あらすじ
17歳の障害騎手ベンが突然厩舎を解雇されたのは、父親ジョージの策略だった。ジョージは下院議員選に勝利するため、唯一の家族であるベンを必要としていたのだ。激しい反発を覚えながらも、やがて父親に説得されたベンは選挙活動への協力を誓う。しかし、選挙区では、ジョージに対するスキャンダル攻撃と暗殺工作が待ちかまえていた!十代の少年を主人公に据え、生きることの厳しさと真の男の勇気を描くシリーズ第36作。
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Posted by ブクログ
競馬シリーズ36作目。
こんな17才はいない、と思っていたら、
佐々木譲氏が解説で同じことを書いていた。
障害騎手を目指いしてた17才の少年ベンは、
父親に騎手生活から引きはがされ、下院議員の選挙活動を手伝うように言われる。
父親と言っても、若くして結婚し、ベンが産まれた際に母親が亡くなると、
母親の姉に養育を任せ、近くで見守ってはいなかった。
それでも、信頼されていることは知っており、
集票のため選挙活動に同道し、運転手役をつとめることにする。
父親は狙撃されかかったり、
車のブレーキオイルタンクに細工されたり、
選挙事務所兼宿泊場所が火事になったりと、
妨害工作に遭いながら、当選する…。
誠実でありながら、人を惹きつける魅力をもって選挙民の心をつかんでいく、
父親の選挙戦が面白かった。
下院議員に当選したところで話が終わるのかと思いきや、
その後、首相に選ばれるまでになるとは思っていなかった。
もちろん主人公のベンも、賢く、自分を律することができ、我慢強くもあり、
紳士でもある少年で、読んでいて楽しかった。
父親を襲った犯人は誰か、というミステリーの部分を忘れてしまうぐらい。
Posted by ブクログ
緑色の背表紙のハヤカワ文庫。これがうちにはとてもたくさんあります…
ディック・フランシスの36作目。文庫では2003年発行、原著は97年の作品です。
もう何度読んだのか、わかりません。
フランシスをまだ読んだことのない人はとても幸せだという言葉があります。まったく、その通り〜これから40冊も読める楽しみが残っているのですから!(^^)
フランシスの作品は一作ずつ独立していますが、主人公の男性の一人称で語られるのは共通しています。
職業年齢は様々ですが、意志が強く、思いやりがあり、何らかの専門知識がある所も共通点なのです。30歳前後が一番多いでしょうか。
さて、この作品は主人公のベンが17歳と若いのが異色。
環境の変化への戸惑いや端々にあらわれる素直さなど、特に最初の方に初々しさがあるのが新鮮ですね。
大学入学前の猶予期間にアマチュア騎手になっていたベンが、いきなり解雇されます。
理不尽な仕打ちが実は父の意向で、騎手を諦めさせるため。議員の補欠選挙に出るために家族の応援を必要としていたのでした。
早く母を亡くして伯母一家に育てられたベンと父の間には距離があったのです。
反発も感じつつ、カリスマ性のある父を誇りにも思うベン。あっと言う間に生臭い選挙戦に巻き込まれます。このあたり、政界の描写がリアル。
敵対していた前議員の妻オリンダの派手な押し出しも印象的。
素直で感じの良いベンは、次々に出会うおばさま方の信頼を得ていくのです。
さらに、父を失脚させるための陰謀で危険にさらされ、急速に成長していく…
一番の傑作とは言いませんが、フランシスには、はずれ無し!です。
Posted by ブクログ
17歳の障害騎手ベンが突然厩舎を解雇されたのは、父親ジョージの策略だった。ジョージは下院議員選に勝利するため、唯一の家族であるベンを必要としていたのだ。激しい反発を覚えながらも、やがて父親に説得されたベンは選挙活動への協力を誓う。しかし、選挙区では、ジョージに対するスキャンダル攻撃と暗殺工作が待ちかまえていた!十代の少年を主人公に据え、生きることの厳しさと真の男の勇気を描くシリーズ第36作。
22年ぶりに再読。こんな大人の17歳は、さすがにありえない。
Posted by ブクログ
例によって再読。
フランシスの小説としてきわめて異色なのは、主人公が17歳の少年であるということだけではない。政治を取り扱った作品も初めてだし、ある意味で主人公が二人いる物語も珍しい。
17歳の少年が主人公といっても、視点となるのは後の「私」なので、それほど主人公が子供っぽいわけではない。むしろ皮肉のひとつも言いたくなるほど、大人びている。
それでもなお、ある意味で真の主人公とでも言うべき父との関係は、例えば「骨折」などで描かれたものの単なる逆というのではない素直さを持っていると思う。成長物語としてもすてきだし、本当の主人公の姿を浮き彫りにする手段としてだけだってなかなか効果的だ。
政治を扱っているのは、常に新鮮な舞台を指向するフランシスらしいといえばそうなのだけど、どうやらそれだけではない。いわゆる推理小説の「殺人事件が起こりその犯人を捜す」という枠からは完全に外れた、ほとんど政争がメインになっているような雰囲気は、この物語の根本を支えている。むしろ、こういう構造を描き出すために、戦いのリングとして政治を選んだのではないかと思いたくなる。それほど、効果的だ。
実はたくさん出てくる女性も、そして敵役もそれぞれにインパクトがあり、とっても楽しく読めた本である。それでも、もう一つのめり込めないのは、たぶん「時間の流れ方」が僕の好みではないのだ。物語のテーマとして、こういう仕掛けを作っていくのはわかるのだけど、それでもちょっと冗長な感じがするし、仕掛けのねらいほど生きていないかなと思ってしまった。
すごくおもしろいんだけど、フランシスならばもっと書けたんじゃないかっていうのが正直なところ。あと、こればかりは菊池光訳ではない方がおもしろいかもしれない。村上春樹だったら、どんな風に成長を表現するかな、って考えてみたりもする。