策の最大の柱は雇用政策。なぜなら、EU諸国では、現代社会において、個人が他者とつながり、自分の価値を発揮する最たる手段が就労だと理解されているから

社会的排除は、問題が社会の側にあると理解する概念。社会のどのような仕組みが、孤立した人を生み出したのか、制度やコミュニティがどのようにして個人を排除しているのか

ウィキンソンの指標が衝撃的であるのは、各社が大きい社会に住むことは、誰にとっても悪影響を及ぼしていると論じている点である。格差が大きいということ、そのこと自体が、社会にとって望ましくないという指摘をしている

格差が社会における人間関係を劣化させているのではないかと示唆するデータは、山ほどある

人が人を信頼しない社会では、暴力が蔓延する。殺人率と所得格差は驚くほど正の相関がある

ある地域に、どれほど社会資本または地域力が存在するか、それを測る際に、もっともよく使われるのが、地域やコミュニティにおけるボランティア活動への参加率である

パットナムは、イタリアとアメリカの地域力と所得格差を測り、コミュニティ活動への参加の度合いが高い地域ほど、所得格差が小さいことを見出した。格差は人々の不信感を煽り、攻撃的にし、差別を助長し、人間関係を悪化させるだけでなく、コミュニティ自体の機能もマヒさせてしまう

従来の社会保険制度や公的扶助制度、就労支援が、人々の最低生活を保障することも、社会的包摂を約束することもできない

なぜなら、現在の社会保険制度は、すべての人がまっとうな職業に就いていたり、または、家族のセーフティネットにより守られていることを前提としており、公的扶助制度そして、就労支援は、人々を労働市場に戻すことだけを目的としており、戻された労働市場での社会的包摂は問題視していないから

仮設住宅における孤独死が、被災直後に起こったのではなく、震災から2年後移行に急増したことも、心の問題が時間差で起きてくることを示している

問題は、生活保護制度の出口として、現在の労働市場における就労しか選択肢がなく、その就労が必ずしも、その人の存在価値を発揮できるような、尊厳をもっていきいきと働くことができる仕事ではないことにある

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Posted by ブクログ 2018年11月30日

元旦一発目に買った本がこれになるとは…貧困問題は、新たな局面となり議論が活発化しているので、これを機に勉強しようかな。

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