あらすじ
とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった……。彼を犯行へと駆り立てたものは何か? その理由を知る者たちは――。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。
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Posted by ブクログ
うつ病を治療中なので気になって読んでみた。
はじめの3人のそれぞれの物語が段々と繋がって、チュウさんを中心に病院での日常と共にそれぞれの葛藤が書かれていて、その度に胸が締め付けられ、時には涙した。
秀丸さんのためにチュウさんが法廷で話した事、最後に伝えた一言で号泣してしまった。
島崎さんのためにそれぞれが頑張って、そして今度は島崎さんが。
1996年の作品だけど今の私に身に沁みた。映画化もされてるらしいので観ようと思う。
Posted by ブクログ
カバー裏の内容紹介を読んで、ミステリ?と思ってしまったけれど、この本はミステリではありませんでした。
一体いつの時代の話なのだろうと思うくらい、テクノロジーとは無縁の人々。
「普通」ではないと言われ、「普通」の人たちから隔離され、それでも明るく温かく時に寂しく日々を送る。
ストーリーはもちろんあるのだけど、大事なのはそこではない。
彼ら患者が発病する前の生活、今の暮らし、そしてこれからのこと。
作中で主人公のチュウさんが貰う手紙にこう書いてある。
”病院はついの棲み家ではありません。渡りに疲れた鳥たちが羽を休める杜(もり)でしかないのです。病院で死に鳥になってはいけません。いずれ翔び発って自分の巣に帰って欲しいのです。”
多分二度とシャバに出ることはないであろう大切な友人からの手紙。
これが作者の言いたかったことなのではないだろうか。
「メンヘラ」という薄っぺらいレッテルを貼ってわかった気になってはいけない。
人の尊厳ということを互いに尊重し合える社会であればいいと思う。
心や体が疲れたり病んだりしている時も。
読み終わってしばらくは胸がいっぱいで、とても感動したのだけれど、一つだけよくわからない点が。
不登校の女子中学生の島崎さんが、どうしてこんなに精神病院の入院患者であるチュウさんや秀丸さんや昭八ちゃんという3人のおじいさんたちと深い交流を持つことになったのか。
病院で開かれている陶芸教室がきっかけだったとしても、他にも女性患者もいたと思うのだけど、なぜ彼らに特別深い絆が生まれたのか。
ちょっとわからなかった。
Posted by ブクログ
三人のショートストーリーから始まり、これ短編集?その割には尻切れみたいな終わり方だなぁと思っていたら、突然本章となり、一つの病棟の朝の描写から始まった。すでに異常な行動が書きだされ、ああ、閉鎖病棟=精神病院(旧)の話だと理解する。
それぞれに様々な症状の患者がおり、その中でも日常生活をまともに過ごす何人かが中心となり、しかしそのまともな人もまともじゃなかった過去がある。今ではだいぶんとケアの仕方も変わっているんだろうけど、当時はまさにこの小説の世界そのものだった。一人一人を丁寧に描かれており、読んでいくうちに誰もが愛おしく感じられるが、後半に入ると息も詰まるような事件が発生し、ああ、冒頭の話がここにつながるのかぁとやるせなくなる。生々しく描かれた病棟での生活風景がトラウマのように頭の中で反芻する。
あとで知ったんだけど、これ映画化されていたんだね。よく映画化できたなぁと感心するがそれくらい魅力ある作品だと思う。映画はもちろん見ない笑