あらすじ
こんなにも禍々しく怖ろしい太古の闇に、この悪意に、邪悪さに、なぜ誰も気づかないのか。繁栄と平和を謳歌するコンスル帝国の皇帝のもとに献上された幸運のお守り〈暗樹〉。だが、それは次第に帝国の中枢を蝕みはじめる。魔道師でありながら自らのうちに闇をもたぬレイサンダー。心に癒しがたい傷をかかえた書物の魔道師キアルス。若き二人の魔道師の、そして四百年の昔、すべてを賭して闇と戦った一人の青年の運命が、時を超えて交錯する。人の心に潜み、破滅に導く闇を退けることはかなうのか。『夜の写本師』で読書界を瞠目させた著者の第2作。/解説=妹尾ゆふ子
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Posted by ブクログ
本棚を整理した際、未読本として出てきました。
タイトルと表紙に惹かれて(本との出会いは一期一会だったりしますので)購入したものでした。それからおよそ7年を経てようやく頁をひらくこととなりました。
まず、とても読みやすいことがあげられます。翻訳ものにありがちなどことなく存在する違和感がない。最初から日本語で書かれたからであろう、異国の名称もぎこちなさを感じない。しかし日本で書かれた洋風ファンタジーのような「なんちゃって」な空気もない。遠い国で編まれた物語が長い旅路を経て届けられた重厚感がそこにある。それは筆者の圧倒的な「魔力」というなの言語力に基づくものでしょう。
本編でわたしたちは幾人もの人生をなぞる。
「暗樹」との戦いの軌跡を、痛みを、苦しみを経験する。太古の昔から繰り返される「闇」の眠りと台頭に巻き込まれる。
人間に与えられた永遠の命題は、一筋の光とともに物語の環を閉じる。それはつかの間のことなのか、永久のものなのか、誰にもわかりはしない。
前作も続編もぜひ読んでみたくなる、大きな大きな物語でした。
Posted by ブクログ
前作の『夜の写本師』から続けて読みました。
前作にも登場したキアルスが主人公(レイサンダーも主人公かな)。
タペストリーの中のテイバドールの人生を経験することでキアルスが精神的に成長していく姿が良かった。
ファンタジーが好きな割には私の脳はファンタジーへの適応力が低いのか、レイサンダーが巻き込まれた不思議で大変な体験の情景がなかなか頭に浮かばなかったので(私の読み方がまだまだ浅いのかも)、星は4個にしました。
闇に喰われたガウザス皇帝を討ち取った近衛隊長のムラカン、とても信頼できる上司ですね。この人が新しい世を支えることが出来なくて残念です。
カーランはひょっとすると『夜の魔道師』に登場したエイリャの前世の姿かな?と思っています。
次の作品『太陽の石』も読んでみたいと思います。
Posted by ブクログ
前作「夜の写本師」を読んだ時も圧倒的な世界観に驚かされたけど、今作ではこの世界の『魔導師』の定義や、魔法のあり方自体に驚かされた。大抵のファンタジー作品の魔法は、才能と決められた儀式によって受け継がれてるものだと思うんだけど、この世界では魔法の種類によって、お互いの魔法がどのようなものなのかさえわからないってのが面白い。読み始めに、時系列がよくわからなくなってしまって戸惑ったが、そこが読み取れれば壮大な物語をあとは楽しむだけだ。私は楽しめた。
Posted by ブクログ
『夜の写本師』に続く2作目(しかしあくまで独立している話)ということで、さっそく読んでみた。
前作の世界観を引き継ぎ、登場人物の一人であったキアルスが主人公の一人となっている。
「暗樹」の不気味さが際立っていて、ホラーさながらのおそろしさ。
前作は相手が生身の人物であったために気にならなかったが、今回はもっと宇宙の根源的な存在。その壮大すぎる設定や、抽象的でややもすると難解な描写の連続に対して、決着のつけ方には少し拍子抜けするような感じを受けた。
またメインの二人が問題意識や目的を共有する、互いに信頼関係を築く、その過程になるようなエピソードや時間がほとんど存在せず、ただ「テイバドールの体験を通して」理解し合う、というのも若干腑に落ちない印象だった。
しかし古代ローマや周辺世界の諸民族を思わせる精緻な世界観や、きっちり設定された魔法体系の構築は相変わらず感嘆させられるし、筆致の濃密さは魅力的である。
Posted by ブクログ
シリーズ1作目の『夜の写本師』を読んでから随分経ってしまったので関連性があったとしても分かりませんが、十分世界観を堪能出来ましたし面白く読めました。
書物の魔道師キアルスと大地の魔道師レイサンダー。二人は闇を取り込み破滅をもたらす〈暗樹〉を退けるために知恵を絞ります。
闇を持たないレイサンダーと言葉の魔法で戦うキアルス。完璧で強い魔道師ではないけれど、だからこそ生き残れたのかなと思いました。
Posted by ブクログ
なかなか壮大な物語だった。キアルスがメインの物語ではあるけれど、テイバドールの枠が想像以上に多かった。レイサンダーはどう絡むのかと思ったら大変重要な役割を担っていて、視点がいろんなところに飛んで大変だった。世界観が壮大。作り込まれている。自分の理解がまだ足りてないなと思った。この世界の物語をさらに読んでみたい。
Posted by ブクログ
いやちょっとまって。これ女性が書いた話だったよね…?とショックを受けた。なぜなら強姦されてできた子供を愛せず苦しむ女性を、哀れで愚かな女のように弟が言及する箇所がある。子に罪はないからだそうだが。
姉の苦しみに向き合ってこなかった、その弟のような男たちこそ、彼女を追い込んだ一因ではないのか?
その弟が主人公の化身のような存在なので、一気に感情移入できなくなり。
この世界に生まれた闇は、この弟たちのような男性によって生まれたんではないのか。なんて勘ぐってしまい、男たちの奮闘によって闇が封印されても「ああやっと後始末をつけたのね。世界を救ったかのように威張ってるけど」などと冷ややかに見てしまう自分が…
しかもゲイの皇帝が悪者だし。
一巻で女性性を深く考察しているなんて解説されているけど、むしろ保守一色にしか読めない。
私の底意地が悪いのか…
また些細な女性蔑視描写でファンタジーの世界に入っていけない、悪い癖が出てしまった…悔しい。
描写は相変わらず見事だし、私の好みが偏りすぎているに違いないから、あんまりな低評価は避けたい。よって星三つ。