あらすじ
「後期大江文学の臨界点」――いとうせいこう急進派による無差別テロ計画を知り、実行を阻止するためにテレビで「すべては冗談でした」と棄教を宣言した新興教団の指導者・師匠(パトロン)と案内人(ガイド)――10年後、ふたりは若い協力者とともに活動を再開する。だがその矢先、案内人が元急進派に殺され、事態は急変する。 希求する魂のドラマを描く、感動の長篇小説。
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Posted by ブクログ
"上下巻合わせての感想です。
ある少年(育男)と少女(踊り子(ダンサー))が、奇妙で劇的な出会いをする場面から始まる。その場に居合わせた国際的に活動する画家木津と、少年と少女の3人が15年後に再会し、踊り子(ダンサー)がある教団の指導者(師匠(パトロン)と案内人(ガイド))の住み込みの秘書をしていたことから、木津と育男はその教団に関わることになる。その教団は、十年前、急進派による無差別テロ計画の実行を阻止するために、師匠(パトロン)がテレビで「すべては冗談でした」と棄教を宣言し、活動を停止していた。案内人(ガイド)が元急進派に殺されたことから、物語は教団の活動再開へと急展開する。。。
旧約聖書のヨナ書が大きなモチーフとなっている。ヨナ書では、結局神は異教徒の都市ニネベを滅ぼさず、ヨナもそれに納得するように書かれているが、「宙返り」の育男はそれに疑問を感じている。ヨナ書には続きがあるのではないか?神に納得しなかったヨナの行動を考えたい。。。
主要な登場人物の木津が画家であり、ヨナの絵の描写など、芸術的、特に絵画的な感じがする。最初の出会い、ニューヨークの雪の場面、新幹線の車窓、最後の桜など、印象に残る絵画的、映像的なシーンは多い。
木津、師匠(パトロン)、案内人(ガイド)、踊り子(ダンサー)、育男、荻青年(普通の青年の役割?)を中心として、他にも、心に傷を負い、様々な個性を持った人物が登場し、主に信仰について語りあう。それぞれがとても饒舌。
師匠(パトロン)と案内人(ガイド)、木津と育男2組の相棒関係(この表現は妥当でないかもしれないが)もインパクトがある。
私はこの本を読んでいくうち、特に木津と師匠(パトロン)とたくさん話したような感覚で、結末がとても悲しかった。
この本は、1999年に刊行された。さすがは大江さん、「1Q84」よりも「教団X」よりも誰よりも早くあの教団をモチーフにした小説を書きあげたのです。