あらすじ
仕事を失い、酒に酔った夜。20歳のリンコは河原で野宿する謎の美青年リュウセイに出会う。楽してお金が欲しいというリンコに、彼が紹介した奇妙な仕事、それはこれまでの労働の概念を変えるものだった。自称ヒキオタニートのリュウセイに振り回されっぱなしのリンコだったが、彼には驚くべき秘密が――。漫画喫茶、アパレルショップ、IT業界など、時給800円で頑張る人々を描く連作短編集。
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Posted by ブクログ
ニコニコ時給800円、社会全体から俯瞰すれば、いわゆる底辺の若者たちばかりが出てくる。
月給18万円の漫画喫茶店長と、そこに入ってきた東大法科大学院生のバイトくん。
ショッピングセンターのアパレルショップで働く、体育会系のノリだけで服を売る女の子たち。
パチンコ屋のオーナーだった父が亡くなり、会社を退職した後に店を引き継ぐ息子と、前科持ちばかりが揃ったバイトたち。
元バンドマンだが鬱になってしまって嫁の実家に転がり込んだ先で始めた農業で苦闘する夫婦。
そして最終話、宅配会社の仕分けをしていたバイトのリンコが河川敷で出会ったヒキオタニートのホームレス青年、リュウセイと奇妙な生活を始める。
元々リュウセイはあるゲーム会社の立ち上げメンバーで500億円の資産があったのだが、自分が面白そうだと思った事業に悉く失敗して文無しになる。
それは普通の人から見れば失敗にしか見えない。しかし、本人からすれば楽しかったから問題ないのだ。
「そもそも貨幣経済は信用という土台の上に成り立つ砂上の楼閣だ」
「問題は、この世の中に存在するほとんどのものがカネで買えることだ。だからみんなカネを欲しがる。ならば、答えは簡単だ」
「カネで買えないものを増やせばいい」
「それが楽しさだ。楽しさはカネとは無関係だ」
すべてのモノ、コトに値札を付けるのが資本主義だ。愛はカネで買える。
カネでなんでも買えるということ言う人たちがいるこの世界で、じゃあカネを持ってない人たちには価値はないのだろうか。
カネは無いけど、楽しさがある。
この小説に出てくる人たちは底辺ばかりで、どうしようもない底辺ばかりだ。
なのに、どこか楽しそうだ。もうどうしようもない、これ以上何もできない、そんな悲壮感は伝わってこない。
どうしようもない状況でも、それを肯定してくれる救いのある小説が、同じ経験を共有する同世代から発信される。
そういった薬のような小説が、この時代に必要とされているのかもしれない。