【感想・ネタバレ】神を見た犬のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ブッツァーティは初めて読むが、非常に良かった。
幻想的、と帯には書いてあったが、どちらかと言えば、昔話の様な雰囲気があり、不思議な気持ちになる。

だが、様々な強迫観念や死への恐怖と生への執着(とまではいかないかも知れない)、そして理不尽さが描かれている。

表題作について。
神を信じない村に現れた、不思議な犬。
彼と狡猾なパン屋の男、隠修士を中心にして、人々の間に疑心暗鬼が広がっていく…
その互いを探りながらの駆け引きの様子がとても良かった。
結局、神を信じず、口からは罵倒の言葉が出るような人々でも、知らぬ内に深層では信じている、みたいな話が面白かった。

どれも面白い話ではあったが、特に7階、グランドホテルの廊下は秀逸。
ただ、小さな暴君はひたすらに胸糞が悪かった。

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2020年09月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小説というよりは、寓話集。というか昔話集、と言いたい趣きすらある。
というのもマックス・リューティの所謂「昔話3回」の方程式があるからだ。
またカフカに比されるのは作者としても不本意だろうが、しかたない、と「変身」および短編数作しか読んでいない者でも感じざるをえないくらい、カフカチック。
というか同じグラデーションに安部公房も星新一も筒井康隆もいて、その源流を仮に想定するならカフカと言わざる得ないくらい、カフカのすそ野が広いせい、なのだろう。
寓話的な短篇の中にあって、やはり個人的な好みは、比較的長めの小説的な数作だ。
「コロンブレ」「神を見た犬」はまだ寓意強めだが、「七階」「護送大隊襲撃」「小さな暴君」「戦艦《死(トート)》」は極私的短編アンソロジーに入れたいくらい、短編小説の見本として輝いている。
というより、そのエグさ・涙腺刺激度数は他に類を見ない。
このへんにこの作家の良さを見出してみたい、そして今後「タタール人の砂漠」を読もう。

■天地創造……天使がデザイナーという視点は面白いね。
■コロンブレ★……近づいたら死ぬと言われた海に、むしろ憧れてしまう。そして老いてから相対する、これも死そのものだ。最後はひどく皮肉。
■アインシュタインとの約束……地獄の大悪魔たちの望みなのだ」……早く原爆を造れ、という人類史的悲劇の暗示?
■戦の歌……人物も群衆も匿名の、山尾悠子が好みそうな。
■七階★……これは凄まじく怖い! 役場のたらい回し的なもどかしさを飛び越えて、もはや死と老いそのものを描いている。この窓のブラインドのSEは「悪魔のいけにえ」の鉄扉の音かもしれないくらいだ。
■聖人たち……聖人が死後「納められる」という発想は一般的なのだろうか? 独特なオトボケ感。
■グランドホテルの廊下……コントだね。関係ないけど、全裸でビジホのドアから出てしまったときの、酔い醒める瞬間よ。S県のアパホテルにて。
■神を見た犬★……ディストピアを描くのはだいたいSFというジャンルだが、この作品は相互監視という現実にある集団心理を、SFに頼らず描く。なおかつディストピア、ニアリーイコール、ユートピアなのだ、という視点は保持されているのである。ユニークに皮肉を描いており、面白い。
■風船……すべてを見通せるかわりに、とある感覚を失っている、という設定は、まるで「ベルリン・天使の詩」のようだ。その設定を引き破るかのような悲鳴の、強烈さ。
■護送大隊襲撃★……頑固一徹親父の幻覚に過ぎぬのかと思いきや、幻想が現実を食い破ってくる! 浪花節と言えば言い方は悪いが、そのギリギリ手前のリリシズムおよびダンディズムがある、かと思いきや、なんというラストの軽やかさよ。とても映像的な幻想文学。イーストウッドに任せたい。
■呪われた背広……星新一ブラック味120%。源流はたぶんカフカなんだろうけれども。
■一九八〇年の教訓……「神を見た犬」の同工異曲。
■秘密兵器……星新一よりは筒井康隆の味か。
■小さな暴君★……これは怖い! 単純な癇癪ではなく、ひと呼吸おいて、大人の持つそれぞれへの悪意を観察しているところが。サイコパスと一言で言って片づけることは、この作品ではできない。家族の持つ歪みを、敏感に吸収して歪んでしまう少年の歪みを、歪みをそれでも取り繕おうとしていた大人のうちで「綻び」になってしまった祖父が、暴いてしまう。暴かれた姿はもはや大人の手に負えない、もとは大人が熟成してきたものなのにもかかわらず。実写にするなら「危険な遊び」のころのマコーレー・カルキンくんだね。
■天国からの脱落……本作では「ベルリン天使の詩」だけでなく、「かぐや姫の物語」をも彷彿。
■わずらわしい男……この作家の描く神や天使や聖人はひどく人間的に辟易している。
■病院というところ……この作者で病院といえばもはや「七階」だが、迫り方の角度は結構違う作品。
■驕らぬ心……サキやオスカー・ワイルドの短編にもありそうな、皮肉と温かみの綯い交ぜ。
■クリスマスの物語……他人に不寛容を示した瞬間に、その場にいた神が消えてしまう、という描き方が面白い。あったかい気持ちこそが神なんだよ、と言い出せば神学的に話がずれてしまうかもしれないが、ブッツアーティは厳密な一神教という感じはしないね。
■マジシャン……作家ならではの寓話。
■戦艦《死(トート)》★……「護送大隊襲撃」と同工異曲だが、本のレビューという枠物語がある。とはいえ安穏としたレビューではなく、結論はない。世界へ開かれている。投下された爆弾を、読者が受けざるを得ない作りになっている。(漱石「こころ」の第4部があえて書かれなかったように)
■この世の終わり……忽然と現れるのはモノリスだったり、ばかうけ(小説「あなたの人生の物語」=映画「メッセージ」の)だったりするが、本作では割と凡庸に握りこぶしなんだな、と連想。

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2019年05月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

イタリアの作家ブッツァーティの短編集。「タタール人の砂漠」が非常に良かったので読んだ。「タタール人の砂漠」ほどは揺さぶられなかった。

幻想的な雰囲気が漂う作品が多い。時代設定が少し昔だったり、物語の舞台が田舎がだったりすることで、今自分がいる世界とは地続きのようだが実際に見たことはない世界のストーリーとして感じられるからだと思う。
特に「護送大隊襲撃」は、ヘミングウェイの「敗れざる者」を彷彿とさせる佳作だと感じた。


護送大隊襲撃
捕らえられた山賊の首領プラネッタが(微罪のみしか問われなかったことから)3年後に釈放される。しかし刑期に衰えた彼を昔の仲間が迎えることはなかった。一人過ごしていると、山賊志願の若者が弟子にして欲しいと言って来る。自分の現況を細かく話さずにいたプラネッタだが、若者もいつしか現在のプラネッタの状況を知ることになる。失意の中、プラネッタは税金を積んで都に向かう護送大隊を襲撃することを決意する。

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2018年11月29日

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